入隊
(今日が始めの一歩だ・・・)
「お前ら訓練部隊は、進行陣営の把握、獣人知識試験、実技、訓練態度の4科目に取り組んでもらう。最終日に成績を発表し、成績順に志望部隊を選ぶことができる。この訓練により全てが決まると言っても過言ではない、心して望め!!」
「はい!!!!!」
「はあ・・ようやく一週間か・・死ぬほどきつかったぜ・・」
「何言ってるのベル、これから半年間あるんだよ」
「お前はすげえなレオ、一週間で陣営を把握しちまうなんて」
「まあ、あと3日はあるけどできるだけ自分のやりたいことに回したいからね」
「おいおい、お前もうへばってんのか、気持ちだけじゃあ獣人とは渡り合えねえぜ?」
そう煽り文句を並べるのは、同期で同じ対獣人部隊志望のトニー・ブラウン。トニーはとにかくでかい、そして誰よりも強い自信を持っている自信過剰の鑑。握力は80kgある。短気なベルは、二日目から食事中にトニーと喧嘩をしていらい犬猿の仲、この場合犬とゴリラだろうか。とにかく仲が悪い。
「さすが、獣人もどきのお前は獣人とは気が合うかもな」
ベルも負けじと煽り返す
「あ?お前もっぺんいってみろや」
「はあ?獣人の頭じゃあ一回で理解できねえか、可哀想に」
「何だお前!!」
トニーは我慢しきれず、拳を振り上げる。
「待ったあああああ!!」
その間に言葉を挟んだのは――
「君たちまた喧嘩しているの?みんな迷惑しているよ!」
同じく同期のトール・マリアだった。日頃、とても面倒見のいいお姉さんぶってはいるが隠せない天然さと、訓練部隊最年少というだけあってかなり舐められている。意外と苦労人で幼少期は食事さえ十分に取れていなかった。大好物はりんごの皮。だが、
「と、トールが言うなら仕方ない。今回は見逃してやるよ!」
トニーは初めてあったときから想いを寄せているため、異常なほど素直になる。ベルはそれを知っているのか、
「そうだなあ!トールが言うんだからやめよう!そうしよう!」
と、先程までの疲弊しきった体を忘れさせるような威勢でわざとらしく発した。
「そうそう、それでいいのよ、さあみんなご飯の時間は終わりだよ!!」
「チッ、覚えとけよベル・クライン・・」
トニーは小さくそう呟いた。
「これより第50回訓練部隊を解散式を始める。はじめに最終的な入隊先、成績上位3名を発表する!!」
「第三位、トニー・ブラウン、対獣人部隊」
「第二位、アノス・タトリー、対獣人部隊」
「第一位、レオ・メディラ、対獣人部隊」
「本日で訓練部隊は解散となるが、お前らは死ぬまで同じ部隊で働くことになる。その上で、お互いを知ること、獣人に関心を持ち続けることは忘れないように!!」
「「はい!!」」
「なお、ベル・クラインについてだが、お前は今日から対獣人部隊の副隊長となった。責任をもって務めること!!」
「え・・・・?」
副隊長、それは隊長の補佐だけにとどまらず、前線の指示及び戦闘隊長の役割をかねている。ベルの戦闘実技成績はトップではあったが、現役の隊員を抜く実力ということになると桁違いな戦闘能力だということになる。
「おいおい、訓練隊長さんよ、なんでベルなんかがそんな大役を?」
トニーは妬む気持ちがないわけではないが、同じ訓練隊員とそこまでの差をつけられた原因が純粋に知りたかった。
「そうだな、俺も詳しいことはわからんが、確か隊長からの強い要望とか言っていたな。それがどうかしたのか?」
「いえ・・」
「皆これまでご苦労だった。お前たちの活躍を心より期待している。これにて解散式を終了する。解散!!!」
解散式が終わるやいなや、
「おいベルお前すごいな!!一気に副隊長なんて!!」
皆ベルの大出世を喜び、たたえた。
「よーし今日は出世祝いだ!!羽を伸ばすぞ−−−!!」
そう心踊らせているのはアノス。一応女。アノスは群を抜いた自由人で、初日からプログラムから外れたことを行い、晩飯抜きという大処罰を食らっていた。ただ、成績に関しても群を抜いた結果を残している。今回の最終成績も全体レオについで2位と好成績を収めている。意外と美人で宝の持ち腐れを越して、顔が可哀想とまで言われている。
「そういや、レオも一位って何気にすごいよな!!」
「そう?というか君誰だっけ」
「まさか・・半年も一緒に居たのに・・まあいい、俺の名はグリエル・オズワルド。グリオズとでもよんでくれ」
グリエル・オズワルド。天下一のバカ。小さな村から英雄気取りで入隊してきたが、まさに井の中の蛙状態。始めの一ヶ月はついていくだけでも精一杯だった。特技は早寝早糞と豪語している。そのため、一定数嫌っているやつも居るが悪いやつではない。気取ったツーブロックがトレ−ドマーク。
「グリオズ・・髪型ださい・・」
「なんだジョン。お前俺の髪型がかっこよすぎて、素直になれないのか。好きな子に意地悪しちゃうあれか!」
ジョン・ラクター。無口な不思議ちゃん。よくわからない歌をずっと一人で歌っている。月に一度ほど、異常なほどテンションが高い日があるのだが、その日は戦闘能力がバク上がりする。持ち歌は1曲。
「そうだな、反面教師にはしているつもりだ・・ボソ」
「ああ?今なんか聞こえたなあ?」
「気の所為・・」
「はじめまして、私の名前はエイジ・ラオみんなよろしく!!」
(え?女?しかも陽気な?)
ベルがそう感じるには理由があった。遡ること3日前――
「そういや、お前が下に着く対獣人部隊隊長ってやばい人らしいぜ」
そう話すグリオズ。そのままこう続ける
「確か、獣人を滅多切りにしたらしいぜ。それが唯一殺せた獣人だってさ」
「え?あの獣人を?」
「そうそう、然も5mぐらいの獣人の首を落として頭をぐっちゃぐちゃになるまでふみつけたとか。そのせいで弱点がつかめなかったんだけどね」
「そうなのか・・」
(勝手にごつくて怖そうな人だと思ってたけど、安心したな)
「ここに居る子達の中には獣人を見たものがいるかもしれない。だからこそ、その経験を糧に頑張ってもらいたい。未だ獣人の弱点も有効な武器の開発も進んで居ないが、ここ最近でわかったこともある。それは後で個別に聞きに来てね。今日から入隊というわけなんだけど、これだけは忘れてはならない。この部隊に入るからには自分のあるものを全て捨て、獣人をいかに減らすかということに全身全霊をかけてほしい。6年前、対獣人部隊は隊員の2割をなくすという大被害を受けた。その時からなにかが変わってきている。誰かが変えるんじゃない、自分の、みんなの未来は私達が変えるんだ」
声量こそないが隊長が発する言葉の1語1語には目には見えない何かが宿っていた。