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 第三騎士団の警護とお菓子のお土産を持って、シルヴィアは帰宅した。

 母のオーレリアは自ら玄関ホールに出迎え、警護の騎士たちへ直々ねぎらいの言葉をかけた。その後、シルヴィアを居間に連れて行き、父・アルフレッドの様子を聞きたがった。

 シルヴィアはアルフレッドのかっこよさを強調して話した。

「そうよね、あなたもそう思うわね」

 母が少女のように頬を染める。

 ……お母さまは絶対、死なせないわ。そのためには、ここにいちゃだめ。

 どうやって母を父の許に送るか、考えていると、母が言う。

「ジェイコブ先生の話では、マーシャル夫人とドリーは快方に向かっているそうよ。でも、マーシャル夫人は、メイドのシェリーが行方不明になったのが堪えていて、身体が回復しても、もう仕事はしたくないそうなの。次の人をどうしようかしら」

 父はまだ、メイドが死んでいることを報せていないようだ。

「王都で探さずに、まずは家宰のアダムスに相談したら?」

「そうね、そうするわ」

 また、パトリックの息のかかった家政婦が来ては敵わない、とシルヴィアは思った。

 そしてお昼のデザートと午後のお茶の時間に、アルフレッドが持たせてくれたお菓子を母と食べ、残った分はメイドたちに下げ渡した。

 その日は何事もなく過ぎたのだが、翌朝、シルヴィアは悲鳴で目が覚めた。

「なに?」

 驚いてベッドから飛び起きれば、リタではなく、アリサという若いメイドがいる。

「お嬢さま、様子を見て参ります。そのままでいてください」

「待って。リタは?」

「彼女は奥さま付きのメアリの手伝いで、奥さまの寝室へ一緒に朝のお茶のご用意を持って……」

「どうして? リタは私の侍女のはずよ!」

 シルヴィアの勢いに怯え、アリサが身を引く。

「お……奥さま付きのメイドの仕事を覚えたいからと言って、あたしと今日だけ替わったのです」

 シルヴィアはベッドを飛び降り、寝間着のまま、裸足で駆け出した。

 同じ階の母の寝室の前には、数人のメイドが集まり、執事のバートラムも駆けてきたところだった。

 開け放たれたドアから中へ入れば、母が先ほど飲んだお茶を吐き、ベッドの上で苦しんでいる。

 メイドのメアリはその背をさすりながら、おろおろし、リタは壁際に立ちすくんでいた。

「苦しみ出したのは、いつ? 答えなさい、メアリ!」

 シルヴィアが問いつめると、おどおどとメアリが答えた。

「モーニング・ティを召しあがって『今日は苦いのね』と、おっしゃったすぐあとから……」

「茶器とポットには誰も触らないで。バートラム、第三騎士団に連絡。ジェイコブ先生をすぐお呼びして。それから、ヴァイエンドリフ。リタを拘束して、女性騎士に身体検査をさせなさい。そして、私物の中に不審物がないか、調べて。早く!」

 バートラムの次に顔を出した警備責任者へ、シルヴィアは命じた。

「どうして! お嬢さま、あたしはなんにもしていません。いつも身近でお仕えしてきたあたしを疑うんですか!」

 ヴァイエンドルフに両手を後ろにして拘束されたリタが叫ぶ。

「その子を居間に連れて来なさい。そして、メアリ。お母さまが口にしたものを全部、吐き出させて」

 命じたシルヴィアは、先に居間へ移動した。

 居間の椅子に座ると、アリサがシルヴィアにガウンを着せかけ、スリッパを履かせた。

 ヴァイエンドルフがリタを連れてきて、シルヴィアの前に跪かせる。

「上着のポケットから、こんなものが」

 と、身体検査をした女性騎士が茶色い小瓶を差し出した。

「これは、なに?」

「知りません」

 シルヴィアの問いに、リタは答えた。

「では、あなた。飲んでみて」

「いやです」

「なぜ?」

 ふん、とリタは鼻を鳴らした。

「もう、わかってんでしょう? 毒よ。あたしが奥さまを殺そうとしました」

 それまで見たこともない、投げやりな態度でリタが言った。

「誰の命令?」

「先代さまよ。パトリックさまはいずれオーレリア様を殺そうとするだろうが、失敗したら、あたしが殺せと、このお屋敷に来たとき、言われました」

「雇い主は、もういないわよ」

「あたしは……ほんとは、こんなメイドなんてやってる身分じゃないんだ。サザランド伯爵の娘なのよ。庶子だけど。この仕事が終わったら、正式に娘と認められるの。失敗したら、メイドをしている母が殺されるのよ。どうしたら、良かったって言うの」

「そう、しかたないわね」

 シルヴィアは微笑んだ。幼いながらも怜悧な美貌がさらに冴える。

「私もお母さまを守りたい。あなたもそうだった。お互い様ね。ただ、あなたは失敗した。それだけよ」

「クソッタレ! あんた、本当に六歳なの? 悪魔の申し子みたいね」

「褒め言葉として受け取っておくわ。リタ、今まで、ありがとう」

「あたしは、大切にされているあんたがうらやましくて、しょうがなかったよ。お嬢さま」

 ヴィエンドルフに引き立てられたリタが言う。

「さようなら」

 感情のない声で、シルヴィアは答えた。

「バートラム、リタの今の言葉を記録しなさい。そして、第三騎士団へ突き出して。それから、先代侯爵の雇った使用人には今日までの給金を払って追い出しなさい。殺されては、敵わないわ」

「かしこまりました」

 バートラムがうやうやしく頭を下げた。







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