ドリシィ・ドール(21)
「──本当に。黙っていて、ごめんなさい」
薄い紫のワンピースを着たドリシィが、顔を伏せた。
「ドールに囲まれていることを隠すのは、ママの仕事を隠しているようで──私はママの仕事を素晴らしいと思っているのに、やっていることはまるで正反対で。凄く苦しかったけど。
でも、私──ずっとドールに囲まれていると、自分までがドールになっていくようで‥‥怖かった。月の学校へ行った時、お人形さんって、いじめられたことがあって。でもずっと、ママのいない船の中にいると、本当にドールになりそうで。私、とても怖かった」
──私は、ドールじゃないです。
あの言葉には、どれだけの意味が込められていたのか。
「舞踏会のシステムは、ママから私への贈りものなんです」
ドリシィが云った。
「小さい時、星の舞踏会に憧れて、設計図を描いていた私の夢を、実現してくれました。でも私──泣いたそうです。王子様がいないって。一人じゃ舞踏会に行けないって。ママが王子様も作ってあげるって云ったんですが、断固拒否、だったそうです。王子様は作るものじゃない、運命で出会うものだって」
「情熱的な子供だなあ」
「──その。その頃好きだったコスモ放送の子供番組で、そういう話があったみたいで」
ドリシィは、ポッと赤くなった。
「それで私、決めたそうです。王子様と一緒じゃなきゃ、舞踏会には行かないって。本当に子供じみた理由だと思いますけど。‥‥でも、結局ずっと、私は一人で舞踏会へ行く気にはなれなかった。
ドールにエスコートされるのは、いや。憧れの星の舞踏会へは、一番好きな人と行きたい。そんなことは、この船にいる限り決して起こらないと思っていたけれど。夢月さんのおかげで──起こりました」
ドリシィが、腰の位置をずらした。俺との距離が、ぐっと縮まる。
「ありがとう、夢月さん。今日のことを──十七歳の誕生日を。私、一生忘れません」
「‥‥うん」
重ねられた手。閉じられた緑の瞳。
もう迷うもんか。俺はそっとドリシィに顔を寄せて──え? 十七歳?
「十七歳って‥‥俺がこの間十五歳になったばっかりだから‥‥」
「あ! じゃあ、おねえさまは、私だったんですね!」
ドリシィの返事に力が抜けた。おねえさまって単語を、ここで使うか!
しかし──絶対に同い年か、下手したら年下だと思っていたのに。
まさか、年上だなんて。
「十七歳じゃ‥‥ダメですか?」
ドリシィが、ちらっと拗ねた。
左の頬を軽くふくらませて、その上目遣いの可愛らしさに、俺はクラクラする。
「ダメじゃないよ。俺は全然ダメじゃない。でもドリシィは、いいの?」
「何がですか?」
「俺が年下でも」
「うーん、おねえさまって呼べなくなるのは残念ですけど」
「そういうことかい!」
「冗談です」
ドリシィはいたずらめいた瞳で笑うと、俺の顔を覗き込んだ。俺は怒ったフリをしようとしたけど。
「むーつき、さん」
ドリシィがキスをせがむように、目を閉じた。息を止めたその姿は、まるで本物のドールみたい。だけど違う。中身は、意外に強引で、無邪気で、泣き虫。時に少し我儘だけど、健気で、素直な女の子。俺が惚れてしまった──とびきり特別な女の子。
かなうわけ、ないじゃないか。
焦れてひらいたドリシィのまぶたを、苦笑いして、右手でふさいだ。
そして、三度めの正直。
カチッと動いたミューゼルの電源を、ドリシィが素早くオフにして。
「大好きです、夢月さん」
──背景に、フワフワの星屑を一杯に散りばめた気分で。
俺とドリシィは、宇宙で一番、甘ったるいキスをした。
<ドリシィドール> ~ Fin! ~




