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「やぁーっと下りてきた」
ダイニングテーブルに自分の顔をのせた肘をつきつつ呆れたようなモニカの表情。
彼女の前には一応所有者は撫子のものなんだけど、ほぼモニカ専用となりつつあるマグカップが置かれている。
そしてそんなモニカの正面に座ってるのが……。
「緋叉弥、遅い」
兄である俺に対するリスペクトを全く感じさせないような、そして全く感情を感じさせないような表情で俺を見上げる撫子。
って、いくら家族だからって、朝一なんだから朝の挨拶ぐらいしとこうぜ?
「何の用だ?撫子」
ま、俺もわざわざ挨拶なんてしないんだけどな。
何だかんだで兄妹仲は良くもなく悪くもないと思っている。
って言うか、普通がどんなのかはわからないが、普通の兄妹って感じか?
昔は「なんで双子なのに緋叉弥だけ先祖返りなのー?」なんて親に駄々をこねるような奴だったけどな。
ま、二卵性双生児なんだからそれはしょうがない。
「いや、ちょっと噂でね。あんたが女の子と付き合い始めたって噂が聞こえて来たんだけどさ。毎日中庭でお昼を一緒に食べてるーって」
ふむ、その噂の「女の子」とは心優先輩で間違いないだろう。
先輩と食事をするようになって、まだ1週間ちょっとしか経ってないってのに、もう別のクラスの撫子の耳に入ったんだな。
噂が巡るのって早いもんだ。
「ええー!?なっちゃん、それはないって!緋叉弥だよ?緋叉弥!」
おいおい、モニカよ。
お前はどれだけ失礼なんだ。
いきなり全否定すんじゃねえよ。
でもまさか撫子からそんな質問が飛んでくるとは思わなかった。
普段から俺に興味なんてないと思ってたのにな。
そうなると今度は俺の心にちょっとした悪戯心が芽生えてきたりする。
「気になるか?」
俺はにやけそうになる感情をどうにか抑えつつ、撫子に尋ねてみる。
いや、ちょっと表情に出てたかも?
すると撫子の顔がどんどんと赤くなってきた。
そしてその表情は怒っているような、それとも照れているかのような、そんな複雑な表情に変わってくる。
「べ、別にっ!?友達から色々聞かれても答えらんないから尋ねただけ。一応あんた、先祖返りで目立つしさ」
撫子はプイっと顔を逸らしつつ、少し悪態じみた事を言う。
あ、多分これは噓だな。
撫子は昔から噓を吐くとき、顔を逸らすんだ。
本当、我が妹は昔から変わらないな。
「ま、別に話す事なんて特にねぇよ」
何だかんだで興味津々そうな撫子にちょっと意地悪してやる。
すると撫子は追求したそうな、だけど多分それはプライドが許さないのであろう恨めしそうな顔を俺に向ける。
もうちょっと素直になれないもんかね?我が妹は。
「えー!?気ーにーなーるー!素直にゲロっちゃえよ、緋叉弥!」
ってそうだった。
ここには撫子の忠実な小間使い、モニカがいたのだ。
撫子はそんなモニカに「でかしたっ!」って目を向ける。
いや、そこまでプライドって大切か?
って言うか、撫子はおそらく放っておいてもこれ以上の追求はしてこないだろう。
問題はモニカの方か。
下手したら自分が納得するまで食い下がるだろう。
っとなると俺のする事はひとつ。
「ま、想像にお任せするわ。じゃあな」
逃げるが勝ちってやつだ。
既に出掛ける準備も済ませてた俺は、2人から逃げるかのように家を出たのだった。