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後から分かったことだが、あいつは4年生で十年に一人の逸材と言われるぐらいの天才らしい。
それからあいつに1度会ってからはよく出くわし、ニコニコしながら俺に手を振ってこっちにやって来る。
格好は毎日ほとんど同じで、あの絵の具の飛び散った黒いTシャツだ。
その中でも1番驚いたのはあいつの周りにはいつも人だかりができ、みんな同じような黒いTシャツを着ている。
きっと
あのときの俺と同じで、絵に吸い込まれてしまったんだろう。
まぁおかげさまで、俺はあそこまでひどくはないが。
前に出会った教室では唯一、あいつが1人でいる時だった。
「やぁ。気が合うね」
いつもあいつが先に座っている。
「どうも」
俺はペコっとお辞儀をした。
絵を見るとやっぱり黒がベースで…。
最初はその絵に吸い込まれてしまう、と自然に思えたが・・
今では吸い込まれてしまう、と恐怖感がでてきた。
俺は気を取り直して空を見上げてキャンパスに青の絵の具で筆をとった。
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どれくらい時間が経っただろうか…
ハッと
気づくと後ろに気配が。
「今日の空はどう?」
奴が後ろで
俺の絵を覗き込んでいる。
気配も消せるのか、こいつは。
「あんた…意味わかんないこと言いますよね」
「そうかな?だって毎日空は表情違うじゃない」
“空の表情”なんて俺だけしか感じないと思っていたのに、
こいつも感じていたのか?
恐怖感の次は敗北感だ。
「君はこの広がる空のように青い人だね」
はっ?!
「あの・・・?」
「今日の空はすごく広がっているから。君みたいだ。この絵も」
俺は何も言い返せなかった。
ただただ呆然としてしまって。
自分の世界が広いと言われ続けていたのが、こいつはこいつだけはそれを俺だと言った。
この広がる空が俺みたいだと。
気がついてみたらあいつの黒い絵だけが残されていて…
本人はその場所から消えていた。




