第六話 「ハジメテノコロシ」
翌日、再び執務室に集合して、そのまま稲裡さんの転移能力で試験場付近に降り立った。
稲裡さんは、その場で待機。
私とぼたんさんはアウトロー達の住処へと歩き出す。
―――今回の試験で始末するアウトロー達は「盗賊」
主に追い剥ぎを生業としており、様々な理由で十分な道路や鉄道が建設できず、徒歩や馬車で移動するしか無い地域に出没し、男は虐殺、女は手篭めにする。そんな鬼畜の集まりである。SSRB初代長官「獅白ぼたん」の引退と同時に爆発的に増加した。
今から、そんな恐ろしい人達と戦わねばならぬと考えると足が震える。
気合いで足を動かしながら、ほたんさんに質問する。
「ぼたんさんって、本当にあの獅白ぼたんなんですか?」
「そーだよ? 今年でたしか……三千歳くらいだったかなぁ」
三千!?そんな神話の時代から生きてるのか!?
それも、若さを保ったまま……
「驚いてるねぇ? あたしはもともと長寿種だし、ホロメンは達成した偉業が多いから、強力な【アチーブメントスキル】も多い。そんで、たまたま寿命伸ばす系のスキルとかを手に入れられたら、あたしみたいに長生きできるって訳よ。」
――【アチーブメントスキル】
偉業を成すことで取得できる特別なスキル。
主に、身体強化系のスキルを贈られる事が多い
だが、信じられない、確かに獣人は寿命が長いが、それでも三百年くらいである。本来の寿命の十倍、それも若さを保ったままでいられるスキルなど聞いたことがない。
現存する最高の寿命系アチーブメントは、教会の教皇に与えられることが多い【不滅の聖者】である。
このスキルですら、せいぜい寿命を百年伸ばすのが限界なのだ。
それを大幅に凌駕する称号がこの世に存在するなんて……
「あたしのは【救世の獅子】って称号で、千年先の未来にすら影響する偉業を成すと貰えるらしいよ? 無限の寿命と永遠の若さが貰えちゃう。」
――納得だ。
千年も先に影響するほどの偉業を成したのなら、こんなぶっ壊れスキルを与えられてもおかしくはないだろう。
ぼたんさんいわく、他には
【最果ての海を統べるもの】
【黄金郷の守護者】
【神の使い】
【不屈の研鑽者】などなどがあるらしい。
私は新たな質問を投げかける。
「稲裡さんとは、どんな間柄なんですか?」
「稲裡? あ〜、あいつSランク冒険者だからね。自然と絡みが増えるわけだから、仲良くもなる。ま、親友ってやつよ。」
Sランク!? Sランク冒険者といえば、単独でダンジョンを滅ぼせる化け物達の事だ。
稲裡さんがSランクだったなんて……
ぼたんさんは見透かしたような顔で一笑する。
「その反応、稲裡のやつ教えてなかったみたいだね」
――稲裡さんのとぼけ顔が目に浮かぶ
―――――――――――――――――――――――
楽しく会話を続けていたが、やがて辿り着く。
―――盗賊達の住処
なんとも異様な雰囲気が滲み出ている……
そんな私を傍目に、ぼたんさんはズカズカと入っていく。
「こんちわ〜! フードデリバリーでーす」
中には、盗賊が十五人ほどいた。
全員がこちらを睨みつけてくる。
「ねーちゃん達ここがどこだか分かんてんのか? 盗賊のアジトだぜ?」
手前のほうに座っていた大男が下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる。
「フードデリバリーってんならよぉ、奥の方で酒でも注いでくれや」
大男は、ぼたんさんの顎を掴み、奥へと連れていこうとする。
「ハハハ、こいつめぇ」
ぼたんさんは、ニヒルな笑みを浮かべながらそう呟いた。
次の瞬間、炸裂音と共に大男が吹き飛んだ。
壁に激突した大男の腹には風穴が空いており、ぼたんさんの右手には、硝煙の上がるダブルバレルショットガンが握られていた。
どこから取りだしたのだろうか……
そんなことを考える暇もなく、盗賊達は武器を抜き、ぞろぞろとこちらを取り囲んできた。
その数、約五十人。明らかに増えている。
「さて、こっからはカイリちゃんの仕事だよ。ファイト!」
そう言い残し、ぼたんさんは一瞬にして包囲を抜け、どこかへと消え去る。
「バカが、外にも伏兵がゴロゴロいんだよ!
