表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

欲しがり妹現れ国乱れる~欲しがり妹が多量発生した国の話

作者: 山田 勝

「メンヒルデよ。婚約を破棄する」

「メンヒルデ様、この国は生まれ変わりますわ」

「義姉上、悪しき貴族主義を脱却して、平等、博愛、実力主義の国になります」



 ほお、男爵令嬢が殿下と義弟の後ろに隠れている。

 王宮で皆の面前で私は婚約破棄をされたらしい。

 陛下は病気で伏せり。殿下は摂政になられた。


 追放を宣言している側近の中に義弟ダーヴッヒがいる。

 我が家門は殿下の政権でも残るだろう。


 おかしなことよ。貴族主義が悪ならば、貴方たちから先に特権を放棄すれば良いではないか?


 だが、素直に従うことにした。


「殿下のお心のままに」


 王宮を去り。修道院に向かわずに平民として生きることに決めた。

 幸い私は4カ国語を話せる。

 通訳、翻訳家として生計を立てよう。


 屋敷に戻りお父様とお母様に謝罪をした。


「力及ばず申訳ございません」


「最近、殿下と若手貴族、平民上流層の興隆が著しい。無視できないのだ」

「出て行かないで、このまま暮らしておくれ。きっと、メンヒルデを大事にしてくれる殿方が現れるわ」


「いえ、傷物令嬢ですわ」



 私は少しお金をもらい。

 屋敷を出た。



 翻訳出版の商会の担当者と結婚をすることになった。

 娘が生まれ、それぞれエリザベート、メアと名付け可愛がったわ。


「エリザベートはメアを可愛がるのよ。メアはお姉ちゃんの言うことを聞きなさい」

「「はい、お母様」」


 時々、メアがエリザベートのドレスを欲しがったが。


「欲しーい!欲しーい!欲しーの!」



「エリザベート、メアにドレスを着せてあげなさい」

「はい、お母様・・」


 着させるとやっぱり見事に似合わない。

 姿見の前でメアは呆然とする。


「フフフ、メアはお父様似よ。フワフワの金髪よ。シックな黒髪に合せたエリザベートのドレスを着ると、顔が大きく見えてまるでヒマワリのようね」


「お姉様のように上品になりたいのー、お母様の髪は綺麗なの」

「残念ながら、人は生まれつきの特性があるわ。向き不向きがあるわ」


「グスン、お母様、私はメアの誰からも好かれる性格が羨ましいのです」

「お姉様!」

「まあ、お互いに羨ましがっている。欲しがり姉妹ね」


 実際に着させてみたら、納得してくれたわ。

 それから姉妹仲は更に良くなったわ。


 殿下が即位して、実力主義が宣言された。

 すると、10年もしないうちに欲しがり妹があちこちで現れた。


 強欲で父母の寵愛を良いことに姉の総領娘の座と婚約者を奪う妹や義妹だ。



 そろそろエリザベートは15歳、隣国の学園に通わせようかしら。

 旦那様と相談をして隣国に拠点を移そうとした頃合いに殿下、いえ、陛下が訪ねて来られたわ。

 側近と義弟も一緒だわ。


 夫アルベートは恭しく膝をつき。陛下を迎えたわ。

 私も夫に習う。

 陛下は少し戸惑っているようだ。



「メンヒルデよ・・・顔を上げてくれ」

「陛下、私はアルベートの妻でございます。アルベート夫人とお呼び下さい」


「ああ・・・」


 貴族令嬢として傲慢と思っていた私が膝をつく様に驚いているようだわ。

 私は貴族学園で身分を大事にするべきだと主張しただけよ。



「王宮に来てくれ。令嬢教育を担当し欲しがり妹問題を解決してもらいたい」


「無理でございます。この国は実力主義です。媚びを売り父母の寵愛を独占するのも実力のうちではございませんか?」


「詭弁を!」

「義姉上、陛下の命令ですよ」


 あら、義弟ダーヴッヒは自由主義を主張していたのに・・・


「でも・・どうしてもと言うのなら条件がございます。私のお父様を宰相にして、一族を優遇して下さいませ」



「とんでもないことだ!私は側近の家門でも遠ざけている!平等だ」



 まあ、どうしようかしら。



「それよりも、エリザベートとメア、評判の姉妹だ。王宮に召し。我が子息たちと娶せる」


「まあ、陛下、それは無理というものです。もう、隣国に出発しましたわ」


「「何だって」」


「大丈夫でございます。改革には混乱がつきもの。欲しがり妹の中から才ある者が現れるかもしれません。どうか、耐えて下さいませ」


「しかし・・・」



 何とか帰って頂いたわ。

 陛下の気が変わらないうちに、


