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獣人の君へ

「安心しろアトリア、もうすぐ壁内部隊が助けに来てくれるから!」

 この国には3つの部隊が存在する。

 ――対獣人部隊

 主に、壁外での調査、獣人の捕獲を生業としている。他の部隊より、圧倒的に死亡率が高いことを除けば、やりがいも給料も平均以上のいい仕事ということから入隊者も少なくないという。

 ――壁内部隊

 壁内の管理及び国民の治安維持を行う。やりがいこそないものの、基本的に仕事量が少なく楽ということから圧倒的入隊率を誇っている。

 ――部隊予備隊

 主に、他の二つの部隊の人員不足を解消するために存在している。他にも、壁を含む国内の施設の修繕及び建設、入隊希望者の訓練を行っている。

 壁は地区によって建設されており、地区の価値に伴い壁の強度が変わっている。ソート地区は貧民街と言われているだけあって、とても薄い壁で覆われている。それを狙ったのだとしたら、獣人には知性があるということになる。そうなってくるとかなり厄介である。

「壁内部隊は今中心地区の援助に向かってるから、こんな端の地区にはほとんど来ないんだ・・」

「なんだって?これじゃあ見捨ててるのと同じじゃねえか!!」

「元々この地区は囮代わりに使われてるんだ。その影響で家が安かったりするんだよ」

 ゴゴゴゴゴゴゴ…

「だめだ・・獣人がこの丘を上がってきてる・・」

「もっと上へ行くぞ!!!ついてこい!!」

 アトリアは震えたまま動こうしない。恐怖のあまり、正気を失っているのだろうか。それはラトリアに限らない。他の人々にも、諦めて祈る者、恐怖で暴れる者、その他様々。

「おいアトリア!早アく逃げるぞ・・グハッ・・・」

「ベル!どうしたんだ!!」

 ベルは、アトリアを立ち上がらせようとした瞬間、気を失いその場に倒れ込んだ。その間も絶えず獣人はこちらへ近づいてくる。

(僕じゃ一人しかおぶれない・・誰か助けを・・・)

 レオは助けを求めようと周りを見渡す。視界には誰も居ない、先程まで祈っていた人も、叫び我を忘れていた人も、その姿はなく、居るのは人ではなく獣人の群れだった。

「な、なんで獣人しか居ないんだよ!!これじゃあみんな死んでしまう、早く逃げなきゃ!!!」

 二人を抱え、必死で走り出す。しかし、力の弱いレオでは二人を抱えて走るほどの力はない。

「や、やばい追いつかれる・・・・」

 グシャ…

 焦りのあまり、足元の石ころに気がつかなかったレオはつまずき、その場に崩れ落ちた。レオの腕から落ち、獣人の方に転がっていくのは、ラトリアだった。

「ア、アトリアああああ!!!!!!」

「おい、レオ何しているんだ!!早く逃げろ!!」

 そう叫ぶのは、知り合いでもあり壁内部隊でもあるホープ・スミス――スミスさんだった。

「アトリアが・・獣人に・・」

「だめだ、あれじゃあもう助けられない!!お前らだけでも生き残るんだ!!」

 スミスは二人を抱え、走り出す。ラトリアは5mほどの獣人に持ち上げられ、

「アトリアあああああああああああ!!!!!!!!!」

 グシャ…

 獣人はラトリアの手首に噛み付いた。ラトリアの目から血の気が引くのがわかった。その瞬間、ラトリアの顔面に獣毛が生え始めた。目は黒く、爪はナイフのように鋭く、歯はとても尖った犬歯が生え、上半身が毛に覆われた。

