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あやかし娘と恋をして  作者: 神父二号
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第十八話 じゃあ、また

 町人向けの飯屋が多く立ち並ぶ六条東通りは五条東通りよりも、さらに静かだった。

 往来を歩く者より、店先を掃除している店員の方が目立つほどだ。


「この辺でどこか入ろう。どこがいい?」

「どこがいいと言われても、わたしは来るの初めてなんですけど……」

「そうだったな、じゃあ適当でいいか」

「そもそもやってるお店あるんですか?今お昼ごはんの時間じゃないですよ」


 言われてみればそうだ。ざっと見たところ多くの店が、仕込み中の看板を出している。

 時間が悪かった。すでに昼のかき入れ時が一段落して、どの店も夕飯時に向けた準備をしているのだろう。


「……まいったな」

「あ、ここはやってるみたいです」

「お、じゃあそこで……って」


 萩乃はぎのが指差したのは、俺の知っている店だった。

 妖退治で怪我した帰りに、夏梅なつめと寄った飯屋だ。

 なかなか料理も美味く値段も手ごろな良い店だが、夏梅がぎゃーぎゃー騒いだせいで顔を覚えられているかもしれない。


「どうしたんですか」

「いや、まあ……一回来たけど、美味い店だよ。ここにするか?」

「はい、あまり術を使ったまま歩き回るのも疲れるんです」


 萩乃が何ごとかを小さく呟き、人避けの術を解いた。

 俺はどうか覚えられていませんようにと念じながら、店に入った。

 時間帯もあってか幸いなことに、店内に他の客はいなかった。


「はい、らっしゃい!ん……この前の六波羅さんか。今日もお二人かい?」

「え、ああ……二人で」


 がっつり覚えられていた。

 元気よく出迎えた女店員は、前と同じ人――名前は確かりんさんだ。

 日焼けがよく似合う、勝ち気で活発そうな看板娘である。

 凛さんは俺の顔を見た後、視線を横に逸らして萩乃を眺め、また俺に視線を戻して、呆れたような表情を浮かべた。


「……なんだい、珍しい時間に来たと思ったら。今回は別のお相手連れてるのかい、色男さん」

「!!い、いやこの子は………あれです、妹です」

「えっ?」

「へぇ……こりゃまた、随分と可愛らしい娘さんだね」

「そ、そうでしょう。自慢の妹で。ここの飯美味いから、一回連れてきてやりたくて。なあ、妹」

「はい?」

「……まあ、いいけどね。この前のおチビさんみたく騒がしくしなけりゃ何でも。今は空いてるから、好きなところに座りな」

「じゃ、じゃあ奥の席いくか、妹よ」

「……分かりました……お兄さま」


 凛さんを適当に誤魔化し、人目につかなさそうな奥の席へと座る。

 お品書きを対面の萩乃に渡すと、ジトっと睨まれた。


「……いつわたしが冬四郎の妹になったんですか?」

「し、しかたないだろ。そう言っといた方が、何かと無難なんだよ」

「別のお相手がって言われてましたけど、あざみと来たんですか?」

「いや、別の奴……か、勘違いするなよ。ただの仕事仲間だからな」

「へぇ、さっきの女の人はそんな口ぶりじゃなかったですけど……」

「勘違いしてんだよ」

「……ふーん、そうですか」


 萩乃はジト目のまま俺の言葉を軽く流し、お品書きに視線を落とした。

 なぜ俺を疑うのか。ここには検非違使の夏梅と来ただけなのに。

 凛さんが何か勘違いしてる節はあったが、それで萩乃にまで勘違いされたら、たまったもんじゃない。

 そうだ、これは夏梅のせいだ。あいつがやたら騒いだから、変な風に覚えられてしまったのだ。夏梅め、許さん。


「……むむ」


 萩乃は妙に真剣そうにお品書きを睨んでいる。

