第一話 「九条海里」
―――――――「早く起きなさい!!!!」
母の怒声で飛び起きる。
鼻をくすぐる味噌汁の匂いに導かれ、鬼婆の待つリビングへと足を動かした。
怖い夢を見ていたような気がするが、ちっとも思い出せない。
この現象に名前でも付けようかと思い立つが、寝起きの脳みそでは それも叶わない。
さて、そんな事を考えているうちに無事到着。
本日の朝食は焼き魚……母の好物だ。
昨晩、「たまには朝食にパンを食べたい」という渾身の願望を伝えたはずだが、どうやら私の願いなど魚にすら劣るらしい。
私は煮魚派であり、焼き魚は食べるに値しないと思っているのだが、母にとっては「今日を頑張るための活力剤」らしい。
だが、まぁ腹の鳴る音を聞けばそんな事もどうでも良くなる。有難くいただくとしよう。
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彼女 「九条海里」は、ピチピチの16歳
「ギルド」に所属する「冒険者」になるのが夢であり、現在は、都会と田舎の中間に位置する実家で父が営む「魔道具」の店を手伝いながら穏やかに生活している。
……………………魔道具?ギルド?冒険者?
説明の前に、この世界については説明した方がいいだろう。
この世界は、はるか昔に発生した「異世界侵略」により、元あった世界と異世界が融合してしまった。
その結果、異世界にのみ存在した「魔素」と呼ばれる物質が空気中に溢れた。
当時の人類は、新しい元素の影響で体調不良者が続出したが、数日で順応
それから数年で、人類は魔素を生活の一部に取り入れたが、2人の協力者がいなければ数年では不可能だったで
あろう。
1人目の協力者の名前は「紫咲シオン」
魔界出身の彼女と、所属していたグループ 「ホロライブ」のメンバーの協力により、人類は新たなる力 「魔法」を習得した。
2人目の協力者の名前は「賢者 アルベルト」
異世界の住人である彼により、魔素と化学を融合させた理論「魔導学」が誕生。魔導学の誕生により、人類の生活は一変
従来の「電力」「火力」「風力」などに加え、「魔力」という新たなエネルギーが利用可能になった。
魔力は本来「魔法」を発動させるためのエネルギーに使われるが、従来の機械に流してもエネルギー源になることが発見され、魔力だけをエネルギー源とする機械「魔道具」が誕生
魔道具の誕生により、文明は大幅な発展を迎えることになる が、悪しき心を持ったもの達により、幾度となく戦争が起こった。
その度に、多大な犠牲が起こった
だが、ある時を境に戦争は起らなくなった。
なぜか?
理由は単純明快
異世界の魔物たちが、新たな脅威となったからである。
異世界との融合から数年 魔物たちもこちらの世界への適応が完了し、行動が可能になったからである。
魔物たちの脅威に対抗するため
人類は、己を対象とした強化術式「魔術」が得意な者
魔力を利用し様々な攻撃を撃ち出す「魔法」が得意な者そんな者達を集め、金銭や名誉と引き換えに魔物を討伐する組織「ギルド」を設立した。
おかげで、人類は魔物の脅威に怯えることなく平和に日常を過ごすことができるようになった。
そして現代、神々の祝福を受け不老不死になった
ホロライブメンバー
通称 「メンバー」達により、平穏が保たれている。
さて、ここまでが中学生の歴史で習う内容である。
「ホロライブメンバーは不老不死になった」と書かれているが、私は誰一人として見たことがない。
噂では、王都の「白銀聖騎士団」の団長がメンバーである。 どこかの山奥にある神社に住んでいる。天国から地上を見守っている。
などよく聞くが信憑性の欠片のないホラ話である。
さて、朝食も済ませた事だし
父の仕事を手伝いに行くとしよう。