 これじゃあまるで――完全に獣人だった。

「アトリア・・・・・・・」



「どうして・・・どうしてアトリアを見捨てたんだ!!アトリアはまだ意識もあった、走ることだって出来たはずなんだ!!!」

「あの状況を考えろ!!みんな死んでしまうところだったんだ!!!」

「ラトリアが居ないなら、もう僕はいきる意味なんてない・・・」

 ベルが目を覚ました。今の会話を聞いていたのか、

「アトリアはまだ、まだ死んでないはずだ!!」

 そう訴えた

「何を根拠に・・」

「まだ獣人になってしまっただけだ。可能性はある!!」

「でも・・そんな方法なんてまだ今の人類には・・・」

 人類にとって獣人は、一番身近な脅威でもあり、一番謎な生物でもある。現在は、戻す方法どころか弱点さえもわかっていない。

「レオ!!お前が!!俺達が対獣人部隊に入るんだ!!」

「僕が・・対獣人部隊に・・・????」

「そうだ!そして俺達で獣人の謎を暴くんだ、ラトリアを救うために!!」

 二人はその日固い決意を交わした。獣人の謎を暴き、アトリアを救う。そのためだったらなんでもしてやる・・・・

 その日、壁に隣接していたソート地区では死者・行方不明者約5万人、負傷者約8万人という人口の半分以上が死亡するという大被害を受けた。5万人全てが死亡したと言われているが、実際は3万人以上が獣人となり、今なお、避難が完了したソート地区をさまよっている。実際死亡した人の全てが獣人によるものではないのだという。ソート地区の住民は隣のヘルメス地区への避難を強いられた。

「隊長!!獣人が壁の近くを占拠しています!!早急に壁の修繕が必要だと思われます!!」

 部隊予備隊隊長イニス・ウォール。5年前まで、現役の対獣人部隊だったが戦果を買われその年から隊長に任命された。任命後は、壁を3つ建設、入隊希望者増加など部隊予備隊でも輝かしい成績を残している。趣味は獣人の研究。

「いや、今は中心部の防衛に行っている隊員をヘルメス地区に集めろ。避難者の対応を行わせる」

「はっ!!了解いたしました!!」

 国民を中心とする民主的な考えで国民からの支持も絶大だ。

「おい、いいのか?いつまた獣人が入り込んできてもおかしくねえぞ?」

「ヘルメス地区の壁はソート地区より強力だ、そう簡単には壊れはしない。それぐらい知っているだろソニー」

 ソニー・トラスト。予備隊副隊長兼壁内部隊隊長。イニスとは昔なじみで、入隊当初は特別部隊を二人で創立させることが夢だった。最年少隊長記録保持者。

「そりゃあそうが、ここは慎重に行くべきだろう」

「そこまで言うなら仕方ない。3分の1を修繕に回そう。それよりお前はこんな所にいていいのか?」

 兼任とはいえど、重要性でいえば壁内部隊隊長のほうが優先的である。

「それについては心配すんな。分隊長を作ってそれぞれ対応させてる。俺に来るのは緊急時だけだ」

 ソニーは効率、合理性を第一に考える完璧な現実主義で名を馳せている。実際、その考えが功を奏して必要人数が半分以下になったことでも有名だ。必要人数が減ることで、余裕ができ他部隊の援助に回せる。現在では予備隊同等の援助能力を誇っている。実力至上主義のこの国では、ソニーは王候補とも言われている。


6年後


「これより第50回訓練部隊を始動する!!まずは一人ずつ名と志望部隊を言え!!」

「対獣人部隊志望!!ベル・クラインです!!」

「対獣人部隊志望!!レオ・メディラです!!」

「壁内部隊志望!!ジョン・ラクターです!!」

「壁内部隊志望!!グリエル・オズワルドです!!!」

「対獣人部隊志望!!トニー・ブラウンです!!」

「部隊予備隊志望・・アノス・タトリーです・・」

「声が小さあああい!!!!」

「ヒィッ・・!」

「部隊予備隊志望!アノス・タトリーです!!」

「対獣人部隊志望!!トール・マリアです!!」

 ・・・・・・・・・・

「対獣人部隊20名、壁内部隊30名、部隊予備隊30名!!以上計70名の訓練部隊入隊を許可する!!志望部隊は今後2回の変更可能機会がある!!じっくり決めるように!」

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