月の都のリーダー…は大丈夫か?
前回の宇宙旅行じゃなくて月旅行か。ある意味宇宙だけど。
儚月抄最近読んだばかりなので変だったらすいません。
「よく来てくれたわ」
長い金色の髪。左肩側にだけ肩紐のある青いサロペットスカート。そして瞳の色も髪の毛と同じ金色。綿月豊姫が部屋で迎えてくれた。そこに依姫の姿はない。依姫はちょうど戦闘訓練……こちらでは稽古というらしいが、それの監督をしにいっていて席を外しているらしい。
「ほら。座って座って?レイセンも座りなさい」
「おう」
「は、はい」
俺とは対照的なレイセンの返事。まあ自分の上司にあたるんだから仕方ないよな。俺はタメ口だけど。
豊姫の対面に俺が座り、その隣にレイセンが座る。しかしそこで気分がよかったハズの豊姫の顔が少し曇った気がした。
「レイセン」
「はい!」
「どこに座っているのですか。あなたはここです」
「え?しかし豊姫様の隣に座るなど……」
「そこに座ったほうが罪が重いですよ?軽犯罪と殺人罪くらいの違いがあります」
黒い笑顔で重い声をだしてくる豊姫に対し、レイセンは「ひっ!」と言うといそいそと豊姫の隣に移動した。どっちにしろ罪なのに変わりはないのか?
レイセンが隣に座ったのに満足気に頷くと、豊姫は黒い笑顔からいつも通りの柔らかい笑顔になった。
「それじゃあもうすぐ依姫も来ると思うから、それまで桃でも食べて待ちましょうか」
「豊姫……」
「何?」
「まーた桃勝手に取ったのか」
テーブルの上の籠の中には大量の桃が入っている。前回述べたように、桃が熟れたら収穫して宴会を開く。だが豊姫は桃が大好きなため、我慢できずに取って食べてしまうのだ。
豊姫はクスリと笑うと
「いいじゃない。折角の客人なんだから。しっかりとおもてなししないとね」
「紫には脅されたと聞いたんだが?」
「あら?私たちが本当に脅すとでも思って?」
「俺は……思わないな」
「今の間は何よ」
多分脅してると思ってるなんて言わない。言ったらすぐさま懐に隠しているであろう、一振りで森を素粒子レベルで浄化する風を起こす……だっけ?という危険極まりない扇子で叩かれかねない。本人曰く叩くのは大丈夫らしいが、他の者からするとそんな物で叩かれては気が気でない。
「まあそれは置いといてだな」
「ちょっとお……」
ぷうっと頬を膨らませる豊姫は可愛らしいが、これ以上追及されたら言うしかなくなるので強引に話を変えることにする。
「久しぶりだな」
「……そうでもないわよ。私にとって一年なんて一瞬の出来事だわ」
一年振りだったのか。
「よく覚えてるな。俺なんか全然覚えてなかったぞ」
「私も久しぶりってことしか……」
「私だって全部覚えているわけではないわ。楽冶なんて変な人は覚えてるわよ。というより、あなたなんてそんなに生きていないのだから覚えてないとおかしいわよ。この子は兎だから仕方がないけどね」
「バカにしないでくださいよー!」
そう言われてしまうと俺が悪いような気がする。レイセンはバカにされたことが嫌だったようだが、頭をなでられて笑っている。うん。それもある意味バカにされていると気付こうか。
「失礼します」
ガチャっという音が聞こえてすぐ、凛とした声が部屋に響く。扉のほうを見ると、薄紫色の長い髪を黄色のリボンでポニーテールに纏め、豊姫とは対照的な右肩側にだけ肩紐がある赤いサロペットスカート。瞳の色は強い意志を秘めた赤色。豊姫の妹、綿月依姫が立っていた。
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「ちょっと目を離した隙に遊んでいたので少しお仕置きをしてただけです。お姉様も偶には稽古にきてください」
