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東方楽々記  作者: COPPE
第六章 二回目の紅魔館では執事生活
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魔性の女。つまり魔女

むきゅきゅ?



「そう。そこを右に曲がって」

「ん」

「ええと次はそこの本棚を右」

「はいはい」



パチュリーをお姫様抱っこしたまま、指示通りに大図書館を歩いて行く。迷路のような大図書館は俺一人では迂闊に歩きまわることもできない。パチュリーもそれは分かっていたようで、曲がってほしいところは指示をだしてくれるので非常に助かる。



「雑ねえ」

「ん?何が?」



不意にパチュリーが呟く。



「返事とかよ。はいはい。とか」

「じゃあどうしろと?」

「一応執事なんだから……かしこまりました。とかどう?」

「パチュリーお前……俺がそんなこと言ってるのを想像してみろよ」



自分でも想像してみる。パチュリーをお姫様抱っこし、指示に対して「かしこまりました」と言う俺。

……何か痒くなってきたな。



「……気持ち悪いわね」

「だろ?」



納得してくれたようで何よりだ。もしも言う羽目になっていたら、パチュリーの魔法でも直らないような痒さに襲われていたに違いない。

周りを見ていなかったため、一体ここなのか全然分からない。いや、見ていても分からなかったとは思うが。パチュリーは本棚に入っている本の種類で把握しているらしい。といっても種類自体が相当な数あるので、凡人たる俺に覚えられる量でないのは確かだ。



「ここを左に入って、ほら。あそこに狭い隙間があるでしょ?そこに行けば私の部屋」

「了解」



しっかりと説明してくれたので、無事に部屋へ続く道を発見することができた。さっさと部屋に入ってパチュリーを降ろそう。そう思ってスタスタ歩く。

……が。重要なことに気が付いた。



「この体勢だと通れないな」

「今更ね」



パチュリーが言ったように、部屋へ行くには狭い隙間を通らなければならない。その隙間は標準より少し大きかったら、ギリギリになりそうな大きさしかない。もちろんパチュリーをお姫様抱っこしたまま通るなんて不可能だった。



「降ろしていいか?」

「あなたは女性を床に寝かせる気?」

「そんな気は決してございません」

「気持ち悪いからやめなさい。どうする気なの?」



パチュリーに聞かれてどうしようか考える。確かに床に寝かせる訳にはいかない。だからといってこのままでは通れない。持ったまま通るとすれば、パチュリーを頭上高くまで持ち上げる。という方法があるが、あいにく俺にはそんな力はなかった。

そんな俺を見かねたのか、パチュリーは俺の首に腕を回し……



「男なんだから……頑張りなさいよ」



少しだけドキリとする。ずっと持っていたせいで疲れていた腕も、この時ばかりは痺れが消えたような気がした。

お姫様抱っこがまだ恥ずかしいのか、少しだけ顔が赤い。それを見てまた少しだけ心拍数が上がったような気がした。落ちつけ落ちつけ。これはパチュリーの罠だ。何の罠かは分からないが罠なんだ。そうじゃなければ俺の首に腕を回し、いつの間にか身体が少しこっちによってるような気がしないでもない……そんな事をする訳が……ん?



「パチュリー」

「何?」

「降りろ」

「え?」



俺はパッと手をパチュリーの下から引っこ抜く。いきなりやったので、パチュリーは浮く暇もなく重力に従って落下した。



「むきゅっ!?いきなり何するのよ!」

「やかましい!もう身体の硬直はないだろうが!」



身体を起こし、腕を振り上げて抗議してくるパチュリー。それが身体の硬直がもうないということを証明している。



「いいじゃないの。別に」

「他の場所ならかまわんが、お前が降りないと通れないところで、本当はもう大丈夫なのに持っている必要はないだろ」

「だからって落とさなくてもいいでしょうに……」

「遊んでただろお前……ほら」



パチュリーの意見は一蹴する……が、尻もちをついているので立ち上がりにくいだろうと思い、手を差し出す。

それに対しパチュリーは少しだけムスッとしたが、大人しく手をとって立ち上がる。



「こういう所は気が利くのね……」

「ん?何か言ったか?」

「別に……ここまで運んでくれたお礼にお茶でもだすわよ?」

「んー。折角だしいただくか」



パチュリーの部屋は、なんというか……本当にパチュリーっぽい部屋だった。特にこれといった装飾品などはない。だが図書館で生活しているため特別なのか、洗面台があったりする。だがベッドが何故か天蓋つきなので、それだけで部屋が豪華に見える。

さすがにコンロはなく、お茶のお湯はポットを使っているらしい。二つあったソファの片方に座っていると、前のテーブルにティーカップが置かれた。



「どうぞ」

「おお」



パチュリーも紅茶派のようで、置かれたティーカップからは紅茶の匂いが漂ってくる。



「砂糖とミルクはどうする?」

「ん。両方一杯ずつ頼む」



俺の言葉に頷くと二つの容器をテーブルに置き、両方から一杯ずつ紅茶に入れる。紅茶の色がミルクティーの色。透きとおるような茶色から、何とも言い表しがたいミルクティ色へと変わっていく。

完全に変わったのを見計らって、俺はミルクティーに口をつけた。



「うん。上手いな」

「そう?ありがとう」



それからは特に会話もなく、ほのぼのとした雰囲気だった。話すことがないのではない。この雰囲気が過ごしやすく、壊したくないのだ。

しかし、いつまでもここにいる訳にはいかない。この後にはレミリアの部屋に行かなければならないだろう。


「ふう」

「?」

「いや、そろそろ行こうかと思ってな」

「そう」



それだけ言うと、パチュリーは容器を片付けだした。気にしなくていい。そう言われている気がして、俺は部屋をでることにする。



「じゃあな。また明日だ」

「ええ。おやすみ」

「おやすみ」



お互いに挨拶をして、部屋をでる。目指すはレミリアの部屋。

能力を使って早く移動できない俺は、少しでも早く行こうと、早足で向かうのであった。


むっきゅー!

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