3-4 婚約の打診が届きました
「アリシア!アリシア!ちょっと来てくれないか?」
めったに出さないような焦った声を出して私を呼ぶお父様。
「どうしたんですか?ジャガイモの収穫はまだ先ですよ。お父様は、最近ちょっとせっかちですよ。」
私がそう言いながら、お父様の執務室に向かった。
「そんなことないだ...いや!いや!違うんだ、アリシア。」
お父様の執務室に着くと、お父様は自分を落ち着けようと深呼吸をして、話し出した。
「落ち着いて聞くんだ。お前に、婚約の打診が届いた。」
お父様の声が途中から意味のない音となって流れていく。
一瞬の沈黙の後ーー
「ーーーなんですって!そ、それは...もしかしてロラン様ではないですよね?」
私は、お父様に気になったことを確認した。
「何言っているんだ。それは、きちんと解消された話じゃないか。違うよ。」
お父様も理解できないという表情をする。
「もう一つ大事なことを確認させていただきたいのですが...」
私は、思わずごくりとつばを飲み込んだ。
「ーーーその方は、野菜派ですか?肉派ですか?」
両手を胸の前で組み、祈るようにお父様を見つめた。
「...分からない。」
「いや、それより大事なことを聞きたくはないのか?」
お父様は、拍子抜けしたように目をつぶってため息をついてから私を見つめる。
私たちは、しばし見つめ合う。
「ーーー思いつきません。答えを教えてください!お父様。」
私は、お父様に泣きついた。
「その、お相手はーーーグレイス様。エーレンベルク公爵家のご令息だよ。」
お父様は、私に言い聞かせるように手を取って、しっかり確認する。
「はあ~~~~それなら、安心しました。」
私は、長い息を吐き、目をつぶる。
「エーレンベルク家だよ。どこに安心できる要素があった?」
お父様が首をかしげてしまう。
「だって、野菜派に変わりましたもの。一安心です。」
私は、先日確認したから知っているのである。だから胸を張って答えた。
「理由を聞いても一向に理解できないけど、まあいい。」
お父様は私に口を挟ませないように話を進める。
「それよりも、まだ打診の段階だから、近いうちにもう一度どこかで会って話した後に決めていいという破格の申し出だ。」
(そうよね。先日のお話まだ途中でしたものね。最後までお聞きしたいわ。)
「それなら、このグランベル領に来ていただくのはどうかしら?」
私は、自信満々で提案した。
「はあ?こんな野菜畑しかないところにか?」
お父様は、驚いたように両手の平を空に向けた。
「何をおっしゃっているのですか?カフェ開店に向けて、野菜園、果樹園、ハーブ園と整備してきたではないですか?立派な道路になって、最高に素敵なデートスポットになったでしょう?私だったら、ここで求婚されたらすぐにうなずいてしまいそうですもの。」
私は、夢を見るかのように両手を組んで空を見上げた。
「お前がいいならそれでもいいが...問題はグレイス様が了承してくださるかだ。まあ、それでも物は試しだ、そう返事を出してみるか!」
お父様も覚悟を決めて、このお話はおしまいとなった。
後日、グランベル家にはーーー
驚くことに「了承する」という返事が届いた。
今日は、グレイス様がグランベル家に来てくださる日だ。
「ちょっと、本当にそんないつものワンピースでいいの?」
お母様が心配して、私に聞いてくる。
「恋愛のカリスマが立ててくれた作戦でも失敗するときは失敗するのよ。普段通りの私を見ていただいて、気に入っていただけた方がいいでしょう?それでだめな時は、それまでよ。」
私は、肉至上主義者の彼の時の失敗を思い出した。
「姉さまは、なんだか達観していて、大人だね。でも、少しは好かれる努力も必要だよ。姉さまの基準で言えば、グレイス様は同じ派閥なんでしょう?」
エドワードは、本当にしっかりしている。私へのアドバイスも的確だ。
「大丈夫よ。野菜派の同志として、ポプリに野菜の刺繍をしてプレゼントする予定なの。それも、なんと!破格の全種類よ!もう、準備は万端よ。」
私は、手を腰にして、胸を張る。
「それでは、我が領自慢の野菜もつけなければな!今日は、多めに収穫してきたから、いくらでも持って行っていただけるぞ。」
お父様もさすがです!先日食べていただいた野菜がおいしかったと絶賛していただいたから、きっと喜んでいただけるわ。
「それなら、私が作ったジャムも付けましょう。非売品だから、価値があるわよ。」
「みんな黙って準備しているなんて、ずるい!それじゃ、僕が採ってきた卵もつけちゃうよ。」
お母様に続いて、エドワードも参戦してきた。
家族全員、やる気満々で待ち構えている。
グレイス様は馬車で来るのに、すでに荷物がいっぱいになりそうな予感である。
果たして、領地デートはどうなるのだろうか?




