3/4
「さて……どこに行こうかな?」
天気は快晴。
春のポカポカとした陽気が心地良いけど、特に行くあてのない俺にはこの清々しい空気さえ無駄なもののように思えてくる。
今からでも誰か遊んでくれる奴とかいないかな……?
俺は同中だった奴の中でも特に仲の良かった「木崎 信也」に連絡してみる。
『もしもし』
「ああ、信也。今、暇か?」
『悪い、デート中』
「うん、死ねよ」
なんだよ。
あいつ、いつの間に彼女作ったんだよ?
あれか?高校デビューってやつか?
ちくしょう!
本人からしたらそうでもないんだろうけど、なんとなく裏切られた気分になった俺は、取り敢えずゲーセンに向かったのだった。
この妙な敗北感は、ゲームでもして発散させるしかないか……。
って事で俺は1人、ゲーセンでゲームを楽しむ。
だけどどうも身が入らない。
考えるのは先輩の事。
あーあ、これから2日間は先輩の血を飲めないんだよな。
先週の休みはさほど考えなかったけど、これから先、季節が進み春から夏になってくる。
夏休みとか長いよなぁ。
1ヶ月以上もの間、先輩の血が飲めなくなるだなんて、俺に耐えられるんだろうか?
はぁ、すっかり餌付けされちまったよ、俺。
「あれ、緋叉弥くん?」
ああ、ほら、こんな事考えてるもんだから先輩の声まで聞こえてきちまった。
どれだけ先輩の事、好きなんだよ、俺。
「あ、もしかして人違いでした?だったらごめんなさい!」
もしかして俺って末期症状か?
先輩まさか幻聴まで聞こえてくるなんてな。
「いやいや、緋叉弥くんじゃん。しかも目が赤くなってるし」
いきなり俺の視界に入ってくる女性の顔。
って近い近い!
「おわっ!」
俺は驚き上体をそらす。
ぽふっ!
「ひゃっ!」
あれ?何だか頭の後ろが柔らかな感触に包まれる。
この感触は……?
恐る恐る振り返る。
すると先ほど、俺の後頭部に当たったものが何なのかがわかった。
そしてその当たった箇所から上を見上げると、驚きの表情を浮かべる俺の思い人の顔が……。
その思い人の表情は俺と視線が合うと、徐々に笑顔に変わってくる。
そして……。
「奇遇だね、緋叉弥くん!」
胸に頭が当たった事をあまり気にしてないのか、彼女は満面の笑みを浮かべたのだった。
「もしかして緋叉弥くんはゲームに集中し過ぎてて、うちらの声が入ってきてなかったとか?」
「あ、あはは、申し訳ないです」
ちなみに俺の顔を覗き込んできたのは夕樹さんだった。
って、なんでこの人はニヤニヤしてるんだろう?
画面にでかでかとした『GAME OVER』の文字。
いや、別に悔しくはないけど。
それどころか俺としては偶然とはいえ、先輩と出会えたことの方が嬉しい。
ちなみに先輩はここでJackson Lilly'sの面々と待ち合わせをして、練習の為にスタジオへ行く予定って事だ。
あんまり長くは話が出来ないな……。
って言うか、何気に腹減ってきた。
考えてみりゃ朝食もまだなんだよな。
一応、飴玉は持ってきてるけど……。
「ね、緋叉弥くん、目が赤いけど、お食事、する?」
「はい、是非!」
「あはは、即答だね」
って事で、俺は幸運にも先輩の血をいただける事になったのだった。