弁当をチンする
僕は山森タケル。1ヶ月程前に、この町に越して来た。大学生活の4年間、ここで生活する。
食事は自炊するつもりだったが、一人前だと案外と金がかかる。食材をまとめ買いすれば多少は金が浮くのだろうが、僕は料理人じゃない。少ないレパートリーでは、毎日が「野菜炒めのようなもの」か、「何かしら煮た鍋」になるだろう。
コンビニ弁当など論外だ。量は少ないし高い。自慢じゃないが僕は食べ盛りのおデブちゃんなのだ。
そんな僕の救世主は、近くのスーパー「ハッピーライフ」だ。小さなスーパーだが、具沢山の弁当が500円という破格。夕方になれば、2割、3割、半額とデブ達の神様のようなスーパーなのだ。
午後7時50分。ほほっ、僕の大好きな「から揚げ海苔タルタルデラックス弁当EX」が売れ残っているじゃあないか! それも3割引きのシール付き。閉店まで後、10分ある。半額シールもあり得るだろう。だが僕はクールなデブだ。他のハンターに取られる前にゲットすべきだろう。僕は、「今日の獲物」を手に取り、紙パックの1リットルの烏龍茶とレジに差し出し「袋はいいです。ストローをください」と告げた。
アパートに戻ると、電子レンジの前に立ち弁当を構える「から揚げ海苔タルタルデラックス弁当EX」のベストチンタイムは、6分30秒。それほどの大ボリュームという事だ。
さて、問題は付け合わせの紅白なますだ。紅白なますは温めたくない。いままでの僕は紅白なますを、一旦取り除き温めていた。
だが今日は…。僕の腹の中の飢えた狼がグルグルと吠え、1秒でも早く飯を食わせろと吠えているのだ。
ええい!ままよっ!
僕は、紅白なますを取り出さぬまま、電子レンジに弁当を突っ込みタイマーのダイアルを、ぐりりっ、とひねり、温め開始ボタンを押したのだ。
チンっ!
運命のゴングがなると同時に、僕は弁当を取り出す。箸立てから、箸をとる。割り箸は使わない。僕はエコを気にしているからだ。故にご飯も残さない。
ゆらゆらと熱い湯気が弁当からのぼる。お腹の餓狼を鎮めながら、まずは大振りのから揚げをひとつとり灯りにかざしてみる。素晴らしいから揚げだ。カリカリとした衣の眺めだけで、ご飯1杯は食べられそうだ。にんにく醤油の香りも香ばしい。匂いで、もう1杯おかわりしてもいい。大きく口を開け、ガブりっと噛みつく。カリリっと衣が爆ぜる音を追って、じゅわりと音が聞こえるかと思えるほどの肉汁が溢れだす。から揚げにタップリとつけられた、この地方の甘いタルタルソースと相まって糖と油のダブルラリアットで脳震盪を起こしかねない。
僕は、気を取り戻す為に紅白なますに箸を伸ばす。いつもは冷たい紅白なますだが、今日のなますは違う。僕にホットな出会いを見せてくれ。
ぱくっ。
悪くない!悪くないじゃないか!温められる事で、紅白なますの酸味が飛んでいる。冷たく酸っぱい紅白なますだと、せっかくの温められた舌がクールダウンしすぎて食の酔いが醒めてしまうんだ。舌が冷めると罪悪感が生まれてしまってちょっと切なくなるんだよ。ようし、まだバトルは始まったばかりだ。覚悟しろよ「から揚げ海苔タルタルデラックス弁当EX」
ふう。熱い闘いだったと、僕は額の汗をぬぐいながら、紙パックの烏龍茶にストローをさして飲む。スマホをつけると壁紙にしているアイドルグループ「スマイルランチ」のリーダーが微笑んでいる。
今は、午後9時15分。
テーブルには空のお弁当。
僕は、スマホを閉じた。
「ごちそうさま。あーあ、彼女が欲しいなあ」