 そういや、妖は人間の字が読めるんだろうか。あざみは値札くらい読めると言ってたから、多分大丈夫か。


「……美味しいのは、どれですか」

「俺は普段おすすめを頼むな」

「……おすすめ」

「日によって出てくるものが違うんだ。魚とか肉とか」

「ふーん」

「おすすめにするか?」

「……いえ、鶏肉丼で」

「おっしゃ、すいませーん」


 俺達は鶏肉丼を二つ注文した。


「鶏肉好きなのか?」

「鶏肉が嫌いな妖はいません」

「まあ美味いもんな。俺達人間も何か贅沢なものを、って言ったら第一は鶏肉ってくらいだし」

「……あ。す、すいません、わたしそんなつもりじゃ……」

「気にすんな。ここの店は値段抑えてくれるから」


 どこぞの検非違使のチビ助みたいに遠慮なしにドカ食いしなければな、と俺は心の中でつぶやいた。

 お冷を飲みながら、料理が出てくるまでの時間を話して過ごす。


「なぁ」

「なんですか」

「あざみのやつ……あっちで元気にしてるかな。最近顔を見せないけど」

「うっとうしいくらい元気ですよ。昨日だって、呼んでもいないのに狐の領地を抜けて、わたしのところまで来て。何かと思えば牡丹さまへの愚痴ばっかり」


 萩乃の口から、牡丹という名前が出た。さきほど飯綱天神で話してる時にも聞いた名前だ。

 牡丹の宮、だったか。


「牡丹さまって、あざみの母上か?」

「はい。あざみと違って大変聡明で落ち着いた方です。牡丹さまは、あざみがこっちに来るのをよく思ってません。禁止してるはずです、人間に関わるのを」

「そんな……」

「仕方ないでしょう。こっちで悪い人間にでも引っかかったら、大変じゃないですか」

「……それ、俺のことか?」

「あ。い、いえ、わたしが冬四郎をそう思ってるとかじゃなくて。牡丹さまが、そういうお考えなんじゃないかって」


 萩乃が少し慌てたように訂正する。

 そういえばあざみは、母上と二人で暮らしていると言っていた。

 確かに人避けの術があっても、俺みたいに姿が見える他の人間と万が一出くわせば、問題が起こってもおかしくはない。

 たまにしか姿を見せないのも、母上の目をかいくぐって無理にこっちへ来てるからなんだろう。

 そう考えると、次はいつ会えるかも分からない気がした。


「……萩乃」

「はい?」

「人間が妖の世界に行く方法ってないのか?」

「……なんでそんなこと聞くんです」

「いや……なんとなく」

「し、知りませんよ。そんなの」

「悪い……変なこと聞いた」

「いえ……」


 萩乃が眉をひそめ、お冷をぐいっと喉に流し込んだ。

 迷惑なことを聞いてしまったみたいだ。それもそうだろう。

 鼬の老人が、一族は頭が固いとぼやいていたし、人間嫌いはあざみの母上に限った話でもなさそうだったから。

 ただ、あざみのやつが三回も人間の都へ勝手に遊びにきたせいで、母上の怒りを買っていたとしたら。

 それでもし、あざみがもう、こっちに来られないのだとしたら。


「あざみ……」

「そ、そんなに深刻そうな顔しないでください。あの不良狐のことです。どうせまた言いつけも守らずに、ふらっとこっちに来ますよ」

「ほ、ほんとか?」

「……ころころ表情が変わりますね、冬四郎って」

「そうか?あー……鶏肉丼まだかな」

「……やっぱり人間って、変です」


 萩乃は笑ったような呆れたような微妙な表情で、小さくため息をついた。


「……わたしからも、聞きたいことがあるんですけど」

「聞きたいこと?」

「どうして冬四郎は人避けの術をかけても、わたしたちが見えるんですか?」

「えっ?」


 思わぬ質問だった。


「わたしはともかく、お爺さまやあざみはわたしより人避けの術がずっと上手なのに、どうして分かるんですか?」

