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翌日。
「明後日の金曜日さ、ライブ、あるんだけど来る?」
「行きます!」
「あはは、即答、ありがと」
先輩は俺のその態度に愛想笑いを浮かべつつ、チケットを差し出す。
そこにはその日のライブイベントの名前と出演バンドが記載されていて、先輩の所属するJackson Lily'sの出番は3番目になっていた。
「あの、チケット代、払いますよ?」
何だかんだで初めて先輩のライブを見た時もチケット代は先輩が出してくれたし、チケット代ぐらいのお金を出すぐらいの小遣いは貰ってる。
「ううん、良いんだよ。これは毎日一緒にお昼を食べてくれるお礼」
え……?
いや、どっちかって言うと、それって俺の方がお礼をしなきゃいけないんじゃ……?
そう思って遠慮しようと思った俺に、先輩はチケットを2枚手渡す。
「って、あれ?なんで2枚……?」
すると先輩は俺の顔を見て、いたずらっぽく微笑む。
あ、こんな表情の先輩も良いな……。
「あ、もう1枚は有料ね。まだまだうちのバンドは駆け出しだからさ。プロモーションが必要なんだよ。って事で、緋叉弥くん、誰か友達、連れてきて?えっとね、月夜野家の家憲……だよね?」
「えぇ……?」
先ほどの先輩の可愛らしい表情が今度は悪魔の微笑みのように思える。
そして今更ながら俺は以前、「誰かの血をいただいたら、必ずお礼をしなきゃいけない」などという、ありもしない家憲を持ち出した事を後悔したのだった。
教室に戻った俺は、席に座ってチケットを眺めつつ、先ほどのやり取りを思い出す。
さて、誰を連れていくかだよな……。
ちなみに1枚分のチケット代は先に支払っておいた。
教室を見渡す。
って言うか、まだ高校に入ったばかりの俺にそんな親しい奴などいない。
しょうがない。
今晩にでも同中だった奴でも誘うか……。
そう考えて中学時代の友人の顔を思い浮かべる。
すると……。
「緋叉弥くん、何、それ?」
昼休みに何か用事があったのか、俺より遅れて教室に帰ってきた小暮さんが、目ざとく俺の持つチケットに気付く。
「へぇ……ライブのチケットかぁ」
「って覗くなよぉ、小暮さんのエッチ」
「で、なんで緋叉弥くんがそんなの持ってるの?」
俺の冗談を華麗にスルーしつつ、小暮さんが尋ねてくる。
まあ別に……これは隠す事でもないか……。
「先輩さ、バンドしてるんだけど、誰か1人連れて来てくれって言われてさ。まあ、同中の奴でも……」
「行きたい!」
「へ……?」
小暮さんが俺を……いや、俺の持つチケットを見て目を輝かせる。
「あ、もしかして、誰を誘うとか、もう決めてる?」
そして彼女はすごく興味深そうな表情から一転、不安そうな表情に変わる。
「いや、まだだけど……」
すると彼女はそこからまた一転上機嫌な表情で俺を見る。
まるで百面相だな、これは。
「うん、じゃあ決まり!心優ちゃん先輩、どんなステージを見せてくれるのか、すっごく楽しみ!」
俺の周りの女性は強引な人しかいないのか?
そんなこんなで今週末は小暮さんと一緒に先輩の応援に行く事になったのだった。