第二話 「お茶と魔道具とお狐様」
父の仕事場は家からそう遠くない場所にあるそこそこ大きな店だ。
父が主に取り扱っているのは、生活の役に立つ家庭用の魔道具
通称「民間魔具」である。
民間魔具は、
お手軽に火を起こせる「魔力原動式カセットコンロ」
食材を新鮮なまま運ぶことが出来る「携帯式冷却バッグ」などがある。
父の店は品ぞろえが良いらしく、そこそこ繁盛しているのだが、従業員を全く雇おうとしないため、いつも大忙しである。
そのくせ、娘の私のことは馬の如くこき使う。
「おーい! 空いたとこ適当にうめといてくれぇ!」
――適当でいいのかよ……
私は裏の倉庫に置いてあるであろう商品を取りに向かった。
父のおっしゃる通り、適当に並び終え
報告に向かおうとした時、神秘的なオーラを放つ獣人の女性が目に入った。
綺麗な白髪で、長い三つ編みポニーテールの美少女。
かけている眼鏡の影響か、綺麗な碧眼の瞳がいっそう大きく見える。
スレンダーな体型によく似合う藍色の洋服を着こなし、しっぽも綺麗な白毛だが、下のほうは黒毛で五芒星のマークが入っており、なんとも言えぬ不思議なオーラを纏っている。
「ん?私の顔に何か着いていますか?」
――声は思っていたより可愛らしい……
って違う!!!
どうやら、ジロジロ見すぎてしまったようだ。
「す、すいません! その、美人だなぁと思って……」
慌てて謝罪すると、獣人さんは一瞬キョトンした表情を浮かべた後
「あはは! 煽てたって何も出ませんよぉ!」
笑いながら私の背中をペシペシと叩く。
苦笑いを浮かべながら自分がこの店の主の娘であることを伝え、お詫びに目当ての物を探す手伝いをさせて欲しいと言った。
どうやら、この獣人さんは「どこでもお湯を沸かせられる魔道具」を探しているらしい。
「わたし、仕事柄あっちこっちに派遣されるんですけど、移動中に暖かい緑茶でも飲めたらなぁ……と思って……」
―――よほど緑茶が好きなようだ。
確かに、彼女のカバンから微かに緑茶の香りが漂っている。
私は、彼女の要望通りの魔道具を即座に見つけることが出来た。
こき使われた経験がここで役に立つとは……
なんといえぬ気持ちを抱きつつ、彼女に手渡した。
渡した魔道具は、「携帯型 沸騰玉」といい、小さめの水晶のような形をしており、魔力を込めて液体に入れればあっという間に熱々になる優れものである。
獣人さんは目を輝かせ、即購入してくれた。
「いやぁ、こんなに便利なものを教えてくれて、本当に感謝ですよ〜!」
彼女は目を輝かせながら、私の両手を握りブンブンと振り回しながら喜んだが、何かを思い出したかのようにピタリと動きを止めた。
「そういえば、自己紹介をしていませんでしたね。」
――言われてみればそうである。
「わたしの名前は、白雪 稲裡
狐の獣人で職業は、冒険者をやらせてもらってます!」
稲裡さんっていうんだ……それに冒険者……
「私は、九条 海里
冒険者志望で、今は父の店を手伝いながら生活しています。」
「えぇ!? 冒険者志望なの!?」
稲裡さんが大きな声を上げる。
「それじゃあ、いつか一緒に仕事する事になるかもだね! って、あっ!!!」
再び大声をだす。
「やっべ!そういえば、森で仕事があるんだった!!!
それじゃあ、わたし行くね!
じゃ!」
そう言い残し、稲裡さんは猛スピードで出て行った。
――うん?
出口付近に何か落ちている。
彼女の落し物であることは確定だが、どうやら急ぎすぎて落としたことに気づかなかったらしい。
拾ってみると、魔力を感じた。
どうやら、カードケース形の魔道具のようだ。
中には、紫色のカードが1枚入っており、裏には「虚」と書かれていた。
なんだかよく分からなかったが、急いで後を追うことにした。
稲裡さんは去り際に森と言っていた。
この辺りで森といえば、「天鱗山」の麓しかない。
魔物が出るらしく、その討伐に向かったのだろう。
そうと分かれば、いざ出発!!!
私は護身用の短剣を携え、店を飛び出した。
次回から、とうとう戦闘シーンがあります!