「……さぁ。同じことあざみにも聞かれたけど、俺自身分かってない」

「なんですか、それ」

「他にも俺みたいな奴、探せばいるんじゃないか?」

「お爺さまに冬四郎の話をした時は、そんな人間見たことない、いるわけないって言ってました。実際に冬四郎を見て驚いてましたし」

「はぁ……」

「この術は高度に霊力を操る術で、目が良ければ見えるとか、そういう術ではないんです」


 そんなことを言われても、俺自身なぜ見えるのか分からないのだ。

 夏梅のように霊力を使う術を身に着けているわけでもない。

 あの日、大駕籠祭りの夜に、どうしてあざみを見ることができたのか。どうして茶屋の長椅子に座る鼬の老人に気付いたのか。どうして飯綱天神の境内で萩乃が見えたのか。

 考えても、分からないことだった。


「萩乃はどうしてだと思う?」

「冬四郎も、実は妖……とか。妖なら人避けの術は効かないので」

「ないだろ。父上からそんな話聞いたこともない。少なくとも、父上は人間だったし」

「お母さまは?」

「母上は……」


 母上のことは、ついぞ聞いたことがなかった。

 ただ、俺が幼い頃に亡くなったとしか。

 母上に、俺の知らない何かがあったんだろうか。


「まさか、俺の母上が妖……?」

「まあ、それはないですね」

「え、なんで」

「妖の血は人間より濃いとお爺さまが言ってました。冬四郎のお母さまが妖なら、冬四郎には妖の耳としっぽが生えてます」

「そ、そうか……」


 じゃあ何でなんだ。

 俺達はお冷をすすって、一呼吸ついた。


「あとは……そうですね。どこかで強力な妖の血を飲んだとか」

「妖の血?」

「はい。強い妖の血の影響で、身体が少しだけ妖に寄っている……みたいな。そんなことありえるかは分かりませんが」

「……いいや、そんな物飲んだ覚えはないぞ」

「そうですか……じゃあもう、わたしには分かりませんね。でも、お爺さまならもしかしたら……むっ」


 萩乃が急に話題を切り上げ、店の奥を睨みつけ始める。

 お凛さんがお盆に乗った丼を二つ、運んできた。

 分厚く切った鶏肉を卵でとじ、タレをかけた、美味そうな鶏肉丼だ。


「……ごくっ。こ、これが人間の食べ物ですか……!」

「冷める前に食べよう。いただきます」

「……いただきます」


 箸で半熟状態の卵を割ると、よく焼けた鶏肉からむわっと湯気が立ち上った。

 ひとかじりしてみる。パリパリになった皮が肉の柔らかさと合わさって、とても食べ応えがある。

 萩乃はというと、熱いのが苦手なのか、ふーふーと息を吹きかけ肉を冷ましていた。


「……な、なんですか。じろじろ見ないでください」

「いや、萩乃も猫舌なんだなって。あざみと一緒だ」

「う、うるさいですよ。こんなあつあつのお肉は、あまり食べないんです。だから……はむっ。む、む……!!」


 目を丸くして肉を頬張る少女は、既に次の切れへと箸をつけている。

 歳相応といった風な可愛らしい食事姿に、つい笑みがこぼれる。

 机の下で、ぱしっと軽く足を蹴られた。


「んぐっ。し、失礼です。女性の食べる姿をじっと見るなんて」

「ははは、悪い」

「……冬四郎もどんどん食べたらどうですか。冷めてしまいます」

「おう、そうだな」


 卵を軽く米に馴染ませ、鶏肉といっしょに口に運ぶ。

 萩乃は俺の食べ方を見て真似しようとするも、口が小さいせいか上手くいっていない。

 角度を変えつつ何とか大きな鶏肉にかじりつこうとする姿に笑うと、またも足を蹴られてしまった。

 あまりじっと見ているとまた蹴られそうなので、俺は凛さんが机を一つずつ丁寧に拭く様子を眺めながら、箸をすすめていった。


「……その、おいしいですね。人間のお食事も」

「そう言ってくれて何よりだ」