「旦那様、荷物はそのままで隣国に行きましょう」

「ああ、その方が良いようだな」



 馬車を夜通し走らせ10日で国境にいけたわ。


「書店ギルド所属のアルベートとその妻・・・か。通れ」


「ありがとございます。さあ、メンヒルデよ。行こう」

「はい、旦那様・・・」


 遠くから土煙が見える。早馬だわ。


「急報だ。公爵令嬢メンヒルデを通すな!」



 大声で聞こえたわ。その頃には隣国の領地に完全に入った。

 この国はどうなるのかしらね。



 この国に来てから4年、エリザベートは学園を卒業し、求婚者が殺到している状態だわ。王宮からお呼びがかかった。

 この国の陛下の署名入りだわ。


 しかし、私はまだ公爵家の身分もある。

 だから断ったわ。


「非才の身で、何ができましょうか?」


 3回目の使者は、この国の王だった。


「輝く太陽である陛下にご挨拶を申し上げます」

「うむ。貴殿はソシリ国の公爵令嬢でもある。内情を聞きたい」

「分かりましたわ。しかし、私は夫人でございます。夫ともども、参内させて下さいませ」



 王宮では大臣たちがいる。

 故国よりも城は小さく城壁は低い。

 大臣達もどこか凡庸だわ。



「ソシリ王国に内乱の危機がある。実力主義が我国にも波及している。どうしたら良いか?」


 ここで私は記憶を探る。この世界ではない。前世の記憶だわ。



「ソシリ王国の陛下は無能ではございません。その元男爵令嬢も社交界での立ち回りが上手いです。

 しかし、実力主義は良いことばかりではございません。夢の話をさせて頂きますわ」



 ある大陸では、異民族が侵入し混乱が生じました。

 大国は分裂し、何百年間も国家が勃興し滅びる様を繰り返しました。


 その原因は・・・過度な実力主義にあったと思われます。


 一代で王朝を築いた英雄も、その臣下が少し力をつけたら、王子を廃し、自らの王朝を作る。

 また、その次代では同じことが繰り返され、人族の愚行の全てが行われたと評されました。


 中には慈愛に目覚めて、自分の出身の部族を遠ざけた君主もおりますが、あっという間に優遇した部族に攻められ、僻地に飛ばされた自分の部族は助けに来ませんでした。



「・・・不思議な話だ。どこの大陸の話か?まあ良い夢の話だな。具体的に我は何をすれば良い」



「これから先は無礼な物言いになります。科は私のみでお願いします」

「許す。これから先は不敬罪無しだ」


「はい、この国は中流の農業国です。実力主義は合わず。かといって縁故主義も問題があります。

身分を問わず賢者を集め。平民の中から親孝行者を表彰し、武勲を立てた者には出世と褒美を与える。これで十分でございます。まず陛下から親孝行を始めるべきですわ」


「分かった・・・して、賢者を集めるにはどうしたら良いか?」


「はい、私を令嬢教育の総監としてお召し抱え下さいませ。私ごとき非才でも重用される。なら、自分ならと多くの賢者が集まるでしょう」


「あい分かった」



 私は転生者、今、話したのは古代中国五胡十六国時代の話。

 英明な君主も晩年は暴君になる地獄の時代。


 過度な実力主義は縁故主義の害とそう変わらない。


「私の代では無理ね」


 後に、お父様とお母様の一族はこの国に移住を決断した。多くの中間から上級の管理職を召し抱えることが出来たわ。


 義弟ダーヴッヒは後ろ盾を完全に失い。

 元婚約者の治政に亀裂を生じた。



 この国は年功序列と実力主義の両方を採用し、賢者が集まり。

 後に国力は増した。


 孫の代でソシリ王国の混乱を鎮圧する名目で介入するのは治まってから別の機会で話すわ。


「「「義母上」」」

「「お母様」」

「「「お祖母様!お誕生日おめでとうございます」」」


 夫に先立たれたけれども大勢の子、孫達に囲まれて幸せだわ。


『欲しがり妹、現れ国乱れる』

 これは家訓にしよう。欲しがり妹本人単体の問題ではないわ。家族、社会、国の問題でもあると伝えよう。


最後までお読み頂き有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お話は面白かった(ざまぁぁぁぁ!!)のですが、メンヒルデが夫をそう称しているという事はアルベートは姓ではなく名前なんですよね? ならばアルベート夫人はおかしいです。 ◯◯夫人とは◯◯家の女主人という敬…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