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その5

「妖精と友達になれるとは光栄だな」

言葉だけ聞けば、彼もまた無邪気なのかと思ってしまいそうだが、レッドがそんな素直な男でないことを、ハルカは知っている。

しかし彼の言葉に対しては同感なので、彼女は頷いた。

「そうね」

二人の反応に満足そうに頷いて、シルフィは続ける。

「私たち友達だからさ。もし二人が盗賊の人でも、悪さしようなんてしないよね。友達なんだから」

レッドとハルカは顔を見合わせた。

妖精らしからぬ――というかシルフィらしからぬ用心深さだと思ったのだ。

くすりと微笑をかわしたあと、レッドが答えた。

「もちろんだ、シルフィ。いくらなんでもそこまで性根は腐っていない。

それにそもそも俺たちは賊なんかじゃない。ちょっとした事情のある、旅人さ」

「うん、そうだよね。分かってたけどさ」

シルフィに言葉に、レッドとハルカはまた顔を見合わせた。

不審げな二人に構うことなく、シルフィは背後の森の暗がりに声を放つ。

「クリスう。平気だよお。この人たち大丈夫ぅ」

つられて二人は森の暗がりの目をやる。

木立の影から、そろそろと一人の少年が姿を見せた。

「こ、こんばんは」

消え入りそうな声で少年は言った。

「はははははは」

レッドが突然はじかれたように笑い出した。

ハルカもくすくすと笑い声を洩らしている。

ひとしきり笑った後レッドは

「なかなか愉快なやつのようだな。シルフィ、お前の連れは」

それから顔を赤くして固まっているクリスに声をかける。

「おい、少年。そんなところにいないでこっちに来たらどうだ」

「は、はい」

クリスはレッドたちには届かないだろうちいさな声で答え、ゆっくりと彼らのもとに歩いていく。

及び腰な様子に、レッドは笑いを含んだ声を重ねる。

「そんなにびくびくする必要はない。大丈夫だ。誰もとって食おうというわけじゃない。

俺たちは友達なんだから」

「え?」

「ん? 違うのか? お前、シルフィの連れだろう。だったら俺たちは友達だ。違うか?」

「は、はい」

と答えたものの、クリスの慎重な足取りは変わらない。

レッドもさらに急かすような事はしなかった。

クリスがやっとのことで側まで来るとレッドは一言。

「座れ」

クリスはおとなしく従った。その肩にすかさずシルフィが腰を下ろす。

どこか怯えた様子のクリス。

レッドの態度を威圧的に感じているのかもしれない。

「どうした、少年。緊張しているのか?」

しかし塔のレッドはそのことに全く気付いていないようだ。

「レッド」

ハルカはそんなレッドを一言たしなめてから、クリスに優しく声をかけた。

「ねえ、君、名前は?」

体を硬くしてうつむいていたクリスは、その声に顔を上げる。

「あ、クリスです。クリス・バード」

ハルカは、クリスのあわてる様子に微笑しながら

「じゃあ、君のこと、クリス君、て呼んでいいかな」

「あ、はい。いいです。えと……」

「ハルカよ。ハルカ・エア。ハルカでいいわ」

「はい。ハルカさん」

はにかんでハルカの名を口にするクリス。

もし今ここにレッドとシルフィがいなければ、ハルカは少年のあまりの可愛らしさに、きっと彼を抱きしめていたことだろう。

その衝動は何とか堪えたが、だらしなく笑みが漏れてしまうのは仕方がない。

笑顔を向けられ、真っ赤になってうつむくクリス。

ハルカはそれにもまた微笑する。

少年の一挙一投手が、ハルカを危険な気分にさせてしまう。

女の勘でか妖精の勘でか、シルフィはそれを感じ取り、頬をぷぅと膨らませハルカを睨みつけている。

「ところで少年」

こちらもまた男の勘で、剣呑な気配を察したのか、二人の間に割り込むように声をかけた。

「こんな夜にこんな森の中で何をしているんだ。子供が出歩いてもいい場所でも時間でもないぞ」

それはレッドたちにも言えた。

大人でもこんな時間にこんな場所を出歩かない。

それをするものは不審者以外にないだろう。

だからこそクリスは二人を善からぬ類の人間と疑い、シルフィを偵察に行かせたのだ。

それはともかく、クリスはレッドの問いに答える。

「あの、しきたりなんです。十三歳になると旅に出なくちゃならなくて。だから今ここにいるわけで。

でも予定では日が暮れるまでには街道に出て、宿を取っていたはずなんです。

今頃はそこでゆっくりしていたはずで。でもシルフィが……」

ため息をつくクリス。

もちろんシルフィは黙っていない。

「ちょっと。なんでそこで私が出てくるのよ」

「だってそうだろ。シルフィがのんびりしてるからこんな事になったんじゃないか」

「のんびりして何が悪いのよ」

「いろいろと予定を立ててたのに全部無駄になったじゃないか」

「嘘ばっかり。何も考えてなかったくせに。無計画まっしぐらのくせに」

「何だよ、それは……。そもそもシルフィだってはじめ言ってたじゃないか。

今日中に街道に出ようって。それが結局こんなになって……。

無計画はシルフィじゃないか」

「いいじゃないの、そんなの。それに予定は未定、て言うでしょ。知らないの?」

「知らないよ!」

無知ねぇ。と妖精が鼻で笑う。

少年は泣き出さんばかりに興奮している。

仲裁に入ったのはハルカだ。

「まあまあ、二人とも。もうその辺にしておきましょうよ。

それに私はクリス君たちが予定通りにいかなくてよかったと思ってるしね」

「……どうしてですか」

「そのおかげで私たちは出会えたんだし、ね」

微笑むハルカ。

その笑顔にクリスは耳まで真っ赤になる。

「は、はい。そうですね」

ハルカの顔をまともに見られず、うつむいてしまうクリス。


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