「……別に冬四郎を褒めたわけじゃありません」

「分かってるよ」

「……はむ」


 萩乃がまた俺の足を蹴ってきた。

 今度の蹴りは、じゃれてくるような力加減だった。

 ――俺に本当に妹がいたら、こういう感じなのかもしれない。

 そんなことを思いながら、大きめの肉にかぶりつく。

 相変わらず、何を頼んでも美味いものが出てくる飯屋だ。

 今日の鶏肉丼は、特に美味い気がする。


「食べ終わったら、このまま少しゆっくりしていくか?」

「……お店に迷惑かからないですか?」

「大丈夫だろ。夕飯目的の客が来るまでは。何か追加で頼んでいいぞ」

「……じゃあ、えっと……これが食べ終わったら……んん……冷茶とお菓子……」


 卵を口の端にくっつけたままお品書きを改める萩乃が、とても可愛らしく感じた。


「いてっ」

「またにやにやしてました。……すけべ」


 食後に呼んだ凛さんに、萩乃は自分で追加を注文したのだった。






 少々長い食事を終えて五条西通りに戻ると、飯綱天神前は相変わらずの喧噪ぶりだった。

 遊女たちの客引きの声は日が傾き始めてもやまず、早めの夕飯をぜひと男を誘っている。

 女たちは朝昼晩と常にこの調子である。これだけの活力は一体どこから沸いてくるのだろうと、疑問に思うほどだ。

 俺と萩乃はやはり道の端を歩き、人混みにまぎれないよう飯綱天神の大鳥居へとゆっくり歩いていく。

 本当にゆっくりと、時折立ち止まりながら歩いた。

 萩乃が、喧噪の様子を眺めているからだった。


「はぁ。ここの騒々しさだけは、ほんとに苦手です」

「俺もそんな得意じゃないな」

「仮にここで術を解いたらどうなるんでしょう」

「多分連れだってても、おかまいなく声をかけてくるぞ。すごい執念だからな」

「……どうして、ここの女性たちはあんなに熱心なんですか」


 人避けの術をかけた俺達の目の前で、気の弱そうな男が遊女たちに半ば強引に捕らえられた。

 着飾った女たちはついに獲物を得たとばかりに笑い、うきうきとした様子で男を店の中へと連れ込んでいく。


「そんなに、生活が大変なんでしょうか」

「いや。多分そんなこともないだろ。ここの連中のしつこさは、そういう必死さじゃない」

「じゃあ、どうしてですか」

「さあ」

「さあ、って……適当ですか」

「楽しいから、あれだけ熱心にやってるんじゃないか。人間なんてそんなもんだ」

「…………」


 俺は萩乃に答えながら、あざみとも同じようなやりとりをしたことを思い出していた。

 大駕籠祭りの夜のことだった。

 あざみはどうしてこんな祭りをするのかと俺に聞いて、俺はどうして人間の祭りを見に来たのかとあざみに聞いた。

 楽しいから。やってみたかったから。答えはどっちとも、そんなものだった。


「萩乃だって、人間の都を見てみたかったから、今日境内の外に出たんだろ。妖も人間も、したいことをしてるだけだ」

「……別に。わたしはそういうんじゃ」

「じゃあ、どうして俺についてきたんだ?」

「お、お爺さまが意地悪するから……」


 立ち止まって俯く萩乃の前で、またも遊女の笑い声が一際大きく響いた。

 男の背中を強引に押し、自分の店へと案内する女たちの顔は、いきいきとしていて本当に楽しそうだ。

 その様子を見つめる少女は、どこか寂しそうだった。


「……狐のあざみが」

「ん?」

「楽しそうに話すからですよ。都のこと……冬四郎のこと」

「…………」

「妖は、人間と関わるべきじゃないって、お父さまもお母さまも言っていました」

「…………」

「狐の牡丹さま……あざみのお母さまも、同じご意見だと思います。お爺さまとあざみだけが、楽しそうにこっちの話をするんです」

「……楽しかったか?人間の都は」

「それはまだ、よく分かりません。だって」

