表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリシィ・ドール  作者: 月ノ葉森羅
21/21

ドリシィ・ドール(21)

「──本当に。黙っていて、ごめんなさい」


 薄い紫のワンピースを着たドリシィが、顔を伏せた。


「ドールに囲まれていることを隠すのは、ママの仕事を隠しているようで──私はママの仕事を素晴らしいと思っているのに、やっていることはまるで正反対で。凄く苦しかったけど。

 でも、私──ずっとドールに囲まれていると、自分までがドールになっていくようで‥‥怖かった。月の学校へ行った時、お人形さんって、いじめられたことがあって。でもずっと、ママのいない船の中にいると、本当にドールになりそうで。私、とても怖かった」


 ──私は、ドールじゃないです。

 あの言葉には、どれだけの意味が込められていたのか。


「舞踏会のシステムは、ママから私への贈りものなんです」


 ドリシィが云った。


「小さい時、星の舞踏会に憧れて、設計図を描いていた私の夢を、実現してくれました。でも私──泣いたそうです。王子様がいないって。一人じゃ舞踏会に行けないって。ママが王子様も作ってあげるって云ったんですが、断固拒否、だったそうです。王子様は作るものじゃない、運命で出会うものだって」

「情熱的な子供だなあ」

「──その。その頃好きだったコスモ放送の子供番組で、そういう話があったみたいで」


 ドリシィは、ポッと赤くなった。


「それで私、決めたそうです。王子様と一緒じゃなきゃ、舞踏会には行かないって。本当に子供じみた理由だと思いますけど。‥‥でも、結局ずっと、私は一人で舞踏会へ行く気にはなれなかった。

 ドールにエスコートされるのは、いや。憧れの星の舞踏会へは、一番好きな人と行きたい。そんなことは、この船にいる限り決して起こらないと思っていたけれど。夢月さんのおかげで──起こりました」


 ドリシィが、腰の位置をずらした。俺との距離が、ぐっと縮まる。


「ありがとう、夢月さん。今日のことを──十七歳の誕生日を。私、一生忘れません」

「‥‥うん」


 重ねられた手。閉じられた緑の瞳。

 もう迷うもんか。俺はそっとドリシィに顔を寄せて──え? 十七歳?


「十七歳って‥‥俺がこの間十五歳になったばっかりだから‥‥」

「あ! じゃあ、おねえさまは、私だったんですね!」


 ドリシィの返事に力が抜けた。おねえさまって単語を、ここで使うか!

 しかし──絶対に同い年か、下手したら年下だと思っていたのに。

 まさか、年上だなんて。


「十七歳じゃ‥‥ダメですか?」


 ドリシィが、ちらっと拗ねた。

 左の頬を軽くふくらませて、その上目遣いの可愛らしさに、俺はクラクラする。


「ダメじゃないよ。俺は全然ダメじゃない。でもドリシィは、いいの?」

「何がですか?」

「俺が年下でも」

「うーん、おねえさまって呼べなくなるのは残念ですけど」

「そういうことかい!」

「冗談です」


 ドリシィはいたずらめいた瞳で笑うと、俺の顔を覗き込んだ。俺は怒ったフリをしようとしたけど。


「むーつき、さん」


 ドリシィがキスをせがむように、目を閉じた。息を止めたその姿は、まるで本物のドールみたい。だけど違う。中身は、意外に強引で、無邪気で、泣き虫。時に少し我儘だけど、健気で、素直な女の子。俺が惚れてしまった──とびきり特別な女の子。


 かなうわけ、ないじゃないか。


 焦れてひらいたドリシィのまぶたを、苦笑いして、右手でふさいだ。

 そして、三度めの正直。

 カチッと動いたミューゼルの電源を、ドリシィが素早くオフにして。


「大好きです、夢月さん」


 ──背景に、フワフワの星屑を一杯に散りばめた気分で。

 俺とドリシィは、宇宙で一番、甘ったるいキスをした。




<ドリシィドール>   ~  Fin!  ~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