表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

そろそろ変身しないと死ぬぜ!


 ……とある雨上がりの日の事。

 戦乙女機関のヴァルキューレ……篝野アカリは、一人で街の郊外にあるとあるトンネルを訪れていた。


 スマホの戦乙女機関特製のマップアプリには、そのトンネルの中にイグザムが居ることを知らせていた。


「この中ね……」


 アカリはそっと首にかけていたオレンジ色のペンダントに手をかけて、そのペンダントをはずし……天へと投げる。


 すると、そのペンダントは空中でピタリと止まると、ペンダントはアカリの周りにドーム状の光を生成する。


 その光の中で、アカリにはボディスーツとアーマーが装着される。下にあった服は次元圧縮により別空間に保管される。


 メタリックオレンジのラインが際立つ銀色の重装甲。その手には、アカリの背丈ほどもあるアックスが装備される。


「……ッ!」


 アカリが、アックスを引きずりながらその光のドームから抜け出す。


 すると、空へと舞い上がったペンダントは、そのトンネルの周りの空間にとある《《魔法》》をかけた。


 イグザムとワルキューレの存在を世間に察知されないための魔法……認識阻害効果のある魔法だ。そう特別なことじゃない何時もの事だ。


いつものように戦って、いつものように勝つだけ……それだけだ。


 唯一いつもと違うのは……相棒のアイが居ない事だけ、アイは現在別のイグザムへの対処で手が離せないのだ。だから、この場にはアカリ一人が来た。


「すぅ……はぁ……」


 アカリは呼吸を整えると、そっとイグザムの待ち構えるトンネルの中へと入る。死地へと向かう緊張は、いつになってもなれないものだ。


 暗がりのトンネルの中……不自然に乗り捨てられた様なバイクが壁にもたれかかっている。


 アカリがそんなバイクを少し妙に思いながら歩みを進めていると……ガシャン!と何かが閉じる音がした。


「っ!?」


 アカリが咄嗟に後ろを振り向くと……そこでは、トンネルの入口が束なった緑の触手に塞がれていた。……その瞬間、アカリは苦虫を噛み潰した様な表情になる。


 どうやら、誘われたようだ。


 この状況を見れば、そう考えるのは当然だ……しかし、どの道去る事はできなかった。ヴァルキューレとして、イグザムは倒さなければならない。敵前逃亡などあってはならない。


 それに、どんな罠であろうと今までかいくぐってきたのだ。今回も大丈夫だ。


 アカリは、その意思の元アックスを構える……すると、トンネルの先にあったのは、無数の触手が絡まり、木の根のようになった、トンネルの塞ぐように立ちはだかるイグザムだ。


「ウ……アァ?……ヒト……メスか?オスか?ドッヂデモ、イイ!」


 そう言って、その木の根のような触手と束から現れるのは、触手と一体化したイグザム……皮に剥けたサボテンを無理矢理人型にした様な姿だ。お世辞にも観ていて気持ちの良い奴ではない。


「お喋り……は、出来なさそうね。」

「ヴァ!メス!メスか!オデ……ウレヂイ!」


 言葉は喋るが会話は出来ないタイプ……この手合は良くいるのだ。コレ以上の会話は無駄だと、アカリはアックスを手にして目の前のサボテン型イグザムへと向かう。


「はぁぁぁぁ!!」

「ヴェ、ヴェ?グる!?のか!?」


 そう言って、そのサボテン型イグザムは無数の触手を伸ばしてくる。アカリはアックスを振るって、迫りくる触手を叩きつけていく。


「デリャ!」

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!イダイ!イダイ!」


 触手もあのサボテン型のイグザムの一部なのか、アカリが叩き切るたびに、そのイグザムは苦悶の声をあげる。


 アカリはその声を耳からシャットアウトして、只管に迫りくる触手を叩き斬って進む。途中触手がアカリの装甲に打ち付けられるが、アカリは全く怯むことなく突き進む。


 目の前のイグザムは急に声を荒げる。


「マ、マッデグレ!ヂ……ヂカヅクナ!グルナ!」

「……!」


 アカリはその言葉には全く持って耳を貸さない。

 目の前のイグザムは敵……敵の命乞いに耳を貸す必要はない。


 アカリは大きくアックスを振りかぶって進もうとする……そこで、目の前のイグザムは不敵に訴えた。


「ソコ、ア……ブナイ!」

「っ!?」


 すると、アカリの後ろの地面を割って触手が飛び出してくる。アカリは咄嗟に身を捩らせて回避するが……その触手はアカリの顔の前くると、その先端がまるで蕾が花開くように開き、花粉のようなものをアカリへと浴びせた。


