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今週の授業も終わり、今日は待ちに待った先輩のライブの日。
「さ、緋叉弥くん。行こうよ!」
まさか小暮さんと一緒にライブに行く事になるなんて、思ってもなかったけどな。
ま、1人連れて行くっていう先輩との約束もこれでどうにかなった訳だし、もしかすると小暮さんもJackson Lilly'sのファンになってくれるかも知れないしな。
学校を出て、ライブハウスまでの道を歩く。
小暮さんも楽しみなのか、足取りが軽そうだ。
すると少し前を歩いていた彼女が振り返って、昼休みに何度も聞いた質問を俺に投げかけてくる。
「ね、何度も聞いたけどさ。やっぱり緋叉弥くん、先輩とお付き合いしてんの?」
まあ……ここまできたら、もう誤魔化すのもやめとこうかな?
格好つけてたって、現状は変わらないんだし。
「いや、付き合ってないよ?」
すると小暮さんは妙に納得の表情を浮かべる。
もしかして小暮さん、俺と先輩が付き合ってないって事は、お見通しだったのかな?
「ふふっ、じゃ、緋叉弥くんの片思いって訳だ」
なんだよ、小暮さん、エスパーかよ?
まさか俺の考えてる事、全部筒抜けか?
怖ぇな、なんか。
「ま、まあ、そんなとこかな?」
すると小暮さんは前を向き直し、「ふーん……そっかそっか……」などと、また納得したような事を言い出す。
そして彼女ははまたまた振り返る。
忙しい人だな。
「じゃあさ、私が手伝ってあげようじゃないか。緋叉弥くんの恋をさ」
「いや、何だか碌なことにならなさそうだから遠慮しとく」
例えば漫画とか小説のとかでそんなお助けキャラっぽい奴って、引っ搔き回すだけ引っ搔き回して事態をややこしくするだけで、何の役にもたたないってのが定石だろう。
「なーんーでーさー!?まあいいや。勝手に手伝っちゃうからさ」
「おいおい、あんま引っ搔き回さないでくれよ……」
でも応援してくれるってんなら、ま、いいか……。
取り敢えず俺達はライブハウスに到着した。
学校からまっすぐ来たから、まだ誰も集まってはいない。
多分トップバッターのバンドはもう楽屋に入ってるんだろうけど……。
「おっ、緋叉弥くん!」
そこに現れたのはメンバーの全員が揃った、Jackson Lilly'sの面々だった。
相変わらず心優先輩は体のサイズに似つかわしくないギターを背負っている。
「おおっ!?さっそく友達を連れて来てくれたんだ。ありがと!」
先輩は小暮さんに興味深そうな視線を送る。
「あ、あの、いつも緋叉弥くんがお世話になってます!小暮 鴇羽って言います」
あれ?緊張とは程遠い存在だと思ってた小暮さんが緊張してる?
それと初めて知ったけど、小暮さんの名前って、「ときは」って言うんだ。
始めて知った。
「あの、心優ちゃん先輩!」
って、小暮さん、心優ちゃん先輩なんて呼び方、うちのクラスでしか通用しないぞ?
「えっと、な、何かな?」
あ、でも通じてるっぽい。
って言うか、先輩、小暮さんの勢いにちょっと引き気味か?
「私、緋叉弥くんとお付き合いしてるんです!これ以上緋叉弥くんに付きまとわないでくださいっ!」
…………へ?