第八話 「死霊姫の再来」
――決着
痛みで感覚が研ぎ澄まされているせいか、魔道具による変身の効果か、遠くへと走り去った魔族の消滅が確かに感じられた。
ぼたんさんが勝ったのだ!
「じゃ、帰ろっか……カイリちゃん?」
そう、帰るんだ。
勝ったんだから……家に……帰らなくちゃ……
「あちゃ〜ボロボロじゃないですかぁ」
「ほんと、血まみれだねぇ」
稲裡さんの声が聞こえる……
どうしてここに?
「簡単な治癒魔法かけて、早く病院に運びましょ」
その言葉を最後に、カイリの意識は暗闇へと沈んでいった。
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一方、世界のどこか、地中深くに存在する大監獄「The Cell」
通常の監獄では、とても手に負えない悪鬼羅刹たちを閉じ込める場所。
その最奥のさらに奥の果て。通称「深淵の間」
超重警備の一室。置いてあるのは『棺桶』一つのみ。
だが、ただの棺桶ではない。万を超える結界魔法と封印魔法により、もはや別世界と化している。
封じられているのは五百年前、七つの大海を征した大海賊「宝鐘マリン」を殺害後に、旧日本大陸付近に存在した五十の国のうち、十七の国を滅ぼした大罪人
だが、その日、The Cellの番人
ホロライブメンバー「フワワ・アビスガード」及び「モココ・アビスガード」の二人が不在になった数時間に事件は起こった。
『棺桶』の管理者たちは、その日も百人体制で異常がないか見張り、もし何か起こった場合は「番人」を即座に呼び戻す転移魔法を起動する準備をしていた。
管理主任である「ジョナサン・スミス」
御歳四十八歳。みんなからは「ジョン」の愛称で呼ばれているダンディーな色男である。
その日も、コーヒー片手に仲間たちと談笑しながら『棺桶』の様子を超大型モニターで見張っていた。
だが、五百年の月日が流れたことにより、大罪人の魔力はもはや塵ほども感じない。
故に、管理室には緊張感がなかった。
だから気づかなかった。
封印魔法が破られていることに。
『棺桶』の蓋が空いていることに。
いつの間にか、自らの横に緑髪の少女が座っていることに。
ジョンが一連の異変に気づいたのは、「深淵の間」のあらゆるシステムがダウンし、警報が鳴り響いてからであった。
自らの横に座っていた少女にもようやく気が付き、即座に「番人」の転移魔法を起動しようとするも、反応無し。
状況を即座に理解し、管理室にいる百人の職員に呼びかけ、戦闘態勢に入る。
突如、ジョンの視界が激しく揺れた。地震?
いや違う。己の首が、地面へと落下しているのだ。
少女の手には包丁のようなものが握られていたが、ジョンがそれに気づくことはなく息絶えた。
瞬間、おびただしい数のスケルトンが管理室に召喚された。
――あの少女の仕業だ
管理室にいた誰もが感づき、最新式の魔導火器を少女に一斉砲火する。
意外、少女は防ぐわけでも避けるわけでもなく、蜂の巣になった。
安心したのも束の間、スケルトン共が攻撃を開始する。 必死の攻撃の中、いま確かに殺したはずの少女が、何事も無かったかのようにこちらへと向かってくるのが皆の目に映った。
だが遅い、スケルトン共に意識を向けていた職員たちは為す術なく蹂躙されていく。
少女に銃口を向けようものならスケルトンに、スケルトンを始末しようとすれば少女に殺られ、気づけば管理室内の生者は、少女のみになっていた。
少女はスケルトン達を引き連れ、出口へと向かっていく。
だが、ここは深淵の大監獄。そう簡単には逃げられない。
The Cellの主力防衛部隊が少女の前に立ち塞がる。
職員の使っていた魔導火器とは違い、司祭達によって祈りを込められた純銀製の弾薬を使用しており、不浄の存在に対して完全なる特攻を有している。
防衛隊は、少女含むスケルトン達に発射しようとしたその時、スケルトン達に肉がついていくのが見えた。
そして現れたのは、先程殺されであろう管理室の職員達
防衛隊員達に動揺が生じ、明らかな隙が生まれた。
その隙を突くように、少女よりもやや後ろから弾幕が撒き散らされ、防衛隊員達を次々に屠っていく。
弾幕の主達は、太古の国の兵士たちであった。
この少女は死霊術師なのだと、防衛隊員達は薄れていく意識の中で理解した。
自分たちも、死後この少女に利用されるのだと絶望しながら意識は完全に消え去った。
主力を失った防衛ラインは次々に突破され、難攻不落の大監獄は、約三千年ぶりに脱獄を許した。
こうして、史上最悪の死霊術師「潤羽るしあ」は五百年ぶりに地上へと足を踏み出した。
「はぁ、新鮮な空気〜」
緑髪の悪魔は死者の軍勢をどこかへと消し去り、そう呟いた。
「待っててねマリン、もうすぐ会えるよ」
恍惚の表情を一瞬だけ浮かべ、世界のどこかにいる一人の少女に言い放つ
「九条 海里その力、貰いに行くのです。」
そう宣言した後、潤羽るしあは足を踏み出した。
緑髪のネクロマンサー登場!!!