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~Hollow Live~  作者: 腐った一味唐辛子
第一章 始まり
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第三話 「装填」

全力で足を動かし、とうとう目的の場所が見えてきた。


―――かつて龍が住んでいたとされる伝説の霊峰「天鱗山」


雲を突き抜けるほど巨大な山の麓には、広大な森林が広がっており、不気味な気配が満ちている。

かつては、神聖な魔力に満ちており、多くの人が訪れる名所であった。

しかし

近年、魔物に遭遇することが増え、かつての面影は跡形もなく消し去ってしまった。


――らしい


いつもなら、落とし物を拾っても衛兵さんか警察の人に届けている。

だが、「冒険者が落とした魔道具」となればそうもいかない。

冒険者は、戦闘に使用する魔道具

通称「魔導兵装」と呼ばれる魔道具を持っていることが一般的だ。

つまり、このカードケース型の魔道具は稲裡(いなり)さんの主武装の可能性があるということである。


――無ければ命の危機にさえなりうる代物


海里(かいり)は、覚悟を決め、森林へと足を踏み出した。


―――――――――――――――――――――――


どれほど歩いただろう……

稲裡さんが残したであろう僅かな残滓を辿り、恐る恐る歩みを進める。


だが、突如として違和感が体を駆け巡る。


――残滓? 仮にも冒険者が、ただの町娘に辿れるほど痕跡を残すだろうか?


「まさか……!!!」


震えた声で呟いた次の瞬間

空から不気味な魔力の塊が轟音を響かせ。こちらへと降ってくる。


私は、即座に横に身をかわす。

間一髪だった。先程まで私が立っていた場所には、大きな黒い塊が突き刺さっていた。

黒い塊は、地面から抜けだし、こちらを凝視した。


――魔物


異常発達した鳥のような見た目をしているものの、その身に纏う禍々しい魔力が、ただの鳥ではなく魔物だということを物語っている。


私は短剣を抜き、戦闘態勢に入る。


相手はおそらく「黒穿鳥(こくせんちょう)

ドリルのようなクチバシと大きな翼が特徴のそこそこ強力な魔物である。

しかし、これでも冒険者志望、少しは訓練している。

出処不明な自信を身にまとい、眼前の魔物へと立ち向かう。

だが、次の瞬間

体は遠くの木へと打ちつけられていた。


どうやら、やつの巨翼で吹き飛ばされたらしい。


――勘違いをしていた。

否、分かっていた。

数秒前の自分を殴ってやりたくなる。

「そこそこ強い」は、ギルドの試験に合格した冒険者達を基準とした言葉である。

断じて、お遊び程度の訓練しか積んでいない小娘を基準とした言葉ではない。


強化魔術すら施していない身体、今の一撃で既に行動不能であろう。

しかし、死への恐怖が動かない体を無理やり稼働させる。


必死に逃げようとするも、ギリギリ動けているだけに過ぎないこの状況で、最高速度が亜音速に達する魔物から逃げ切れる訳もなく、鋭い爪の生える大きな足に捕まってしまった。


―――「死」


その一文字が頭を埋めつくし、何とかこの状況を打開しようと脳みそを回す。


そして、思い出す。稲裡へと届けるはずの魔道具の横にボタンがある。


おそらく、そのボタンが魔道具の起動装置であろう。

そうでなくては困る。


藁にもすがる思いで、何とか内ポケットに入っている魔道具のボタンを押した次の瞬間


―――装填(セット)


女性の機械音声が魔道具から流れると同時に、魔物は吹き飛び、拘束から逃れることが出来た。

それに続き、頭にイメージが浮かぶ。この魔道具の使い方だ。


頭に浮かんだイメージに通り、とある言葉を叫びながら魔道具のボタンをもう一度押す。


――「虚空!!!」


ボタンを押した次の瞬間、身にまとっていた服が変わっていった。


袖と襟が紫色の軍服

腰には、日本刀が下げてあり

右足のガーターベルトには、拳銃が携えてある。


先程まで感じていた体の重さが全くない。

まるで、体が羽になったかのような感覚が芽生え、感動していたのもつかの間


吹き飛んだ魔物が、こちらへと突っ込んでくる。


――見える

先程まで、反応すら出来なかった魔物の動きがハッキリと見える。


私は、イメージに従い、日本刀を鞘から抜き、魔力を込めながら魔物へと振り抜いた。

だが、手応えがない。

一瞬、冷や汗をかいたが杞憂


刃の命中した魔物の首は、綺麗に断ち切れており、ずるりと地面へ落ちる。


軍服は元々着ていた洋服に戻り、身体の力が一気に抜け、地面にへたりつく。


―――ビュッ!


安堵したの瞬間、待っていましたと言わんばかりに、首だけになった魔物がこちらへ突進してくる。


――殺られる……!


死を覚悟したその瞬間、感じたのは暖かい液体が体にかかるのを感じた。

「死ぬって、こんな感じかぁ……」


絶望していた私の耳に聞き覚えのある声が入ってくる。


「いやぁ〜詰めが甘かったですね〜!」


驚きのあまり見開いたその目には、純白の日本刀を掲げた白雪 稲裡(しらゆき いなり)が映っていた。

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