「だって?」


 萩乃はもにょもにょと口をもごつかせ、恥ずかしそうに小さな声で言った。


「その、お食事しただけで……終わっちゃいましたし」

「……ぷっ、ははは」

「な、なんで笑うんですか!別に、別に他の場所も見てみたかったとか、そんなこと言ってるわけじゃありません!そもそも、今日はお爺さまが変なことしたから……!」

「じゃあ、次は市場にでも行こう」

「えっ……」

「また、遊びに来てくれるんだろ?あざみみたいに」

「っ……!」


 俺達が話している横で、またも遊女たちが大笑いした。

 今日何人捕まえたか。目標まであと何人か。頭の痛くなるようなバカげたことを大声で競い合っている。

 俺達の時間はもうすぐ終わりでも、彼女たちにとっては今日一日はまだまだこれからなのだ。


「都のことはよく分かりませんでしたけど」


 笑う遊女たちを眺めていた萩乃が、小さな声で言った。


「……冬四郎は、あざみに聞いた通りでした」






 大鳥居をくぐって入った境内は日が傾く時間帯のせいか、少しだけ薄暗かった。

 大岩の前まで来たが、やはり鼬の老人の姿はない。

 萩乃は細長い木の葉を取りだし、大岩に向かって何事かを呟いてはくるくると木の葉の向きを指先で変えた。


「……はぁ、ちゃんとあっちに戻れそうです」

「そっか、よかったな」

「よくありません。帰ったら、お爺さまにおしおきです」

「ははは……ご老体なんだから、あまりいじめて差し上げるなよ」

「お爺さまはそんなにやわじゃありません。全然こたえないんですから」


 萩乃が大岩から向き直り、俺に視線を向けた。

 朽葉色のさらさらな髪と、銀色にも瑠璃色にも見える不思議な瞳。

 正面から見つめ返しても、少女は視線を逸らそうとしなかった。

 木々の擦れる音が止み、辺りには静けさが満ちる。

 少し身じろぎするだけで、砂利の擦れる音がよく聞こえた。


「……じゃあ、帰りますので」

「ああ、またな」

「……さっきから、どうしてわたしがまた来る前提なんですか」

「あざみだって、いつも『また来る』って言うぞ」

「あざみあざみって、冬四郎そればっかりじゃないですか」

「萩乃だってそうだろ。あざみがあざみがって、言ってる」

「わたしは別に……!」


 しばし見つめ合った後、萩乃は大きく息を吐いた。

 ここで初めて出会った時より、表情が柔らかくなっている――気がした。

 幼さを残した容貌にはやはり人間離れした美しさがあり、引き込まれるように見惚れてしまう。


「狐のあざみとは、子どものころからずっと一緒にいるんです」

「…………」

「狐と鼬は仲が悪いことになっているのであまり関わるべきじゃないんですけど。あざみはそんなことお構いなしにわたしにちょっかいばっかりかけてきて」

「…………」

「最近は、都都、冬四郎冬四郎ってほんとにうるさいです」

「……そうか」

「で、でもわたしは……」

「ん?」

「わたしは冬四郎冬四郎言いませんから。あざみほど単純じゃありませんから」


 早口で言い終えた萩乃が木の葉を斜めに一振りした。

 あざみのようにさっと消えるでもなく、足元からゆっくりと、萩乃の姿が掻き消えていく。



「今日は、ありがとうです。じゃあ……また」



 鼬の少女の姿が完全に消え去り、また境内の木々が風に揺れ始めた。

 そして砂利の上には、細長い木の葉だけが残っていた。


「……妖に縁があるな、俺って」


 俺は萩乃の木の葉を拾い、懐の巾着袋に入れた。

 あざみがくれた二枚の木の葉といっしょに。


「あざみの奴、怒るかな」


 清々しい心地の中、それだけが妙に気になった。

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