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「そんな……別に良いよ、これぐらい当然の事だし」


 俺の予想通り先輩は遠慮する。

 だけどこんな事で、引き下がると、この先輩との接点がなくなるような、そんな気がしたから……。


「あの、これ、月夜野(つきよの)家の……我が家の家憲なんですけど!誰かの血をいただいたら、必ずお礼をしなきゃいけないって!ここで何もしなかったら、天国の祖父に顔向け出来ませんし、俺が父親にしかられちゃいます!」


 もちろんこの話は噓っぱちだし、祖父ちゃんはしっかり生きてる。

 それ以前に我が家どころか親戚でも俺が初めての先祖返りだし、そんな家憲なんてあるわけがない。

 でも……言い訳としてはかなり苦しいよな。


「そ、それは大変だね!じゃ、じゃあ、お礼、してもらおうかな?」


 って、信じてくれたしっ!


「は、はい!是非!今からでも!」


「うん、じゃあ、ちょっとついてきて!」


 そして先輩は立ち上がると、大きなリュックサックと多分楽器が入ってるっぽい大きな鞄を持ち上げる。

 よし!これでこのかわいらしい先輩とも何とか接点が出来た。

 さぁ、気合を入れてお礼をしようか!





「えっと、どこまでついてったら良いんですかね?」


 心優(みゆ)先輩と俺は学校を出て、駅の方面に向かう。


「うん、ついてきたらわかるよ」


 彼女の名前は(さかき) 心優(みゆ)。高校2年生。

 身長はそれほど高くない。

 175センチの俺よりも20センチぐらい……いや、もっと低いんじゃないだろうか?

 小さな体に大きなリュック、そして……。


「先輩、音楽してるんですか?多分それってギターですよね?」


「うん、実は今日はライブなの。それで授業が終わって急いでたら、緋叉弥(ひさや)くんがのっぴきならない事になってたから驚いちゃった」


 なんて冗談っぽく先輩は言う……って……。


「急いでたのに……すいません。って言うか、先輩、こんな事してて良いんですか?」


「ああ、うん。大丈夫大丈夫!まだ十分間に合うしさ。それにほら……!」


 先輩が俺を連れてきた場所。

 そこは小さなライブハウスだった。


「やっぱりさ、ギャラリーは1人でも多い方が、楽しいじゃんっ!?」


「は、ははは……そうですね。楽しませてもらいます」


 そう返事をすると、先輩はにっこりと微笑む。

 まさかライブハウスに連れてこられるなんて意外だったけど、まあ良いや。

 取り敢えず先輩のライブでの姿を拝ませてもらおうかな?

 でもライブハウスなんて、俺、初めてだ。

 先輩に付いて行って、周りを見ながら楽しむようにしよう。




 ライブ会場には客っぽい人は誰も入っていない。

 聞けばライブは18時から始まるっぽい。

 それまで結構時間があるな。


「じゃあ早速、みんなに紹介するね!」


 先輩は会場の奥、楽屋とプレートに書かれたドアを開ける。

 すると様々な学校の制服を着た女性が4人待っていた。

 この人達が先輩のグループなのかな?だったとしたらいわゆるガールズバンドってやつか?

 まだ他のグループは来てないみたいだ。

 ……ってまさか、単独ライブじゃないよな、さすがに。


「遅れてごめーん!」


「もー、遅いよ心優ぅ。うちらトップバッターなんだからね?」


「で、誰?そこのカラコン男子は?」


 4人の視線が一気に俺に注がれる。

 もちろん俺はカラコンなんて入れてない。

 俺の目の色は元々薄い青なんだ。


「えっとね……私、実はこの子に血を飲んでもらってて遅れたの」


 先輩が説明をすると、4人ともその意味を上手く飲み込めなかったのか、数秒ほどの沈黙が訪れる。

 そして……。


「えぇぇぇ————―——―!!???」


 さすがはみんな同じチームだけある。

 まるで息を合わせたかのようなぴったりのタイミングで、驚きの声を上げたのだった。





「はぁー……先祖返りの人って初めて見たよ。都市伝説かと思ってた。あ、実は私も吸血鬼なんだけどさ。夕樹(ゆうき) (そほ)ね。よろしくぅ!」


 メンバーの中でも一際目を引くスタイルの良い女の子が自己紹介する。

 このメンバー内で吸血鬼なのは、この夕樹さんだけみたいだ。


「えっと、赭ちゃんね。私達のリーダーなんだよ」


 何故か先輩が誇らしげに説明してくれた。

 なんだかすごく仲が良さそうなグループだ。

 この人達がどんな演奏をするのか、俄然興味が湧いてきた。


「お疲れ様でーす」


 あ、別のグループの人達も来たみたいだ。


「じゃあ、先輩。俺、外で待ってますね。演奏、楽しみにしてます!」


「うん、任せて!」


 先輩はそう言ってニカッと笑う。

 そして俺は楽屋を去り、一旦ライブハウスの外に出ると、先ほどの先輩の笑顔を思い出しつつ開演を待ったのだった。

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