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研究班

「その覚悟がない者、もしくはそれに対し疑問を抱くものはこの部隊には必要ない今すぐ立ち去ってもらって構わない」

 隊長はそう告げる。しかし、誰一人として動く気配はない。周りに合わせている所がないというわけではないが、それぞれが確かな誓いを元にここへ立っている。少なくとも、獣人を憎む気持ちは皆平等に持っている。

「よかった、それではここに居る全員を改めて対獣人部隊への入隊を許可しよう」

「あんたいいのか、あんなにビビってただろ」

 そうアノスがグリオズに問う。

「ここまで来たんだ、腹くくってやってくしかねえだろ、俺だけじゃねえ、みんなそう思ってるよ・・」

 アノスは周りを見渡す。

 半泣きのトール、いつもどおり冷静なジョン、デカイ割にビビっているトニー、そしてレオ。それぞれが、思いを胸に獣人の恐ろしさに怯えつつも勇気を振り絞り入隊を決断した。

「そうか、そうだよな、あんなに訓練したんだもんな」

 トールも決意を固めた。

「それでは今後の予定を簡単に説明しよう。早速だけど一週間以内に所属する班を決めてもらう。君たちももう知っていると思うけど対獣人部隊の中には3つの班が存在している。研究班、戦闘班、そして援護班だ。援護班に関しては国のきまりで必ず援護専用の組織を作ることになっているだけで、基本的には戦闘班になる。緊急時に研究班と戦闘班を行き来することがあることだけ知っておいて。研究班は戦闘班ほど危険性はないが、研究の進行具合によっては獣人相手に有利な立場になれる可能性がある重要な役割だ。よく考えて選ぶように」

 その後、諸事連絡を行い解散した。終わるとすぐにベルと合流し、入隊式の途中で隊長が言っていたことを聞きに行くことにした。

「隊長、具体的に研究では何がわかったんでしょうか」

「ああ、あの途中で言ってたやつのことか」

 エイジは椅子に腰掛け、「では」と切り出し話を始めた。

「君たちも6年前の襲撃は覚えているだろう、あの時人間は獣人になり得るということがわかったんだ。それを元に、私が過去に殺して破片を保存していた獣人の皮膚と、人間の皮膚を比べてみたんだ。そしたら、意外なことがわかってね。それが今後につながってくるんじゃないかって踏んでいるんだ」

「その意外なこととは・・・?」

「人間由来の細胞と獣人特有の細胞があったんだ。しかも、人間由来の細胞は重陣が死ぬまで生きていたみたいなんだ」

「ということは、人間は獣人になっても死んでいないということなんですか?!」

「その確率は多いにある。ただ・・」

 エイジは言葉をつまらせた

「ただ??」

 ベルは待ちきれず聞き返す。

「獣人の細胞と、人間の細胞は同じ核の中に存在しているんだ。だから、獣人を殺してしまうと、人間も死んでしまう。しかも、まだ調査出来ているのが死んだ獣人一体のみだから圧倒的に根拠不足なんだ」

「で、ではまだ・・!!まだ、人間に戻せる可能性があるってことですか??!!!」

「え?あ、ああ、かなり低確率ではあるが確かに可能性はあると思う・・」

「そうですか!!それは良かった!!では失礼します!!」

 ベルはそのままレオを連れて宿舎へと向かった。

「ね、ねえ!なんでそんな早とちりするのさ。低確率って言っていたし、もう少し話を聞いたほうがいいと思うけど・・」

「確率が低いとか高いとかどうでもいい。可能性があるならそれに全力になるしかないだろ」

「た、確かにそうだけどさあ・・」

 ベルは真剣な面構えでこう続けた。

「俺、決めた。研究班に入る。それで戦闘にも参加する」

「な、何いってんだよ!!入れる班は一つだけなんだよ!!」

 ベルはフッと得意げな顔になり、

「研究の一環で戦闘に参加するのは禁止されてないだろ?その口実を使うんだよ」

「そ、その手があったか!!」

「そうと決まったら明日隊長に早速交渉しよう」


 翌日


「だめだ」

 隊長が一言そう言い切る。

「なぜですか!!決まり的には大丈夫なはずでしょう!!」

 ベルも負けじと言い返す。

「わかっていないな君は、戦闘班には陣形というのが存在するのだよ。君の所を開ける余裕なんて――」

 エイジがそこまで言いかけた所で――

「隊長!!戦闘班の隊員が体調不良が悪化し、壁内部隊に送られました!!」

「な・・・」

 ベルは隊長と目が合うと、これでもかというドヤ顔で、

「これで断る理由はなくなりましたね。隊長さん」

 隊長はドヤ顔を続けるベルの顔から目をそらし、

「か、勝手にしなさい!!!」

 許可が降りた

「よっしゃあああ!!」

 こうしてベルは無事に研究班と戦闘を両立できる環境が整った。


 一ヶ月後


「本日!!50回生初の壁外遠征を行う!!各自陣形の最終確認を行うこと!!!」

「「はい!!」」

「ようやく壁外だ。これがラトリアを救うための第一歩だなレオ!!」

「そうだね!今回は経験も少ないから生き残ることだけを考えよう。あわよくば、獣人を観測できるといいんだけど・・」

「そ、そうだな」

 ベルは心のどこかで焦りを感じていた。ただでさえ、人類は研究が進んでいないのにゆっくり経験を積んでいていいのか心配だった。

(でも、レオの言うとおりだ。焦らずいこう・・)

「おい、レオ。無線はもったか?」

 対獣人部隊が壁外で連携を取るために使用しているのが、この無線だ。距離を取る陣形になる場合は、人の声量ではと支持が通らない。そのため全員とつながっているこの無線を使い指示をする。

「ベルこそ、初遠征だけじゃなくて指示役もやるんでしょ」

「ああ、でもこれから毎回なんだ。毎回ビビってられるかよ」

「全員位置につけ!!!!!!開門する!!!!」

 ゴゴゴゴゴゴゴと大きな地響きを立て、門が両手に開く。

「それではみんな!!!生きて帰ってくるよ!!レッツゴーー!!」

 隊長の妙に陽気な合図とともに門をくぐり、壁外へと出る。壁外での移動は自動二輪車で行う。その名もブロット。精密な計算が施されており、自立するために人の操縦を必要としない。

 出てすぐに気がつく。

「ここが・・壁外・・・」

 壁外は大きな草原となっていて、所々に獣人の住処と思われる土で出来た家がある。獣人の国だから当然ではあるが。これまでの壁外遠征で通ったのか一本道に草が一部分だけ剥げている。

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