おれらの仲間殺しやがって、てめぇら楽に死ねると思うなよ!」
斧を持った盗賊の一人が憤怒の表情を浮かべながら怒鳴ってくる。
――私なんもしてないけどぉ!?
そんな言い訳を言うまもなく、斧を振り下ろしてきた。
初撃をなんとか躱し、《メモリアルライザー》を構える。
――やるしかない!
覚悟を決め、横にある起動ボタンを押す。
―――抽出
前回と違う!?
疑問を浮かべながらも頭に浮かんだ言葉を叫び、再びボタンを押す。
「虚空!」
ぼたんを押すと同時に、メモリアルライザーが紫色の刀へと変わっていく。
今回は、服は変わらず、刀だけが顕現した。
しかし、力はみなぎる。
私は、先程斬りかかってきた男へと刃を振るう。
手応えなく、男は容易く左右に両断された。
初めての殺しに気分が悪くなるも、そんなことは言ってられない。
次々と襲いかかってくる盗賊達を一心不乱に切りまくる。だが、相変わらず手応えが無い。
まるで、空気でも切っているかのようだ。
しかし、足下に散らばる盗賊たちの手足と内蔵が、切っているのは空気ではなく人間だということを再認識させる。
―――――――――――――――――――――――
どれほどの時間が経っただろうか、どれだけの人を殺しただろうか。
虚無に陥っていると、突然拍手が鳴る。
「いやーすごいね。あっという間にうちの子分共が皆殺しにされちゃった。」
即座に顔を上げると、先程まで盗賊達がどんちゃん騒ぎをしていて机に、ロン毛の男が座っていた。
「その刀、すごいね。まるで刃が触れた所が、切れたんじゃなくて消えたみたいだったね?」
私は、一瞬で距離を詰め、刀を振り下ろす。
が、刃が命中する直前に男が消えた。
――どこへ行った!?
「でも、当たんなきゃ怖くないね」
必死に敵を探す私の背後でその男の声がした
その瞬間、左脇腹に激痛が走る。
激痛の走った箇所に目を向けると、男にナイフで刺されていた。
私は、歯を食いしばり、男に攻撃する。
だが、当たらない。
いくら刀を振っても、一撃も当たらない。
やけくそ気味に渾身の一撃を放つも軽く回避し、私の右足を滅多刺しにする。
立っていられなくなり、勢いよく倒れる。
「はい残ねーん、なんか怖いし、サクッと死んでおくれ」
男は冷たい声でそう言い放ち、逆手に持ったナイフを私の胸を目掛けて振り下ろしてくる。
――終わった
今度こそダメだと、死を覚悟した瞬間
ナイフを振り下ろしている男の右手が吹き飛んだ。
どうやら、ぼたんさんの狙撃によって助かったらしい。
入口の方に顔を向けると、やはりぼたんさんが立っていた。
「おまえ、ただの盗賊じゃないな? というより人間じゃないな?」
アサルトライフルのような武器を構えながら、私を殺そうとした男に問う。
「さすが俺らの先祖たちを蹂躙した女だな。この程度の変装じゃ、ないのと同じかぁ。」
再び男の方へに目を向けると、先程までなかった大きな角が生えていた。
――魔族だ
王都から、さほど離れたいないこの場所になぜ魔族がいるのか。
いや、そんな事はどうでもいい。魔族は最低でもAランク。人に紛れるのが上手いとなると、こいつは更に高ランクの可能性が高い。
なぜなら本来、魔族は傲慢で決して人類とは手を組まないが、長く生きている魔族は、人間の事を熟知しており、利用してくるからである。
最低でもSランク、運が悪ければ【称号持ち】の可能性すらある。
果たして、私はここから生きて帰れるのだろうか……
一方、ぼたんさんはチャージングハンドルを引き、戦闘態勢に入っていた。
次回は、獅白ぼたんVS魔族の戦いが勃発!?