この幻想に花束を
昔からある夢をよく見る、どこまでも自分にとって都合のいい夢を。
現実で涙を流した分だけ、夢の中で笑い続ける、そんな幸せな夢を。
誰にもこんなに恥ずかしい夢の事なんて言えないけれど、夢の中の彼女と約束をしてしまったから、せめて文字に残そうと思う。
きっと鼻で笑われてしまうような、私と彼女の夢の物語
最初に彼女と言葉を交わしたのは小学生になった頃だ。
私の小学校時代はまぁ酷いものだった、多分私もダメだったのだろう。
小学校に入るまで私は人の悪意に鈍感だったのだと思う、親も優しかったし、それに今程暗くなかった。
小学校に入る数日前に私は利き手が骨折しギプスをつけた状態で入学した、その頃の子供にとっては物珍しく、弱々しく見えたのだろう、その頃からトイレを覗かれる、上履きを隠される、物を投げられる、とまぁ物語でよく見るようななんともない平凡な虐めを受けていた。
私が初めて触れた悪意だった、最初の内は先生は優しかった、だけれど、私が虐めてきた奴らに少しやり返した時だった、私に向けられていた目線の質が変わった。
きっと彼等にはハンデを背負った仲間を暖かく仲間に入れる優しい子供達と、その優しい子供を蹴った頭のおかしい餓鬼に見えたのだろう。
「どうしてそんな酷いことをするの?あんなに優しくして貰っといて」
先生から連絡を貰った親から開口一番に言われた言葉だ。
先生の態度も変わった。
私に向けられる視線は可哀想な子供から、入学してから数週間で問題を起こした糞餓鬼だ。
そんなある日、私は初めて彼女と言葉を交わした。
『授業始まっちゃうよ!一緒にいこ?』
笑える夢だ、学校に行きたくない、嫌い、って思っていたはずなのに夢の中に唐突に現れた彼女は私の手を引いて教室に入っていく、そこには悪意も哀れみも何も無く、ただ2人で誰も立っていない黒板を眺め、小さな声で言葉を交わし、笑い合う、幸せな時間だった、そんな時間も終わりが来る。
最後に私は彼女に言う
「ありがとう...何か...私からお返しできないかな?」
『して欲しいことならあるけど、まだ秘密』
美しく儚い笑顔で彼女はそう言った。
意味のわからない言葉を交わした、何故か深く頭にこびりついている。
それからというもの、学校や家で嫌なことがある度に彼女の出会った。
彼女は何処までも都合が良く、私の傷を癒してくれる。
『漢字覚えれた?』 『ここの教室少し遠いから朝寝坊すると大変だね』 『暇だし靴占いでもする?』
なんて事ない言葉達が私も救ってくれている、そんな日常を過ごし何とか小学校卒業までありついた。
やっとこの地獄が終わる、それしか頭になかった、ずっと虐めてくる同級生も、助けの言葉を聞かないふりをする先生も、ここで一旦さよならができるきがした。
その日の夜も彼女は現れた。
しかし彼女の様子は少し変だった、なんだか、言葉を選ぶような素振りをしている。
『あ〜...えっと...暫く会えなくなっちゃうね...』
何となく察していた言葉だった。
彼女が現れるのはいつも苦しいと、もう逃げ出したいと思った夜だ。
「...ありがとう」
『別れの日にまでそれ?』
「別れの日だから... は君に救われた」
『ふふ...やった事なんて好き勝手あそび回っただけだけどね』
「そんな君に救われた...だからありがとう」
『...どういたしまして』
初めて彼女が恥ずかしがっているところを見た、それはとても美しく、とても儚い綻びだった。
彼女と再会したのは中学3年生になる頃だった、小学生の頃に私をいじめていな奴らは興味を失ったのか、はたまた、別の何かを見つけたのかは知らないが、私に絡んでくることは少なくなった。
なら何故彼女と再会したか、その答えは簡単だ、学生なら誰しもが通る悩みだ、成績だ。
私は頭が良くなかった、親は常に馬鹿にするような目線を送ってくる。
単純な問題が分からない、漢字を覚えられない、英語を読めない、日本地図を暗記できない、自分なりに精一杯頑張ったつもりだった、それでも点数は伸びない、なんでこんな簡単なことが出来ないのか、何故努力をしないのか、そんな言葉を何十、何百と浴びた、ただ正直な話、小学生の時と比べると屁でもなかった。