「行ってるわよ?ただたまたま稽古がお休みの日なの」
「狙ってるんでしょう?もう……楽冶。よく来たわね」
お仕置きと聞いて震えているレイセンに桃を差し出してやると、依姫に声をかけられた。
「おう。久しぶり。豊姫によると大体一年振りらしいな」
「そうね。大体そのくらいと思うわ」
俺に答えながら隣に依姫は座った。俺の対面には豊姫とレイセン。普通に考えると俺の隣に座るのが妥当なのだが、何故か豊姫がまた黒い笑顔と雰囲気を発していらっしゃる。
「お、お姉様。どうされました?」
「依姫。何故あなたはレイセンと同じことをするの?あなたはここでしょう?」
そう言ってレイセンの隣を指差す。
「え?でも「でもじゃありません」はい」
妹であるためか、姉のこの笑顔がどれだけ怖いのか分かっているのだろう。素直に頷いていた。哀れ依姫。
しかし四人いて三対一で座るとは何か寂しいな……
「仕方がないわね」
「ん?」
「楽冶が寂しいと言うので私が隣に座ってあげるわ」
フワッと立ち上がるとレイセンを自分の座っていたところに移動させ、俺の隣に座った。流れるような動作に誰もツッコむことができず、豊姫が俺に声をかけてくるまで呆然としていた。
「楽冶?」
「はっ!何だ?」
「何かボーっとしてたから」
あなたが何かよく分からないことをやるからです。とは言えずに、何でもないと返しておく。俺は何でもなかったが、依姫はそうでもなかったようで。
「お姉様ズルいですよ!」
「何が?」
「自分だけ隣に座るなんて!」
「しょうがないじゃない。楽冶が一人は寂しいって言うんだから」
ぼやいただけで本気じゃなかったなんて……今さら言ってもなあ。というかこの二人の喧嘩に口をはさむのはしたくない。仲裁に入って片腕飛んでいったとか普通にありそうで。
依姫は豊姫の答えにムッとすると、自らも立ち上がり俺の左隣に強引に座った。
「きゃ!ちょっと!狭いでしょ!」
「今回ばかりはお姉様が悪いです。とやかく言われる筋合いはありません」
二人して睨み合うのは構わないが、俺を間に挟むのはやめていただけませんかね?心臓に悪いです。
正面に1人取り残されたレイセンは、状況についていけずオロオロと視線を彷徨わせていた。レイセンと目が合った俺は手招きしてレイセンを呼ぶ。
「何?」
「いや、レイセンも一人は寂しいかなと思ってな」
「そんなことないわよ」
「ま。遠慮せずに座れって」
「え?でも場所が……」
右側には豊姫、左側には依姫。お互いまだ睨み合いをしているこの状況は非常にツラいものがある。そこで俺はレイセンも巻き込んでやろうと思ったわけなのだが座る場所は……レイセンの大きさならあと一ヶ所座れる場所がある。
「ほい」
「ええ!?」
俺の膝の上である。レイセンは驚くと同時に顔を真っ赤にした。そんなに恥ずかしいか?
「遠慮しなくていいって」
「で、でも!」
「……じゃあ「じゃあ私が座るー!」あ」
右側の豊姫が乗ろうとしてくる。だがそれは左側の依姫によって止められた。
「させませんよ!」
「何よ。楽冶がいいって言ってるのよ?」
「それなら私にも権利があるはずですから!」
二人とも。だから俺を挟んでの喧嘩はやめてくれ。そろそろレイセンが脅えだしたぞ?
しかし俺の願いは儚く砕け散り、豊姫は懐から扇子を、依姫は腰にかけていた長刀をとりだして向き合った。
……よし。逃げるか。
「レイセン。逃げるぞ」
「いいの?」
「死んでもいいなら悪いな」
「早く逃げるよ!」
後ろで何かの爆発音を聞きつつ、部屋から逃げることにした。どうでもいいけど家の中で地形が変わる程の喧嘩はするのはやめてくれ!
次はレイセン。書けるかなあ。いや、書きますけれども。




