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しばらくして、ふと後ろを振り返った。
すると
そのキャンパスに描かれた絵を見て、思わず息をすることでさえ忘れた。
真っ黒に塗りつぶされ
所々に散らばっている星たち。
その絵に吸い込まれてしまう
と錯覚するほど、人の心を奪う絵だ。
そいつの着ているTシャツにでさえ吸い込まれそうだ。
絵とよく似ているTシャツにでさえ…
そんな俺を見ていたかのようにそいつは、振り返った。
うっすらと笑みを浮かべ
「今年の新入生には、空の絵ばっか描く、すげぇーうまい人がいるって聞いていたんだ。」
「はっ?」
いきなり話すそいつに、俺の頭はついていかない。
「その」
そいつは、俺の絵を指して続けて言った。
「その絵みたいに君は広がる空のように青い人だね。」
俺が目が点になるのを他所にそいつは笑っている。
「意味わかんねーんですけど…」
多分
年上だと思うから一応敬語で。
「その絵、僕は好きだよ」
今まで俺は人に流されないと思っていたが、
こいつにはなんだか…流されそうになった。
その笑顔と真っ黒な絵に。




