第十話「黄金郷の守護者」
世界が「死霊姫の再来」により混乱に陥っているなかですら、平穏を保っている国があった。
名は「エルドラド」
かつては黄金の名産地であり「黄金を使った儀式魔法」を得意としたゴルト一族が暮らしていた島国だが、ある日から暴君が王となり領土を広げるために侵略を繰り返した。後に宝鐘マリンにより暴君は粛清、国民は解放されたものの、いままで特殊な結界で存在を隠していた国が公になり、アウトローが殺到。
防衛手段が無くなってしまった原住民達は故郷を捨てることを余儀なくされた。
しかし、黄金は採れなくなり、国民が居なくなっても綺麗な自然と海だけは残った。
宝鐘マリンの死後、部下の計らいにより「思い出の場所」である黄金郷に墓が作られ、永遠にその場所を守護するため、とあるメンバーが一人残り今も守り続けている。
そんな国とは名ばかりの孤島に緑髪の少女が上陸した。
少女は肉まんを頬張りながら、ある場所へ一直線に向かっていく……
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数分歩き続け辿り着いたのは、枯渇したはずの黄金で作られた豪華な墓碑のある海触洞。
墓前には、かつて大海賊が心から愛したクマのぬいぐるみが置いてあった。
大昔から置いあるはずのぬいぐるみは、少しも劣化しておらず、緑髪の少女は首を傾げる。
「ここら一帯は、その黄金の墓碑の効果で劣化しないんだよ。るしあちゃん」
突如響いた懐かしい声に驚きつつ、潤羽るしあは声の主の方へ顔を向ける。
そこには、紫がかったピンクの髪に空色のインナーカラーが入っている少女が立っていた。
少女の名は「湊あくあ」
メンバーの一人であり、エルドラドから一歩も離れられないことを条件に様々な加護を得られる称号「黄金郷の守護者」を背負う者である。
「あくたん、久しぶりだね。るしあを殺しにきたの?」
あくあは首を左右に振りながら答える。
「その気なら上陸なんてさせないよ。ここに何しに来たのかを聞きにきただけ。」
るしあは少し悲しげな表情を浮かべ、あくあの問に答える。
「何って、墓参りだよ。The Cellに封印されてたせいで来れなかったからね……」
「ふぅん、やっぱり、るしあちゃんは船長のこと殺してなかったんだね。」
何かを悟ったように語りかけてくるあくあに、るしあは思わず驚愕する。
「なんで……」
「るしあちゃんと船長、仲良かったもん。あんなに仲良しだった船長を殺すわけないもん……ねぇ、ほんとは何があったの?」
泣きそうな顔をしながら問いかけてくるあくあに、るしあもまた悟った顔をしながら答える。
「もう、いいんだよ。るしあが冤罪だって分かってもらえても、マリンは帰ってこないんだから。」
「……それじゃあ、これからどうするの? 」
るしあは微量の狂気を孕んだ表情で問に応じる。
「マリンを生き返らせるんだよ。」
「……四十九日経った魂は輪廻の輪をくぐっちゃうから甦生出来ない。るしあちゃんが教えてくれたことだよ。」
小粒の涙を零しながら訴えかけてくるあくあに、るしあは狂気を持って答える。
「だから、転生先の魂を特定して無理やり前世返りさせるのです。」
涙を大粒に変え、訴え続ける。
「そんな事、世界が許さないよ……まさか神様と戦う気なの?」
「 そう! 神は絶対にるしあの邪魔をしてくる! だから、まずは神に勝てる戦力を集めるのです!!!」
あくあは、涙の粒をいっそう大きくしながら呟く。
「……そらちゃんやフブキちゃんも?」
「……必須なのです。」
あくあは涙を拭い、るしあに宣言する。
「なら、ここから生きて出す訳にはいかない。」
「……やめときなよ。あくたんじゃ、るしあには勝てないでしょ? 」
あくあは、携帯型通信機をるしあに見せつける。
「もうすいちゃんを呼んである。大人しく捕まって。」
「あくたん、全盛期ならまだしも今の星街すいせいは、みこちの補助なしじゃ戦闘なんか……」
薄ら笑いが消える。思い出したのだ。正確には、潤羽るしあの魂の内側にいる下僕たちがであるが、そんな事はどうでもいい。
星街すいせいが来るということは、さくらみこも来る
さくらみこは、巫女……つまり結界術のエキスパート。
この黄金郷に結界を貼られてしまったら、いくらるしあでも脱出は困難。そこに星街すいせいまで加われば、もはや脱出は不可能になる。
気づいた瞬間、るしあは逃げ出そうとするものの体がピクリとも動かない……だが、るしあは”これ”を知っている。
紫咲シオン考案の空間固定術式。文字通り、効果範囲内の空間を一時的に固定する術式。
本来は”次の段階のための準備”だが……
るしあは苛立ちながらあくあに言い放つ。
「やめときなって。すいちゃんがここに来るまで三十分はかかるでしょ? それまでるしあを拘束する自信あるの? それとも、次の段階にでもいけるの? 無理でしょ?」
「だから、必死に練習したんだよ。」
固定されている空間に魔力が流れ始めた。
まさか……!!!
「海想列車」
拘束を中和しようとしたが、時すでに遅し。
あくあの放った言葉と共に両者は眩い光に包まれた……
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目を開ければ、そこにはウユニ塩湖のように透き通った絶海が広がっていた。
くそ!
完全に油断した!
まさか、あくたんがこの段階の魔法を使えるとは微塵も思っていなかった……!
「Stage Of Diva……己の積み上げた悲劇、偉業、幸福、苦境……全てを詰め込んだ自分だけの世界に相手を引きずり込む大魔法。ほんとに使えたんだ。」
あくまでも冷静を装いながら、聞こえるように呟き、打開策を内なる下僕に必死で考えさせる。
「必死に脱出を考えてるみたいだけど、無駄だよるしあちゃん。」
そんな事は分かっている!
アチーブメントスキル【黄金郷の守護者】の効果で、湊あくあはほぼ無限に魔力が回復し続ける。
SODは魔力消費が激しいため、通常は数分で解除される。
だが、魔力回復効果がある場合は話が別!!!
魔力消費が限りなく緩やかになり、エネルギーの枯渇まで一時間はある。
星街すいせいとさくらみこが到着するまで三十分!
それまでに湊あくあを倒し、強制解除させなければならない。
「それじゃあ、行くね。『海神の艦隊』」
あくあの詠唱と共に、凪いでいた海が激しく揺れる。
現れたのは、神聖な魔力を纏った帆船の艦隊。
艦隊の能力も、SODの付与効果も不明
出し惜しみはしない。
こちらも全力で潰しにいく。
「……英霊回生」
相手が軍艦で来るなら、こっちも軍艦で打ちのめしてやる。
「山本五十六」
名を呼んだ瞬間、どす黒い煙と共に過去の英雄が現世へと舞い戻った。
かつて己が従えた伝説の軍艦を携えて……
次回は潤羽るしあVS湊あくあ