表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

1/3

()っ!」


 放課後の保健室。

 彼女はそのきれいに整った顔をしかめる。

 左手薬指の指先にはぷっくりと玉のように膨らんだ血液。


「はい、どうぞ」


 そんな彼女の指先を、きれいに掃除するかのように丹念に舐めると、いつもの飴玉より刺激的な快感が俺を襲う。

 ヤバい、人の血ってこんなにも美味いんだ……。


「んっ……」


 すると彼女が少し鼻に掛かったような声を上げる。

 ……どうしたんだろう?

 そんな彼女の様子に、俺はパッと口を離す。


「あの……すいません。えっと……何か気になりましたか?」


 すると彼女は優しそうな表情を浮かべ、首を横に振る。


「ううん。ちょっとくすぐったくて……それと何でだろうね?何だか幸せな気分になって……えっと……あと、ちょっとだけ気持ち良かった……」


 彼女の顔を見ると、やはり恥ずかしかったんだろう。

 そう告げた後、俺の顔をまっすぐに見られないのか、少し上気した表情で視線を泳がせる。


「あ……あはは……もうっ、キミの指の舐め方がエロいんだよ」


「え……エロ……」


「あ、ごめんね。あんまりこんな話、慣れてなかった?」


 先輩は先ほどの発言を誤魔化すかのように苦笑する。

 えっと、この先輩は普段、こんな話を教室とかでしてるんだろうか?

 0って訳ではないけど、それほど女友達のいない俺にはよくわからないな。

 取敢えず俺の数少ない女友達に、そんな話題を出す人はいない。

 だけど……俺はその先輩の困ったような笑顔に、何だか胸の鼓動が高まるような、そんな気がした。


 視線を下に向けると、きれいに短く爪を切りそろえられた指先。

 俺、この人のこんなきれいな指先を傷付けてしまったんだよな……。

 罪悪感が俺を襲う。




 俺が……飴玉さえ忘れてこなけりゃな……。



 吸血鬼のなかでも先祖返りの俺は、人間の血液か、それの代替として血の成分が凝縮された薬……通称「飴玉」を摂取しないと、灰になって死んでしまうんだけど、今朝は寝坊してしまい、焦っていたのか、朝食で舐めた飴玉入りのポーチをそのまま食卓に置いてきてしまったのだ。

 それに気付いたのは3限目が終了した休み時間。

 走って学校まで来たせいか、昼休みまで腹が持たなかった。

 先祖返りは飢餓状態の合図として、目が赤くなるんだけど、クラスメイトにそれを指摘された俺は、その時初めて飴玉を忘れてきた事に気付く。

 その時はたまたま制服のポケットに飴玉が1粒だけ入ってて助かったんだけど……。


 親に連絡しても出ない。

 仕事に出てるんだろう。

 放課後まで腹がもてば良いんだけどな……。


 しかし悪い予感は的中する。

 多分5限目が体育だった事も影響したんだろう。

 放課後、クラスメイトが何かを呼びかけてたけど、それを無視して誰よりも早く教室を出て、昇降口に差し掛かった頃だった。

 急激な空腹感が俺を襲う。

 ああ、多分さっきのクラスメイトの呼びかけって、目が赤くなってるって指摘だったんだろうな。

 目が赤くなってから灰になって死んでしまうまで、個人差は多少あるみたいだけど、10時間から20時間って言われている。

 時間的にはまだまだ平気なんだろうけど……とにかく腹が減って辛い。

 早く家に帰って飴玉を口に入れないと……。


「ちょっとキミ……えっと、目が赤くなってるけど、大丈夫?」


 そんな時、まだ俺しかいなかった昇降口に1人の女子生徒が現れ、声を掛けてきた。

 俺の様子がただ事ではなかったのだろう。

 心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。


「あ、あの……腹が減って……」


 それだけ言うと彼女は全て察したかのように納得の表情を浮かべた。


「あれ?キミって……もしかして新入生の先祖返りくん?」


「あ、はい」


「えっと、あっ、お腹、空いてるんだよね?良かったら私の血、飲む?」


 俺は今まで人の血を飲んだ事はない。

 いや、正確には赤ん坊の頃に母親から飲ませてもらったらしいんだけど、全く記憶にないからはっきり言って初めてなのと変わらないのだ。

 えっと……この人の申し出を受けても良いんだろうか……?

 いや、せっかくの申し出だ。

 逆に受けないとこの人に悪いよな?


「あ、あの……お、お願いします」


 俺がおずおずとお願いすると、彼女はまるで天使のような笑顔を俺に向ける。


「うん、じゃあ早速、保健室に行こうか!」







「そっか。キミって元々は青い目をしてたんだね」


 ようやく目を合わせてくれた先輩は、俺の目を見て嬉しそうな表情を見せてくれた。


「ありがとうございます。本当に助かりました」


「ううん。私も助けになれて嬉しいよ」


 彼女はアルコールを含ませた綿で傷口を拭いながら笑顔を見せる。

 先程まで焦ってて、余裕がなかったからよくわからなかったけど、すごく笑顔のかわいらしい人だ。

 リボンの色は紺色。

 って事は、2年生、先輩だよな。


「あの……何かお礼をさせてください」


 多分この申し出は遠慮されるんだろうけど……助けてもらったからってだけじゃない。

 俺は多分、この先輩の事をもっと知りたいって思ったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