知らない兄さん
……最悪、こんなに雨が降るとは思わなかった。
夕方、暗くなってきてるし
ほんとに嫌だなあ。
大学、もっと早く帰れば良かった。
私は商店街の屋根の出ている店舗の前に失礼して、雨宿りをしている。
どうしよう、カバンも、服も、髪も
ぜーんぶ頭から足先までぐちゃぐちゃだ。
スマホのアプリで天気予報の雨雲予想を見る。
「ええ、あと30分も降るの…」
ただでさえ頭も濡れて、身体も濡れているのに…。
寒くて震えてきた。
(あー、帰り自販機であったかいコーヒー買っておけばなあ…。)
そんなことを思いながら
そこに座り込んだ。
私は忘れていた、そこが店舗前だということに。
ガラガラといつでも壊れそうな音を立てて
突然扉が開いた。
「うわー、最悪だなあ……」
私は突然後ろから聞こえてきた声の主に驚きつつも、声の主を見た。
そこには、少し
隣には可愛い柴犬がいた。
「なあ、ポチ………………」
多分、ポチと呼ばれている柴犬に話しかけたのであろう声の主と、目が合ってしまった。
「香奈ちゃん!?」
そこには、昔遊んでもらっていた近所のお兄ちゃん的な存在の、雄一郎兄さんがいた。
「あ、え、雄一郎兄さん!?」
私と兄さんは6歳離れている。
私は21歳で、雄一郎兄さんは27歳だ。
「ご、ごめん、ちょっと雨宿りしようと思っただけなの、すぐ去るから、ほんとごめん」
私は急いで荷物をまとめようとした。
「え、待って大丈夫だから!
雨宿りしてていいから!!!」
雄一郎兄さんは何故か私以上に焦っている。
「いや、流石に悪いよ!!ごめん!!」
そう言いながら荷物をまとめて走り出す私の腕を雄一郎兄さんは掴んだ。
「いや待って待って待って!!!
流石に、この雨の中帰らないで!
俺の家、この裏だから
良かったらそこで待ってていいから!!」
「いや、流石に、私全身ビショビショだし」
「着替え貸すよ!!」
私は、さっきのアプリの画面と自分の身体と雨を見て、1回考えた。
「……じゃあ雨が上がるまで…いい…?」
雄一郎兄さんは私が入りやすいように
扉を大きめに開けてくれた。
久しぶりに見る雄一郎兄さんの背中から
知らないタバコの匂いが雨と混ざって
香ってきた。




