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エミリア

「うそつき! おまえのとーちゃんとかーちゃんは、『さぎし』だっていうじゃねえか。だから、おまえもうそつきなんだ!」

 立派なお屋敷で貴族の娘として、王女さまのような暮らしをしていたのに、突然、とうさまとかあさまが騎士たちに連れていかれ、わたしは王都のはずれの孤児院に入れられた。

 黒パンに薄いスープの食事。紺色のお仕着せ。

 こんなの、わたしのいる場所じゃない!

「わたしは、オーレンクス侯爵家の後継者なの! とうさまがそう言ったのよ。うそじゃないわ!」

 わたしは叫んだ。

『うちにかえして!』と、世話をするシスターに訴えたけれど、困った顔をするだけだ。

『エミリアさん、あなたの住んでいたおうちは、もうないのです。ここでいろいろなことを学んで、一人で生きていくことを考えなくてはなりません。まだ六歳のあなたに、理解するのは難しいことでしょうが』

 院長のおばさんシスターが言ったけど、わたしは金切り声を上げて叫び続けたので、一人反省室に入れられた。

 三日して、そこを出てきてからは、孤児院の女の子から無視され続け、男の子から、いじられる。特に一つ年上のジャンという意地悪な男の子はしつこかった。

「お高くとまってんじゃねえよ。どろぼうの娘のくせに」

「ちがうわ! とうさまとかあさまは貴族よ!」

「うそつき。『あいじん』の子で、おやじは『おうりょう』してたって、おとなたちが話していたのをきいたぞ」

「うそつきは、あんたよ! わたしは将来、おうじさまと結婚するんだから!」

 そう言い返したら、ジャンはとうさまとかあさまが『さぎし』だと言って、わたしをつきとばした。

 わたしは食堂の壁に背中を強く打ちつけて、一瞬息が出来なくなった。

 ふっと意識が飛び、思い出したのだ。

 私の精神こころは十六歳になっていた。

 父はオーレンクス侯爵、パトリック。男爵令嬢だった母・イザベラと愛しあっていたけれど、父にオーレンクス侯爵家の娘との結婚が決まり、母は泣く泣く愛人となったのだ。

 けれども、私が七歳になったとき、その女が死に、母が正妻となった。私と母は、それまで住んでいた別邸から、オーレンクス侯爵家の王都の本邸へと移った。

 嬉しかった。私と母は世間に認められたのだ。

 しかし本邸には、シルヴィアという腹違いの姉がいた。ただ一人の直系だという。

『あの子がいなくなれば、あなたが後継者よ』

 母が私に、ささやいた。

 銀髪のその子を、私はひと目見て、嫌いになった。この子の母親がいなかったら、父は母ともっと早くに結婚できたのに。

 その子はすぐに庭の物置小屋へ追いやられた。

『ライオス王太子と王命で婚約していなかったら、すぐに殺せたものを』

 父がつぶやいた。

『未来の王妃には、エミリアがふさわしいのに』

 母は言い、私を王太子の婚約者とすべく、動き出した。

 シルヴィアは、王妃教育のときは外に出されるけれど、その他のときは物置小屋に閉じ込められ、食事はパンと水、お風呂もないという、生きているだけの最低の生活をしていた。それでも、なかなか死ななかった。助けている召使いがいるからだ。

 父は召使いをすべて入れ替えた。庭師の老人は後釜が見つかるまで、少しの間、雇っていたが。

 シルヴィアが王城に行くとき、私もついていって、王太子のライオス様と親しくなっていった。そして、相思相愛の仲になるのは当然の結果だった。

『父王はオーレンクスの豊かな領地を欲しがっている。僕はシルヴィアみたいな幽霊のような女は大嫌いだ。エミリア、僕は君をきっと妃にする。その計画を練っているんだ』

 王城のガゼボで、逢引きしているとき、ライオス様が告げた。私が十六歳になったときのことだ。

『嬉しい』と、胸にすがると、さらにきつく抱きしめられ、愛されていることを実感した。幸せだった。

 その間、ずっと父はオーレンクス家の後継者の証である紅玉のついたネックレスを探していたけれど、シルヴィアは私たちに渡すことはなく、どこに隠したのか、家探しした騎士とメイドも誰も見つけることは出来なかった。

『王太子の誕生パーティのときには、身に着けてくるだろう。それがチャンスだ』

 父が言い、シルヴィアを陥れる計画が立てられた。

 王太子の誕生パーティで、ライオス様がシルヴィアと婚約破棄をし、罪をでっち上げ、地下牢へ連れて行った。そこへ私はうちの兵を伴っていき、シルヴィアから後継者の証の首飾りを奪った。

 やったわ、これで私がオーレンクスの正式な後継者よ!

 そう思ったとき、パリンと宝石が割れ、赤くまぶしい光が周囲を照らした。

 悲鳴をあげて手を見たとき、首飾りはバラバラになっていて、血の匂いでシルヴィアに目をやると、男の一人に斬られて、こときれていた。

『いいざまね』

 大嫌いな女が死んで、せいせいした。

 私はその場を離れた。

 あとは幸せな日々が続く。そう信じて。

 でも、違った。

 オーレンクス領で反乱の火の手が上がり、それは他の貴族たちも同調して――特に、大公の息子のマクガーネル騎士団長の裏切りが大きかった――私は両親と王家の人たちと一緒にさまざまな罪で裁かれ、処刑された……。

 思い出して、背中が、ぞくりとした。

 この記憶は、なに? 夢?

 すぐに理解した。時間が巻き戻ってる? まさか!

「エミリアさん、大丈夫ですか」

 突然、背後から声をかけられ、びくり、と身体を震わせた。

「男の子が複数で、一人の女の子をいじめてはいけませんね」

 最近、孤児院にやってきたチェリネという、そばかすのある若いシスターだった。

「いじめてなんて、いねえよ!」

 捨てゼリフを残し、ジョンたちは逃げていった。

 シスターが前に回り込んでわたしの前にしゃがみ、目線を合わせる。

「あなたは、ここにいていい人ではありません。あなたを大切にしてくれる人たちのもとへ行くべきです。私を信用してくれますか?」

 と、ささやいた。

 わたしは即座にうなずいた。こんなところから逃げだせるなら。

 シスターはその夜、みんなが寝静まったら女の子のベッドルームから抜け出してくるようにわたしへ告げた。

 わたしは夜中、トイレへ行くふりをして、シスターが言ったように寝間着のまま庭の隅にある馬小屋へ行った。

 ここから出られるのなら、夜の闇も怖くはなかった。

 シスターは、そこで黒いフード付きマントの男と待っていた。

「こちらの方が、あなたを保護してくださいます。お元気で」

 シスターはわたしを男に引き合わせ、男は六歳のわたしを抱き上げると、孤児院をあとにした。

 馬車に乗ってから、男はハルバ帝国の皇帝の使いだと名乗った。そしてわたしは男に連れられて海を越え、ハルバの後宮へ入り、そこでゼノヴァン王国の将来の王妃としての教育を受けることになった。

 時の巻き戻りで失った地位を取り戻すため、わたしは懸命に励んだ。

 とうさまとかあさまは、今回しくじったのよ。でも、私は間違わない。巻き戻りで与えられたチャンスを生かして、権力を握り、贅沢をし、思うままに今度こそ、生きるのよ。









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