「がふっ!?……ごほっ……げほっ……!!」


 アカリはその花粉のようなものを浴びると、突然息が苦しくなり体が動かなくなる……まるで痺れ薬でも飲まされたようだ。


 アカリが咳き込みながらそのに蹲ると、サボテン型のイグザムが嘲笑う様に言葉をあげる。


「このトンネル!ゼンブ!オデのモノ!オマエ!オデの毒!吸っダ!」

「ぐっ……こ、こいつっ!」


 どうやら、目の前のイグザムは想像以上にやり手らしい。その知性を感じさせない言動からもっと馬鹿な相手かと思っていたが……まさかこんな搦め手を用意してあるとは。


 どうやら、このトンネル全てが目の前のサボテン型イグザムの一部……と言うよりも、根を張るようにトンネル中に触手を張り巡らせていたのだろう。……甘く見ていた。


 アカリがその場に蹲ると、そのイグザムは声を上げる。


「オ、オマエ!ヴァ、ヴァル……ヴァルギューレ……だな?オデ、もう一人のヴァルギューレも倒ズ!」

「アイ……を?馬鹿……ね、アイならこんな罠に引っ掛からないわ……よ……げほっ。」

「ダ、ガラ!オマエ!人質……ズル!おびぎだす!」


 そう言って、そのイグザムは嬲るようにジリジリと触手を伸ばす……アイが優しいのはアカリが良く知っている。


 自分が人質されていることを知ったら、アイは間違いなく助けに来る……来ざるを得なくなる。そして、自分を盾にされたら、アイもきっと何もできなくなってしまう。


 ……アイまで巻き込むわけには行かないと、アカリは、なんとか手から離してしまったアックスへと手を伸ばすが……次の瞬間、アカリは天井から飛び出た触手に身体を叩きつけられる。


「ぐぁっ!?」

「お、オデ……ヅヨイ!オマエ……より!」


 先程までには完全に舐めプだったのか……自身の装甲の上から叩きつけられる衝撃に、アカリは苦悶の声をあげる。


 アカリの肌に触手が這いずってくる……彼女は咄嗟に目を瞑る……次に何をされるのかはわからない。娼婦の様になぶられるのだろうか?犯されるのだろうか?


 


 イグザムは男女問わず苗床にする事が出来るが……女のほうが構造上より強いイグザムが生まれやすいらしい。奴らはそのために人を襲う。より強いイグザムを生まれさせるために。


 人質と言うからにはすぐに殺すような真似はしないだろうが……しかし、アイに迷惑をかけるくらいなら、このまま舌を噛みちぎってしまうとすら考える。


 イグザムに嬲られるくらいなら、アカリとしてはそっちのほうがマシだ。


(アイ……ごめん……足、引っ張らないようにするから……)




 アカリは間違った覚悟を決めようとした時……次の瞬間、けたたましいエンジン音が辺りに響き渡った。そして、タイヤとアスファルトが削り合う音が響く。


「ン?ン?な、ナンダ?」

「……?」


 イグザムは、その音の方を見るとそこでは独りでにバイクが動き出し道の真ん中に立ちはだかっていた。


 ライトをつけて現れるのは……一台の黒い流線型が特徴的なスポーツバイク。一見すると何の変哲もないバイクだ……


 しかし、それがただのバイクでないことは、イグザムもアカリも次の一瞬で察することになる。


『チェェェェェンジ!!バァァルッ!ナイザァァァァァ!!!!』


 その空間に、似つかわしくない熱っ苦しい音声が響き渡った。


 その音声と共にそのバイクは瞬間、独特な変形音を立てて人型へと変身する……その姿にアカリは見覚えがあった。


「バル……ナイザー……?」


 以前駅の広場で見かけたコスプレイヤー……声から何までその人の物だ。そんな謎の戦士をみて、そのイグザムは声を上げる。


「オ、オマエ!?ナ、ナンダァ!?ナニモン、ダァ?」

「俺が何か……だと、そんな事俺が知るか!」


 そのバイクの怪人はそうバッサリと言い放つ。


「寝起きに凌辱エロゲみたいな光景見せつけやがって……変な気分になっちまったろうが。」

「ナ、ナラ!オデ、ゴノ女!オマエにも貸スゾ!?」

「悪いな、俺ぁもうメスのバイクにしか興奮できねぇんだよ。」


 メスのバイクって何なんだ……?こんな緊急事態にもかかわらず、アカリの脳内にはそんな疑問が湧き出てくる。


 そのバイクの怪人――バルナイザーは、ファイティングポーズを取ると、目の前のイグザムへと言い放つ。


「テメェが何なのか知らねぇが!轢き殺してやる!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