最悪との遭遇
その後、他の病室に手掛かりがないか探すことにした。
少々危険があるかもしれないが、何もしないよりかはマシだろう。
226号室から少し離れた220号室の前にやってきた。
「この部屋は大丈夫そうか……?」
「別に変なにおいはしてこないよ」
「よし……開けるぞ」
そう言って俺は扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。
中は思っていたよりも綺麗な状態で、中に誰かがいる気配もない。
優香には部屋の外で待ってもらい1人で中を見ることにした。
ベットの様子や部屋の散らかり具合から見て、人がいた形跡がある。
形跡はあるものの誰かがいるわけではないため、やはり手掛かりにはならなさそうだ。
「きゃーーー!!!」
部屋の外にいるはずの優香が悲鳴を上げているのを耳にした。
また、それと別にドンドンと何かを叩いている打撃音のようなものも聞えてくる。
「どうかしたのか!?」
俺は慌てて部屋を飛び出し、床の近くに駆け寄った。
優香の様子を見ると怯えたような様子だが何かを見ているようだった。
その視線の先を見てみるとそこには信じがたいものの姿があった。
そこに立っていたのは人だ。
いや、それを人と呼ぶことは間違っているだろう。
見えている皮膚は腐乱しており、瞳は焦点が合っていない。
腕や足の向きもおかしくなっており、一目で死体であることがわかる。
まさしくさっきの雑誌で読んだ「ゾンビ」が俺たちの目の前にいる。
「……なんだよこれ」
信じられない。
まさか書いてあったことが本当だったということを信じたくない。
しかし、それは目の前にいるのだ。
「に、逃げるぞ……!」
「う、うん」
そう言って俺は優香の手を取って、ゾンビとは反対側に走り出した。
もし、俺たちの知っているゾンビと同じものなら嚙まれれば感染するうえ、戦って勝てるのかも怪しいだろう。
だから今は逃げるのが一番だ。
ゾンビの姿が視界から消えたことを確認すると近くの扉へ飛び込んだ。
そこは事務所のようなところで、誰かがいる気配はなかった。
「と、とりあえずここなら大丈夫だろう」
「そ、そうだね」
「……本当にいたんだな」
「黒崎くんの言ってたとおりだね。本当にいるなんて……」
由香の様子から怯えているのが見て取れる。
こんな状況で怖くない方がおかしい。
ひとまず事務所内を見渡し、何かないか見てみるもこれといって使えそうなものが見当たらなかった。
せめて武器になりそうなものでもあれば少し安心感があるのだが仕方がない。
問題はこれからどうするのか、考える必要ができた。