2-4 ランバート商会との縁
執事のユリウスの紹介で、ランバート商会の商会長のルシアン様と屋敷で会うことになった。
商会長自らが来てくれるなんて、本当にありがたい。
「今日は、わざわざこんなに遠いグランベル家まで足を運んでもらって申し訳なかったね。」
お父様もお母様も同席している。
「いや、なになに。何でも新しい商品を見てほしいだなんて、商会長としては見逃せないことですので。」
ルシアン様は、そう言って目を輝かせた。
そして、その後急にかしこまったように表情を改めた。
「この度は、このような貴重な場を設けていただき、本当にありがとうございました。」
そう言って、頭を深く下げた。
「どういうことだい?」
お父様も困惑してルシアン様を見ている。
「実は、この屋敷に働いている執事のユリウスはーー
ずっと音信不通になっていた私の弟です。
商会を出て、どこで何をしているのか?私たち家族も探していたのですが、さっぱりわからず。それが、ユリウスの方から私に直接会いに来てくれて...本当に感謝しています。ユリウスを雇っていてくださって。幸せそうなユリウスを見て、私は本当に嬉しかったのです。」
そう言って、ルシアン様は両手で顔を覆った。
部屋の隅に控えていたユリウスが、照れながら出てきた。
そして、ルシアン様の肩にそっと手をのせた。
ユリウスの目にも喜びの涙が光っていた。
私たちも驚いてしまい、しばらく何も話せなかった。
「そうだったのですか。それならば感謝しなければならないのは、うちの方です。ユリウスはこの家を本当によく支えてくれている。無くてはならない、いわば家族だ。兄弟がつながったのなら本当によかった。こちらこそ、ありがとう。」
お父様もルシアン様の手を取って、優しく微笑んだ。
「ユリウスは本当に幸せ者だ。これからは、こちらの取引をぜひとも進めさせていただきたい。」
ルシアン様は、まだ商品になるかもわからないのにそんなことを言う。
「いや、まずは商品になるか見てもらいたい。領地の果物を甘く煮詰めたものだ。ジャムという。まずは、食べてみてほしい。」
お父様の声を聞いて、ジャムの試食が始まった。
最初は、イチゴジャムを小さく切ったパンにのせて食べてもらった。
ルシアン様は、さすがは商人。
すぐに食べるのではなく、まずじっくりとジャムを眺めた。
においをかいで、それから口に入れ、目をつぶってゆっくりと味わった。
「うん。甘いだけでなく、イチゴの甘酸っぱさを感じて、おいしいね。」
次に、ブルーベリーや桃、リンゴと食べていく。
「それぞれに違う味に、触感も違っていて面白い。なにより、傷みやすい果物が期間を延ばして味わえるなんて、最高だ。いろいろな食べ方を模索できるのも商品として広がりを感じる。」
ルシアン様は、商人らしい視点で次々と感想を言ってくれた。
そうして、最後にーー
「これは、十分商品になります。ぜひ、ランバート商会と取引をお願いします。ただし、これを商品として体裁を整えるのはうちに任せてもらえますか?」
ルシアン様は、商会長の顔でお父様に尋ねた。
「お願いします。うちの領地では、今まで野菜しか特産物がなかった。今回、娘の提案で領地の果物を特産物にできないかと模索し始めたところだった。商品になるのだったら、ぜひお願いしたい。商品として体裁を整えるのは、はっきり言ってお願いできるとこちらでもありがたい。よろしく頼む。」
お父様も、手を出し、ルシアン様と握手を交わした。
こうして交渉が成立した。
あとから、ユリウスに聞いたところ、ランバート商会というのは、新進気鋭で現在伸びてきている商会ということだった。その上、ルシアン様は、新しいものを見つけ出し、販路を広げていくことについて天才ともいえる腕らしい。
これ以上なく頼りになる商会を紹介してもらった。
そんなユリウスにも感謝した。
その後、さすがは新進気鋭の商会。
ジャムを入れる素敵な瓶とラベル、リボンなどを提案してもらい、商品化に向けて着々と進んでいく。
最初は、貴族向けに小さくて、高級感のある商品に仕上げようということで、ラベルの文字を美しく装飾したり、リボンをかわいくつけたり工夫を重ねた。
そうして、数か月。
やっと商品が完成した。
販路もランバート商会の方で見つけ出してもらえるというのでお願いすることにした。
~~ ◇ ~~
ここは、ランバート商会一番の顧客であるエーレンベルク公爵家。
「今日は、どんな商品を紹介してくれるんだい。」
公爵が待ちきれないように声をかける。
「今日は、珍しい食べ物です。こちらをご覧ください。」
ルシアンがジャムとクラッカーを準備した。
「これは、果物を甘く煮詰めたジャムというものです。まずはこのクラッカーにジャムをのせて食べてみてください。」
メイドがジャムをのせたクラッカーを公爵と公爵夫人の前に準備した。
二人は、甘いにおいとおいしそうな見た目に笑顔になった。
そして、クラッカーを口に入れた。
「あら。おいしい。」
「甘いだけじゃないな。果物の味もちゃんと感じる。」
「この瓶も、なんてかわいいの。欲しくなっちゃう!」
二人は、今回の商品を気に入ってくれたらしい。
「今度パーティーでお披露目するのもいいな。決まりだ。これからうちに定期的に届けてくれ。」
ジャムはこうして、グランベル領を代表する商品への第一歩を踏み出した。




