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恐怖と

プロットで逃げる対獣人部隊の後方からは、約10体ほどの獣人が全速力で追いかけてくる。獣人は最大級の15mから、初観測の人間ぽさがない獣人。というのも本来は上半身は獣人、下半身は人間という容姿をしているが、その獣人は下半身でさえ獣人特有の体毛がびっしりと生えていた。半獣半人と比べ、動きが桁違いにすばやくそして醜悪さも桁違いだった。

そこで隊長がこう叫んだ

「あの獣人を捕らえるんだ!!最悪死体でもいい!とにかく研究材料にするんだ!!」

「「はい!!」」

隊員全員がプロットから降車し、戦闘体制へと移行した。

「相手は複数体の獣人を連れている!手足を切断し、動きを封じることを優先しよう!!!」

ザシュ、と肉を切断する音とともに獣人の叫び声が響き渡る。

「さっきは叫び声で仲間を呼んだみたいだけど!!今回は周りに仲間は居ないみたいだね!!」

現在捕獲している1mの獣人は窮地になった途端、付近にいる獣人に叫び声という合図を送り援助を求めた。これは群れて暮らす獣人の特性だろうか。もし、どの獣人でも可能な事となればかなり厄介になってくるであろう。

「クソ!!これじゃあキリがねえ!!」

ベルがそう本音をこぼすのも無理はない。戦闘開始から約10分。次々と獣人がやってきて動きをおさえては増え、抑えては増えを永遠に繰り返している。

「やっぱり殺すしかないのかな・・」

レオはあることに気づき始めていた。それは獣人の弱点。

(まだ確信はない。つぎの獣人で試して確認をしよう・・)

ザシュ!

レオは付近にいた最小の獣人に切りかかった。その瞬間、

ドサッ…

獣人が倒れた。しばらくしてなお抗おうという余地が見られなかった。

それを見ていた隊長は、

「今のは・・手首・・・?」

レオの仮説が確信へと変わった。

「そうです!!獣人は手首が弱点です!!皆さん手首を集中攻撃してください!!」

「手首だな!わかった!!」

全員が手首を狙い、攻撃を仕掛ける。幸い現状死者は出ていない。というのも束の間、

「うわああああああ!!や、やめろ!!!」

グシャ…

獣人は手首ではなく人の首に噛み付いた。

「こ・・・殺した・・・?」

以前まで、獣人は人間の手首に噛みつき獣人に変えることで被害を出していた。今回は単純にしていることが違った。人が、実際に人が死んだ。獣人に変えられたわけでも、意識を失っているわけでもない。その場には死んだ隊員の頭だけが残っていった。

ゴロン・・

頭が転がり、レオと目が合う。

「う、うわああああああああ」

「だ、だめだ、ここは撤退しよう!!全員撤退せよ!!!」

殺した、獣人が人を殺した。熊などの猛獣にはよく言われている「人間の味を知った動物ほど恐ろしいものはない」。人間でも同様のことが言える。好物を見つければそれを意識してしまうのは必然であり、食らうことで通常より満足感を得ることが可能である。だからこそ、獣人に食われてはいけなかった。悪い偶然で、人間を食ったのは半獣半人ではなく完全な獣人だった。ただでさえ、謎の深い獣人の中でも今回初観測という未知の生物に味を知られてしまった。何をされるのかわからないという恐怖が全員の脳内を駆け巡る。

不幸中の幸いというべきか、獣人は一人を食した後、猛烈な勢いで獣人の国が存在するとされている壁に向かって走り始めた。

「よし!今のうちだみんなプロットを飛ばせ!!」

生け捕りにした1mの獣人を持ち、壁内へと急いだ。

ようやく壁についた頃には隊員は精神的にも肉体的にも限界を迎えていた。人類史上始めて獣人が人間を殺す所を目撃したのだ。この体験にベテランも新人もない。極めて遺憾なことだが、皆が平等に恐怖を与えられた。放心状態の者、無事帰還したことで感極まり泣き出す者。あれほど勇敢だった隊員の大半が恐怖におびえている。人類が改めて獣人の恐怖を体感した日となった。

獣人化13人、死者1人、負傷者21人。この大被害と引き換えに、生け捕りの確保、叫びの特性、獣人の弱点という人類にとって長かった第一歩を踏み出すことに成功した。報告書の欄には新しく、獣人化人数が付け加えれた。

隊長室には、隊長の話を聞くベルとレオの姿があった。

「今回の報告で国民の中にも、獣人の恐怖を目の当たりにして、取り乱す者、絶望する者様々いた。人間という者は、自分にとって不都合な事を経験すると改善を図る前に、悲観し現実を受け入れないよう振る舞うものだ。それは、いい意味でも悪い意味でも人間らしさだと言えるだろうね。恐怖というのは自己防衛本能であり、自らの意識で克服できるものではないんだ。けれど、その恐怖を克服するために必要なものは何かと原因の追求と改善を行える人は、少なくとも常人の10歩先を行っいるんじゃあないかと思うんだ」

これまで、ベルやレオの何倍も獣人の恐怖を体感してきた隊長だから言えることだろう。当然、隊長は仲間を目の前で何人も獣人にされてきただろう。

「隊長はその恐怖とどう向かいあってきたんですか?」

レオがそう尋ねる。

「私は正直怖いと感じることから逃げていた、そう思う。初めて獣人を見た時、初めて仲間が獣人になった時。それはそれはビビり散らかしていたさ。ある時このままでは自分が壊れてしまう、そう感じた。だから、逃げることで自分を保っていたんだ。だけど、ベルを初めて見たときはいままで逃げていた自分に虫唾が走ったね。だってあの時の自分は隊長でありながら、新人の隊員くんに負けていたんだから」

「俺を??」

「そう。あの時。一人で特攻していった時。その時のベルの後ろ姿をみて気がついたんだ。逃げる事で守れる者もあるけど、捨ててしまっていることのほうが何倍も多いってね。それにしても。ベルは獣人が怖くないのかい?」

「対面するまで怖いとは思っています。ただ、いざ獣人を目の当たりにすると殺したいという怒りで自然と恐怖はなくなるんです。そのおかげで戦うことができるのですが・・」

「何か問題があるのかい?」

「人間味を失うというか・・仲間が獣人になっても悲しみが出てこないんです。それが自分でも怖くて・・」

「6年前、ラトリアが一度目に襲われそうになった時もためらわず攻撃していました」

レオがそう補足する。

「もしかしたら、ベルの体質がなにかしら使えるかもしれないね。後日身体検査をさせてもらいたいんだけどいいかな?」

「わかりました」

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