なんせ浴びるのは言葉だけだ、痛みは無い。
そう驕っていたある日の事だ。
「いつもいつもどうしてお前はママを困らせるの!?」
そう言い母親は私を殴った。
「口答えをするな!誰の金で食わせてもらってると思ってるんだ」
反抗した私を父親はそう言いながらは私を蹴った。
積もりに積もっていたのだろう、何せ小学生の時から問題ばかり起こす子供だ、姉や妹はそこそこ上手に生きている、どうしても比べてしまうのだろう。
そんな日の夜に中学の廊下で彼女と再会した。
『久しぶり』
明るい声だった
「あぁ久しぶり」
久しぶりの再会だ、そこに喜び以外の感情はなく、彼女も私も何も無かったかのように笑い合う。
「今日は何して遊ぶ?」
『うーん...そうだな、鬼ごっこなんてしない?』
「2人で?」
『うん!』
やけに強く言い切るものだから笑ってしまう。
「鬼はどうやって決める?」
『私が鬼する!今から10秒ね!1...2..』
突然のカウントダウンに慌てて逃亡を開始する。
本気で逃げるつもりはなかった、彼女もだ、追いかけ、捕まえて、今度は逃げる。
そんな関係性の移り変わりを楽しみ、笑う、それだけの時間だった。
幸せな気持ちで目が覚める。
部屋から出ようとドアノブに手を掛けた時にリビングから笑い声が聞こえる。
「あいつずっと自分は悪くないって顔してるの本当に腹が立つ」
「頑張ってるアピール本当に気持ち悪い」
家族が笑いあっている。
一家団欒って奴だ、そこに足を踏み入れる勇気は自分にはなかった。
その日から私の家族はよく私の悪口で盛り上がる、本人がその場にいたとしても、その度に彼女と夢の中で会う。
きっと限界だったのだろう、つい口を漏らす。
「ずっと君といたい」
彼女は顔を真っ赤にしてあたふたとしている、そんな姿にまた笑いを零す。
「一緒に遊びに行かないか?」
思い返せば彼女と学校以外の場所に行ったことは無い。
彼女は照れくさそうに、小さく首を縦に振る。
控えめに手を繋ぎ校門をでる。
小さく、ぽつぽつと言葉を交わす。
そんな中意を決したように彼女は言う
『ねぇ、星を見に行かない?』
「星?」
『そう、星』
夢の中で見る星を眺める、どんな景色になるのか、想像もつかない。
「そうしようか」
『ちょっと遠いけど...いい?』
「うん...好きなだけ」
いつの間にかしっかりと握られた手を引っ張り彼女は言う。
夢の中でバスに乗った、運転手も乗客も自分たち以外居ない。
『楽しみだね...』
「ああ...でも少し眠たいよ...」
『着いたら起こしてあげるから少し寝たら?』
「そうする...」
『...きて、、、起きて』
そう言いながら肩を揺らし私を覚醒へと促す。
『着いたよ』
「...起きたからそんなに激しく揺らさないでよ」
初めて歩くはずの街並みにどこか既視感を覚えながら歩き続ける。
『着いたよ』
「しってる」
もう何年も手入れされていないであろう学校の廃墟の前で立ち止まる。
『...知ってたか』
「あぁ...昔から」
屋上へ向かう、どちらももう言葉を発さない、だけど嫌な静寂じゃなかった。
「そういえば結局秘密ってなんだったの?」
『うーん』
『もう叶えて貰っちゃったんだよね』
「そうなの?」
『うん』
「...なら...うん、聞かなくていいや」
『本当にいいの?』
「うん」
『ありがとう』
『...ねぇ』
「なに?」
『最後に約束しない?』
「いいよ」
『内容聞かなくていいの?』
「今更だ」
そんな会話をしてるうちに屋上に着いた。
『綺麗だね』
「...あぁ」
手を繋ぎ、小さく言葉を交わしながら、真っ暗な空を眺める。
何時間も何十時間も。
『...そろそろお開きにしようか』
「そうだね」
『最後だしこれあげる』
どこから出したのか、なんてことはもう対して重要ではなかった。
それは蒼い花の花束だった。
もう堪えられなかった、どうしようもなく涙が溢れ、彼女の前でみっともなく泣きじゃくった。
しばらくして、落ち着いた私は感謝を述べる
ありがとう
きっと忘れない
約束は守るから
ずっと一緒だ
そう言いながら夜空の下彼女と眠りについた
ここまで読んでくださった読者に感謝を




