その1
雑草だ。
いたるところに雑草が生えている。
――草ぼうぼう。
だから誰もが思うことだろう。
この畑に人の手が入らなくなって久しい、と。
だがそうではなかった。
なぜなら雑草の中で、なにやらかがみこみ、そして今腰を上げた少年の手には、薄い紫色の表皮を持つ野菜――芋の一種だ――が握られていたからだ。
しかしそれは偶然にも少年が見つけたというわけでもないようだった。
少年は背負っていた篭にその芋を放り込んだ後、再び草の中にかがみこみ、そしてまた芋をひとつつかみあげて、同じように篭の中に入れたからだ。
しっかりと、ここは『畑』であった。
雑草と共存しているのである。
それもこの土地が肥沃だからこそだ。
『女神に祝福された土地』
昔からこのあたりの土地がそう呼ばれているゆえんだった。
背中に背負った篭が満足いく重さになったのか、少年は腰を伸ばすと、雑草を掻き分けて畑から抜け出す。そして荷車に篭を下ろすと、もう一度覗き込み、今日の収穫に満足そうに微笑む。もうひとつの篭から赤い果実をひとつ取り出すと、地面に腰を下ろす。
「いいの、取れたぁ」
頭上から聞こえた突然の声に、しかし少年は「うん」と驚くこともなく答え、果実にかぶりついた。
「あー、私にもちょうだぁい」
またしても頭上から声。少年はやはり驚くこともなく、咀嚼し甘い果実を味わっている。
そんな少年の眼前に、ふいと何かが飛んできた。
それはトンボのように、左右に二枚づつの羽を持っているが、トンボではなかった。虫でもなかった。
女の子だった。
少年の手より少し大きい、しかしやはり小さな女の子。
小さな女の子とはいっても、その概観は幼女などではなく、12,3歳の、少年とおなじ年頃の少女にしか見えない。
といっても彼女が人ではないことは明らかで、背中から生える大きな羽が、彼女が何者なのかを物語っていた。
妖精だ。