初めての悪戯仲間
てゐっ!
「整理すると……私の作った罠にあんたが落ちて、その後に抜け出して、穴を修正したってこと?」
「さっきも言ったが正解だぞ?」
まさかそんな事をする奴がいるとは思わなかった。
「何で私が罠を仕掛けたって分かったの?」
「いや、あの状況で逃げるとか犯人しかいないだろ」
「縄を取りにいってくれたかもしれないウサよ?」
「いや。お前飛べるだろ」
何で分かったの!?
サラッと言ってのけた人間に私は驚く。
「いやいや。お前喋ってたし、去り際に じゃあね! って言ったし」
「そんな事でバレるなんて……」
「普通分かると思うんだが……」
そこまで言われると、逆に私がバカみたいに思えてきた。
確かに兎が喋っていたら妖怪だと思う。それに妖怪には、飛べる奴が多いし。
「じゃあ何で私が戻ってくるって思ったの?」
「何となく。お前は人間を簡単に見殺しにはしないように感じた」
「光栄ウサね……」
思ってないけれど。
ただ、見に行く際に、同じような事を思っていたから、少し恥ずかしいのはある。
「まあ後は……」
「?」
「罠に嵌められたからな。自分の作った罠に落ちるって屈辱的じゃね?」
人間は ニヤリ と笑った。
その顔を見て思う。
「私は因幡てゐ」
「俺は楽冶だ」
「それじゃあ」
「ああ」
「「色々やりますか」」
私と同じ趣向だな……って。
この人間……楽冶とお互い黒い笑顔で握手を交わした。
「やはり唯の落とし穴じゃあ、つまらない」
「じゃあどうするの?」
「うーん……蛇とか?」
「よし。やろう」
楽冶との話し合いの結果、罠に色々なものがプラスされることとなった。
今のように蛇入り落とし穴とか。
ロープで逆さ吊りだと思えば、まさかの切れたりとか。
三重トラップを仕掛けて、三個目が発動したら一個目から発動しだすトラップとか。
「待ちなさい!てゐ!楽冶さん!」
「待てと言って待つ奴は極僅かだ!」
「いつも言ってるよそれ」
よく鈴仙や兎たちを罠に掛けた。
特に鈴仙を。兎たちはあまり頭がよろしくない為、簡単な罠に引っ掛かってしまうのだ。
二重トラップを仕掛けたら、見え見えの一つ目の罠にかかるくらいに。
その点鈴仙なら疑ってかかってくる為、三重トラップなど作りがいがあったと言える。
それはもう色々やった。
人と一緒に行動して、ここまで楽しかったのは、初めてかもしれない。
いや。初めてだろう。私は今まで永遠亭の三人と、周りの兎達としか接点がなかったのだから。
そう思いだしてから、楽冶に対する気持ちが、少し変わっていたような気がした。
ただの悪戯仲間ではなく、大切な何かへと……
「…………」
「「…………」」
やらかした。
鈴仙を嵌めるために作った罠に、違う人物が嵌ってしまった。
朝一番早く起きるのは鈴仙であるため、トイレの前に石灰落とし穴を作ったのだが、それに嵌ったのは鈴仙ではなく……
「てゐ。楽冶」
「「…………」」
この永遠亭の主。蓬莱山輝夜……姫様だった。
いつもより低い声で話す姫様に恐怖したものの、こちらを見る姫様の顔には石灰がべっとり着いていたため。
「アハッ!アハハハハハ!」
「ウッサッサッサ!」
二人で吹きだしてしまった。
「二人とも……」
さらに一段と低くなった声が響く。
「覚悟は……できてるんでしょうね」
ダッ!
逃げた。二人で。
それ程に、姫様の声は重かった。
だが横を見ると……楽冶がいなかった。
「あれ?」
もう一回姫様の方を見ると、タオルを持っていく楽冶の姿が。
「ええー。そこで裏切るの?」
ちょっと楽冶を恨んで、そう呟いたその瞬間。
ヒョイ
「え?」
「やっと捕まえたわ」
後ろから脇に手を入れられ、持ち上げられた。
この声。そして背中に当たる、胸の感触。
私の顔はギギギっと音をたてるように、後ろを向いた。
「……お師匠」
「よかったわね。てゐ」
全然よくない。むしろ絶対に悪化する。
「お仕置きの時間ね」
「ウサアアアア!」
私の声は、竹林に木霊した。
「よお。てゐ。気分はどうだ?」
「最悪」
「だろうな」
ぐるぐる巻きにされて、逆さに吊るされている私のところに、楽冶がやってきた。
「裏切り者ー」
「いや。後ろに永琳いたの。気付かなかったのか?」
「全然……」
だが気付いていたら、楽冶の行動は素晴らしいものである。
というか、私も楽冶の方に行ってれば、こうなっていなかったのではないか?
「そうだな。あそこで逃げたら、完全に輝夜狙いだと思われる」
「ミ……ミスッたあ~」
涙がでてくる。悔しさで。
こうなるなら、最初から姫様を狙えばよかった。
「いや。それは違うだろ」
「そうウサ?」
「自分で分かってるじゃねえか……」
「え?」
何故バレたのだろうか。
基本的に嘘をついてもバレないのに……
「お前の ウサ って大体嘘ついてる時か、隠し事がある時だぞ?」
「嘘!?」
「本当」
ショックだ。そんな癖があったとは……今まで楽冶には、どんな嘘でも筒抜けだったのかと思うと、また涙がでてくる。
「いや、嘘泣きすんなよ……」
「嘘じゃないウサよ」
「……」
「……あ」
「とりあえず……縄解かなくていいか?」
「解いてください。お願いします」
とまあ。色々思い出してしまったけれど、どこに楽冶を好きになる要素があったんだろうねえ……
自分でもよく分からないよ。
だけど……好きなものは仕方ないよね……
「とりあえず、先手を打つのには成功したし」
狙ったわけでは無いけれども。
それでも、先手を打てたのならば、大いに利用するまでだ。
そう思った私は、椅子代りにしていた石から飛び降りて声をかける。
「楽冶~!そろそろ帰るウサよ~!」
「うん!分かった!」
両手に筍を持った楽冶が走ってくる。
私はその筍を、持ってきた籠にいれて
「じゃあ、万が一逸れないように、手を繋ごうか」
「いいよ!てゐお姉ちゃん!」
小さくなった楽冶と手を繋ぎ、二人で永遠亭に帰っていった。
実際てゐはこんな感じだと思うんですよ。はい。
勝手な解釈で申し訳ないですが…
てゐは ウサ を指摘された事によってウサ混じりの口調に。
嘘がバレないようにー
って感じですね




