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「緋叉弥くん、今日は4眼目の途中からずっと目が赤いままだよ?また心優ちゃん先輩を待ってるの?」


 隣の席で弁当を持ち寄ったクラスメイトの1人、小暮(こぐれ)さんが俺の目を興味深そうに見ながら告げる。


「まあ、そんなとこかな?」


 それを曖昧に返しつつ、俺はとある人を待っている。

 ああ、腹減った……。

 すると待ち人は案外すぐにやってきた。


「おーい!緋叉弥くーん!」


 教室中に響き渡る先輩の声。

 いや、歌声と一緒ですごく力強くてよく通る。

 お陰でクラス内の視線は先輩に、そして次いで俺に集中した。


「あっ、緋叉弥くん、心優ちゃん先輩、また来たよ?」


「ああ、うん」


 小暮さんに教えてもらう以前から俺は声のした方向に目を向けていた。

 って言っても俺の席は窓際の一番後ろ。

 いわゆる主人公の座る位置ってやつだ。

 聞こえてきたのはその先輩の大きなの声だけで、ここからは彼女の姿なんて見えない。


 ちなみに先輩が俺の教室に顔を出すのは初めてではない。

 あの衝撃的な出会いから先輩は毎日のように休み時間に顔を出すのだ。

 何だかんだで見た目上級生っぽくない、その愛くるしさと低身長なのが相まって、何故か彼女はうちのクラスでも人気者になっている。




「お昼は絶対に飴玉を舐めないで待っててね!」


 あの出会いの日。

 2度目の血を飲ませてもらった俺に先輩はそう告げた。


「え……だ、断食の強要ですか?」


 意図を図りかね、冗談っぽく返した俺に、先輩は笑顔で俺の顔を見る。


「あのね、一緒にご飯を食べたいなって思ってさ……ね、飴玉と私の血、どっちが美味しい!?」


「先輩の血です」


 即答だった。

 もちろん飴玉も美味いが、先輩の血とは全くもって比べようもない。


「ねっ!?だから、これから……毎日お昼は私が用意してあげる!」


 すると楽屋に一緒にいるJackson Lily'sの他の4人がざわめき立つ。


「まさか心優……?」


 夕樹さんが先輩に対して何だかにやりとした表情を浮かべる。

 ほかの3人も同様だ。


「ん?どうしたの?みんな、ニヤニヤして……」


 そんなメンバー達に当の先輩は不思議そうな表情。

 彼女は自分の言った事に対して、あまり疑問などは持たない質らしい。

 そんな彼女はもう一度俺を見上げる。

 そして……。


「ね?いいよね?あの……家憲のお礼はまとめてでいいからさ」


 あ、お礼はしっかり要求するんだ。

 って言うか、有無を言わせぬ雰囲気。

 相変わらず強引だな。


「あ、はい、じゃあ、俺、飴玉舐めずに待ってます」


「うん、じゃあ教室に迎えに行くね!」


 そんなこんなで強引ながら俺は心優先輩と毎日お昼をご一緒する事になったのだった。

 目の前には先輩の上機嫌な笑顔。

 その顔を見られただけで、俺としても最高の気分だった。

 ま、周りの夕樹さんを含め、Jacson Lily’sのみんなの生温かな視線が、俺の羞恥心にも火をつけた訳なんだけどな。






 そんな事を思い出しつつ、俺は先輩の後をついて行く。

 多分クラスメイトはみんな、俺と先輩が付き合ってるって思ってるんだろうな……。

 実際はそんな事ないんだけどさ。

 それにしても飴玉もあるっていうのに先輩はなんでわざわざ俺に血を飲ませようとするのか?

 それが甚だ疑問だったりする。

 ま、俺としては毎日先輩の美味い血が飲めて、それに先輩と昼休みを過ごせて嬉しいんだけどさ。



 うちの学校の中庭にはベンチなどが備え付けられていて、いわゆるリア充カップルどもがお昼時、一緒に食事を楽しむ空間となっている。

 今までの俺だったら普通に飴玉を舐めるだけだし、何よりそんなリア充の巣窟に足を踏み入れても居たたまれなくなるだけだしで、近付きもしなかった場所だ。

 そんなリア充スポットに、俺と先輩は隣り合って座る。

 そして先輩は鞄から、小さな弁当箱と、そして多分新たに買ったんだろう。

 血を出す為の小さな針と、そして消毒綿が出てきた。


「緋叉弥くん、ずっと目が赤いままだけど、どうする?先に飲んじゃう?」


 先輩は俺にそう尋ねてくる。

 俺としてはとにかく早く食事をしたいところ。

 何しろ4限目の途中からもうすでに空腹感を感じていたんだ。

 それこそ何度か飴玉に手を出したくなるくらいに……。


「あの……先でもいいですか?」


 何だか俺の方が懇願しているかのようだ。

 先輩は俺の様子を見て、既に満足げな表情。

 そんな先輩ってもしかするとナチュラルにドSなのかもしれない。




()っ……!」


 そしていつものように先輩の指先で玉のように膨らむ、真っ赤な血。

 そんな俺は……まるで飢えた獣のようにその指先ごと、口に含むのだった。

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