私は何系?
すいません。どうしても外せない用事があって遅くなりました。
豊姫√へ
「いや。無理」
「え〜!何でよ!」
豊姫の願いをバッサリと切り捨てる俺。別に桃をとるのが嫌なわけではない。意地悪をしているわけでもない。というか、ここからとれるならとってやってもいい。だがな……
「ここからとれる位置のはお前が全部とってるだろうが!」
「……てへっ」
ここから手を伸ばして何とかとれそうなところには、一つとして実がなっていなかった。こいつめ。また桃を勝手にとって……依姫に怒られても知らんからな?
「じゃあ飛んでとってくれればいいじゃない」
「いやいや。それならお前のが早いだろ」
「ふふ。とってもらったほうが嬉しいのよ」
「そんなもんか?」
「そんなものよ」
そんなもんか……じゃあ仕方ない。とりにいってやろうではないか。男は女性に喜ばれると思ったらやってあげたいと思うものなんだよ。うん。
俺は窓の下にある机を乗り越え、丸い窓の桟の上。集中するために、そこにしゃがみこむ。そして俺は飛ぼうとする……結構時間かかるけど。
そして俺は集中していたから気が付かなかったのだ……ニヤつきながら近づいてくる豊姫に。
「楽冶」
「何だ?今集中して「一年前のお返しよ!頑張って!」え?」
トンっと手つきは柔らかかったが、力強く俺の身体は押された。すでに浮いていれば多少バランスを崩しはするものの、飛んでいることができていたと思う。しかし豊姫が押したのは……俺が飛ぶ前であった。
「豊姫……やりすぎだぞ」
「ご、ごめんなさい。あんなに綺麗に落ちるとは思わなくて……」
「思いっきり背中から落ちたからな。頭から落ちなくてよかったぜ……」
豊姫の部屋に敷かれた布団に、豊姫よりも一足早く寝かされている。運良くというか咄嗟というか、背中から落ちた俺は少し受け身をとることができた。といっても二階から落ちているのでその衝撃は凄まじく……背中とか腕とか足とかを打撲してしまっている
。
豊姫に「私が担ぐから!」と逆お姫様抱っこをされてしまったのは(精神的に)痛かった。しかし腕を完全に痛めてしまい、何かを掴むこともできなかったので仕方がない。
ただただ……恥ずかしかった。
「いいじゃない。一回くらい経験しても」
「落としといて何て言い草だ。それに恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ」
「それについては本当に申し訳ないわ……」
「よし。打撲が直ったらお前にも恥ずかしい持ち方をしてやる」
「……どうする気?」
「両足を持って逆さに持ち上げる」
「やめてよ!ぱんつが見えちゃうじゃないの!」
顔を真っ赤にしながら青いスカートを押える。いや、心配しなくても本気でやろうとは思ってないからな?
「本当に?」
「俺がやると思ってるのか?」
「……やらないの?」
「やるか!レイセンならまだしもお前に!(権力的な意味で)」
「……今、何て言ったの?」
豊姫の表情が急に無表情になる。いや、微妙に。本当に微妙に笑ってるような気がする……けど何だこのケタケタ笑いだしそうな感じは。
「いや。そのだな……」
「何て言ったの?」
「……お前にはやらないぞ?」
「その前」
「え?」
「ソノマエ」
ひいっ!こえーよ!マジでケタケタなってるぞコイツ!いったい俺が何をしたって言うんだ!
逃げ出したい衝動に駆られるが身体が打撲だらけだし、もし打撲していなくても逃げたら素粒子になる未来が見える。よもや俺にこんな能力があったとは!
「ふざけないでくれる?」
「はいっ!レイセンならまだしも!です!」
俺の顔に一瞬で近づき、恐怖で下をみることはできないが、おそらく扇子であろう物体が俺の首筋に当てられている。少しでも嘘を言えば、このまま殺すとでも言わんばかりに。
それに対する俺の反応は、ふざけることなく素直に答える。だった。
「どういう意味?」
「どういう意味……とは?何に対して?」
「……レイセンのほうが魅力的とか……そういうことかって聞いてるのよ」
「……へ?」
レイセンのほうが魅力的かどうか?そう言われてレイセンの体躯を思い出してみる。垂れた耳。のほほ〜んとした顔。ブレザー服。失礼っちゃ失礼だけど小さめの胸……なんつーか今思ったら、てゐを月の兎みたいに紅い目にして鈴仙の服着せたらあんな感じじゃね?実際見たら違うんだろうけどさ。それにあそこまで小さくないし。
で。それと豊姫?うーん……ジャンルが違くね?レイセンは可愛い系だけど、豊姫は……可憐?おっとりお嬢様って感じもするし。まあ……比べられなくね?
「……分からん」
「ちょっと。何よそれ」
「いやだってジャンルが違うんだって!ほらレイセンは可愛い系だろ?お前は……」
「私は?」
「なんつーか……可憐系?でいいんじゃね?お嬢様だし。うん。可憐だ。可憐だよ豊姫は」
そこまで言ったところで、豊姫が完全に後ろを向いていることに気付く。何だどうした?さっきまで怖い表情してたのに……いやむしろ、ここから本気か?いきなり振り向いて素粒子か?
「ら、楽冶……?」
「何だ?って大丈夫か?」
何故か消え入りそうな声で言ってくる豊姫を心配する。
「だ、大丈夫よ。それで、その……」
「うん?」
「あなたはレイセンにはして私にはしないってことは……可愛い系のほうが好きなの?」
え?あ。どういう……ああ。そうか豊姫も女性だし、男がどっちが好きなのか気になるってことか?俺は可愛いからレイセンにしたわけでも、可憐だから(実際おっとりだと思うが)豊姫にしなかったわけでもない。
「ほら。権力的に豊姫にやったら命が危ないからさ」
「……は?」
「ほら。お嬢様にやって問題になったら、下手したら俺死にそうだから……」
プチン
そんな音が豊姫から聞こえたような気がした。あのプリンの裏側のアレを折る時のような音ではない。例えるなら……思いっきり手を叩いたときぐらいの音に……聞こえた。
「楽冶……」
「……何でございましょうか」
またもや無表情になりつつも、どこかに笑みを感じさせる顔。豊姫が振り向かずともその顔をしていることが分かってしまう。ちょっと待ってマジで怖い……
「この……バカー!」
「ぐはっ!!!」
振り向きざまに素粒子ではなかったが、振り向きざまに全身全霊のグーパンチが俺の顔面にヒットした。
依姫?カッコいい系だろ。基本的にはな。
もう少しだけ続くよ!




