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その4

「やめた。不毛だわ」

「気付くのが遅いな。相変わらず」

女は何か言い返そうとして口を開く。

だが結局言葉は出ずにため息をつく。

「はあああ。ホント、あんたって男は――」

「何だ」

「一言多い」

「すまんな」

まるで気にしたふうもなく穏やかに言う男に、再びため息をつこうとして、突然背後からかけられた声に、女はかわいい悲鳴を上げていた。

「こんばんは」

「きゃっ」

と同時に横っ飛びに飛びすさって、ベルトに挿していた短刀を引き抜き、切っ先を闖入者に向ける。

そこで、彼女の体が固まった。

「こんばんは。

あなたたちも野宿? 私たちもなんだ。よかったら一緒しない?」

女の驚きようにはまるで頓着せずにそう言う闖入者を、彼女はただ目を見開いて見つめるばかりだ。

目の前にいるそれは彼女がはじめて見る生物だった。

信じられないが、そこにいるのはちいさな女の子だった。

小さな女の子、といっても幼女というわけではない。

外見は、十二・三歳の女の子だ。

しかも宙に浮いている。

その不思議な生物から目を離せない。

ナイフをむけたまま固まってしまっている。

それは男のほうとて同じだった。

しかし彼にはこの小人に対するかすかな知識――というよりもうろ覚えの記憶があった。

「妖精……か?」

彼の呟きを女が繰り返している。

「ようせい……」

「聞いたことがある。人間と同じ姿をした小さな種族がかつていた、と。

しかしそれはもう百年以上も前に滅んだとも聞いたが……」

「何ぶつぶつ言ってんの」

困惑顔の男に向けられた声はもちろん、その原因となっている妖精のものだ。

男は注意深く妖精を見返した。

その視線を受けて妖精は言った。

「ちょっと。

そんなに人のことじろじろ見るもんじゃないわよ。失礼でしょ。

ま、気持ちは分からないでもないけどね。私ってば超かわいいから」

二人の人間は言葉を失った。

その表情は驚きから呆れ顔になっている。

男の表情がにゅと緩んだ。

押し殺した笑い声を洩らす。

「レッド……」

女は妖精から視線を外さないまま男の名を呟き

「ちょっと。何笑ってるのよ」

妖精は唇を尖らせて、男を睨みつける。

「すまない」

レッドは微笑を浮かべたまま、妖精に謝罪した。

「妖精が滅んだなんて嘘だな、と思ってな。

こんなに元気のいい生物が早々いなくなるわけはない、とな」

実際目の前にいる妖精は答える。

「そうよ。

私たちは滅んだわけじゃないわ。ただ消えただけ。

人間たちの前からね」

「じゃあなんで……」

ここにいるのか。

思わず漏れた女の呟きに、妖精は答える。

しかし一転して歯切れが悪い。

「それはまあ……」

もごもごと口に中で何か言っていたかと思うと、なぜか顔を赤くして一気にまくし立てた。

「つまり!人にはそれぞれ事情があるってことよ」

もちろん何のことやら分からないが、女はとりあえず納得することにした。

レッドの方はというと

「ははははははは」

笑い出した。

「面白いやつだな、お前。

妖精とはみんなお前みたいに面白いやつばかりなのか。

だとすれば残念だな、人間たちの前から姿を消したというのは」

笑い収めると

「お前、名はなんという」

妖精はむすっとした様子で答える。

「お前お前って気安いわね。

初対面の相手に対して失礼でしょ。

それに人に名を尋ねる前に、自分が名乗るものでしょ」

「すまない」

男は小さな姿に頭を下げ、素直に名乗る。

「俺はレッド・テッド。

レッドと呼んでくれていい」

「私はシルフィ・シルフィーナ。

シルフィって呼んで!」

どこか笑いを含んだレッドに応じたシルフィの声は、あからさまに怒気を含んでいて、しかしレッドに気にしたふうはまるでなく、それどころか、場違いに感慨深い声を出す。

「今夜は記念すべき夜になったな」

不機嫌極まりない様子でありながらも、無視を決め込むという選択肢はないのか、とがった声ではあるが、シルフィはレッドに問い返していた。

「なんで?」

「もちろんお前と出会えたからさ。シルフィ」

レッドとシルフィのやり取りに口を挟むことなく、半ば呆れながら半ば面白がって二人のやり取りを聞いていた女だったが、レッドの言葉には鳥肌が立った。

恐ろしくうわっついた台詞。

歯が浮く、というやつである。

シルフィのほうも、レッドの台詞に全身をむず痒くしていたが、頬を赤らめ、まんざらでもないようにも見える。

そんな妖精に意外さを感じ、そして無理もないか、と思う。

面と向かってあんな恥ずかしい台詞を吐かれては、誰だって赤くなるだろう。

妖精といえど、女の子、ということだ。

そして改めてレッドを見る。

妖精といえど女の子には違いないシルフィ。

まさか彼女を口説くつもりではなかろうな。

疑いのまなざしを向ける女の耳がぐいと引っ張られた。

「ね、あなたは?」

妖精が覗き込んでいた。

「え?」

女はただ面食らう。

「名前よ。あなたの名前」

「あ、ハルカ。ハルカ・エア」

乞われるままにハルカは答えていた。

「じゃ、ハルカね」

シルフィは彼女をそう呼ぶことに決めると

「じゃ、レッド。ハルカ。私たちは今から友達ね」

無邪気にそう言った。

先ほどまでレッドに対していたときの機嫌の悪さはもうない。

確かにシルフィは無邪気なのだ。

無邪気ゆえに気に入らないことがあればすぐ怒るし、きっかけさえあれば機嫌もすぐに直る。

それに性格的にいつまでも怒ってはいられないのだろう。

疲れるから。

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