閑話:一般コスプレイヤーです!信じてください!
俺だ。バイクに転生してしまった哀れなホモ・サピエンスたる俺だ。
俺はあの日から各地を転々とする生活を行っている。
普段はコスプレイヤーとして其の辺の歩き回り、さも一般人ですよ、着ぐるみ着てるだけですよ、みたいな顔でそのへんをうろついている。(マスクに隠れて見えないけどな!)
夜中はバイクの姿になり、そのへんで乗り捨てられたバイクを演じて静かに過ごす。
因みに、あの『チェェェェェンジ!バルナイザー!!』みたいな音声も、あの時、アメーバ相手に使った超常的な力も鳴らないし使えない。
本当に身体能力の良い人止まりの能力しかだせなかった。まるで、体が力をセーブしているようにも俺は感じる。
まぁ、この手の話でありがちな、超人的な力を手に入れてしまい、力の加減に困る!みたいなことはなくて、それは助かっている。
しかし、初めはどうなることかと思ったが、木の葉を隠すなら森の中……案外、人気の多い広場とかに行けば、ちょっと変わった人、程度で特に怪しまれない。
今日も、少し人気の多い駅前の広場にて顔を出してみる。ちょっとコスプレイヤーっぽくポーズもとったりして。
「えぇ、見てあれやばくない?」
「やばいよね?何かの流行り?」
こんな風にギャルに指さされる事もあれば……
「お父さん、あれ何?」
「目を逸らすな、アレは男のロマンだ……お前にもわかる時が来る。」
こんな風に子連れの親子に指を刺される。いや、親父さんめっちゃ感動した目で見てくるんだけど、特撮好きなんかな?
なんかスマホ取り出しでウズウズしだしたぞ……まぁ、別に撮られても構わないから、許可を出す意味合いも込めて親指出してサムズアップする。
すると、親父さんは喜んでスマホのカメラを向けて写真を撮り満足げに子供を連れて去っていった。
……なんか、良いことした気分だ。
さて、適当にこの変ウロウロしたら妖しまれん内に別の場所に……
「あの。」
そんなふうに声をかけられる。声の方向を見ると、そこにはスカイブルー色の髪をしたハイライトの薄い美しい少女が居た。俺は咄嗟に呟く。
「……どう、しました?」
「そのスーツ自作?」
……自作と言うか、自分自身と言うか……まぁ話を合わせるのには慣れている。前世がそんな人間だったからな。
「えぇ、まぁ。」
「……デザインも自分で?」
「はい。」
「へぇ……」
……何ッ!?何この子怖いんだけど!?なんか……なんだろう雰囲気がすげぇ怖い!コッチのこと何でも見透かしてるように見える!
まさかこの娘……この一瞬で俺がただのコスプレイヤーじゃない事を見抜いたってのか!?
いや……そんな訳ない……駄目だ!この目を見るとなんかそうなんじゃないかなって思えてくる!?
「……写真、良いですか?」
「え、あぁはい。大丈夫ですよ。」
そして、俺とそのスカイブルー髪の女の子とツーショット写真を撮った。ポーズをとってほしいご要望にお答えして、某ゆ゛る゛さ゛ん゛的なポーズをとってみた。
写真を撮り終えると……その娘はじっと撮った写真を見つめている……すると、またもや女の子の声が響き渡る。
「おぉい!アイ〜!」
「アカリ。」
やってきたのは、両手にクレープを持ったオレンジ髪の少女だ。アイやアカリと言うのは、この少女達の名前だろう。
「あれ、そちらの方は……?」
「通りすがりのコスプレイヤーです。」
「あぁ……この娘特撮好きなんですよ!」
すると、アイと言うらしい少女はこくこくと頷く……な、なるほどな。納得したようなしてないようなだが……まぁ良いや。
「な、なるほど……」
「あ、お邪魔しちゃいました?」
「えぇ、少し野暮用で……そろそろ失礼しようかと。」
「あぁ!それじゃあ!」
俺はそそくさとその場から立ち去ることにした……あの二人、なんか絶妙に視線が怖いんだよな。まぁ、視線だけで人を判断するのは失礼か。
さて、次は何処にいこうかな……やっぱり、あんまり人気のない場所とかにも行ったほうがいいのかな。俺はそんな事を考えながら、足を進めるのだった。
件のバイク人間……バルナイザーが去った後で、アカリはアイにそっと問いかけた。
「アイ……感じた?あのコスプレイヤーさんから感じた力……隠してるけど、相当な実力の持ち主ね。それにコスプレにしては質感も金属質……明らかに普通じゃないわ。」
「……。」
「改めて見てみるとバイクの意匠もある……まさか、あれがあのおじさんの言っていたバイクの怪人?」
「……。」
「……ちょっとアイ?聞いてるの?」
アカリがアイの方をみてみると、アイは先程撮ったバルナイザーとのツーショット写真をじっと見ていた。アカリがアイの肩を懸命に揺らして、漸くアイはアカリの言葉に気付いた。
「ん……?何、アカリ。」
「アイったら……」
アカリは呆れたように呟く……アイは一つの物事に集中すると周りが見えなくなるクセがあるのだ。どうにかな起きてほしいものだが。
何せ、彼女も自分も秘密裏に設立された組織『戦乙女機関』の一員なのだから。
戦乙女機関……それは、突然現れては人を喰らい苗床にする化け物イグザムに対抗するために作られた秘密組織だ。
イグザム……この前バルナイザーが出会ったアメーバ状のものからオークの様な姿をしたものまで様々な姿形をしている化け物。
人を喰らい、男女問わず苗床にしてイグザムを生み出される化け物。それがイグザムだ。
現れては消えて、消えては現れる……何処から現れているのかは不明。空間を超えて現れるともされている。実に異常な怪生物だ。
イグザムの存在は混乱を招くため一般人には公開されていない情報だ。
そんなイグザムに対抗するのが、戦乙女機関、ないし戦乙女――ヴァルキューレである。
戦乙女、ヴァルキューレ。
その名の通り乙女しかなる事のできない、乙女にしか扱えない力……或いは異能、或いは魔法、或いは科学。それらを操る者を戦乙女と呼んでいる。
そしてその戦乙女にしか、何故かイグザムは倒せないのだ……少なくとも、現在確認されている範囲では。
「アカリ……それは、写真?」
「……カッコよかった。あのレイヤーさん。」
「えっ?……まぁ、確かに見た目はザ・特撮ヒーローでカッコよかったけど……」
「……素敵。」
「……アンタ……大丈夫……?」
確かにガワは格好よかったが……それだけでここまでほおけるとは。アイの特撮好きは知っていたがここまでとは思わなかった……特撮好きと言うか人として惚れやすいのか。
「わからないの?アカリへんなの。」
「いや!?変なの絶対アンタ!」
「あのシックなブラックにクリムゾンレッドのツインアイ。古き良きをわかっている人……闇雲にスタイリッシュにするわけでもなく、かといって芋すぎるわけでもない。無骨さを兼ね備えなスーツ。間違いなく特撮愛のすごい人。」
「お……おう……」
ここまで言われては、明かりもそう言って頷くことしかできない。しかし、あのコスプレイヤー……戦乙女機関に調べてもらう必要があるのかも知れない。
アカリはそんな事を考えて、クレープをアイへと手渡すのだった。
戦乙女機関が、そのコスプレイヤーの素性を一切掴めないことに驚愕するのは、2日後。
再びあのコスプレイヤー……バルナイザーと相まみえるのは、4日後の話である。