日常の1コマ *4
よし!
これで序章ラスト!
次回からは本編だ……。
「で? 降伏しないの? オジサンたち」
拘束しているオジサンたちを見下ろしながら言う。オジサンたちはだんまりを決め込んでいる。
「ねーえ。オジサンたちも知ってるでしょ? デスペナルティ」
このゲームにも、もちろんデスペナルティが存在する。
1時間のステータス半減。それがこのゲームにおけるデスペナルティだ。
1時間というのは短いように見えて結構長い。デスペナルティの途中で殺されてしまえばプラス1時間になるのだから、ひどいときは24時間なんて話も聞いたことがある。
しかもここは初期リスポーン地点として有名な始まりの町で、仕掛けてきたのは向こう。そんなことはしないけど、リスキルを狙うことだって可能なのだ。
オジサンたちは苦虫を嚙み潰したような顔をするが、それでも口を閉じたままだった。
「はぁ……。まだ降参しないわけ?」
「お前みたいな偽物に頭を下げるくらいなら死んだほうがましだ」
あぁそっか。この人たちのなかで僕はまだ偽物なんだっけか。
「あぁ? どういうことだ?」
ヴァロンさんがドスを聞かせた声で問う。旗で飛んできたメンバーは僕が偽物だと思われていることを知らないから無理もないけど怖いよ。現実で危ない職業でもしてるの?
「聞いてよヴァロンさん。こいつらファータ君を偽物のギルドマスターだなんて言うんだよ。俺たちを口説き落としたのはまぎれもないファータ君なのに」
ナツさんがからかうようにヴァロンさんにしなだれる。
ちょっと待って。だれが男を口説くか。ナツさんはこういうけど、その話が出るたびにいつも否定したくなるんだよね。
ヴァロンさんは今なお健在の上位ランカーで無課金ゲーマーの中では文句なしのトッププレイヤーだし、ナツさんもランキングには乗らずとも名の知れたプレイヤーだった。
当時の僕は、もちろん知ったうえで誘ったけどそれに了承したのは2人なんだよなぁ。
巷では「2人の有名人を口説いた謎の人物」ということになっているらしいけど。誠に遺憾である。
「へぇ? ファータが偽物ねぇ? おい。ファータ俺に命令しろ。どうしてほしい?」
ニヤリと笑うヴァロンさん。どうやら茶番をお望みらしい。
幹部の方々はその辺に転がっている椅子に座りもう観客の気分だ。あ。チャージくんが女の手を振りほどいてソファ陣取った。
たまに起こるこの茶番。僕のためだとはわかっているけど恥ずかしいんだよね。
それに謎の罪悪感がある。何が悲しくて一回り以上離れた人たちを呼び捨てにして命令しないといけないのか。本当にやるせない。
ひとつため息をこぼして表情を変える。
いや、多分戻すのほうが正しいんだろうな。現実世界の僕に。冷酷無慈悲な自分に。これも僕がこの茶番を嫌う理由だ。
そんな自嘲を頭の中でこぼしながら受付カウンターに腰掛け、足を組み相手を見下す。するとヴァロンさんとナツさんが跪いて指示を仰ぐ。
「はぁ……。ヴァロン、SummerFiesta。あいつらを殺せ」
声をできるだけ低くして淡々と指示を下した。
「御意に。マイマスター」
「派手にやってやるよギルマス」
二人とも芝居がかった礼をとると、各々の武器を構えオジサンたちに近づき……
「悪かった降参だ!! 殺さないでくれぇ!!」
2人の態度を見て本当だと悟ったのか、オジサンたちが泣きながら懇願する。いい年下大人が泣くなよ。
「もういいですよ二人とも」
あきれながら二人を止めるとオジサンたちは気絶した。
――四名の降伏を確認。勝者は『ルシファの翼』になります――
アナウンス音が響き、オジサンたちがテレポートする。茶番中も頑張ってチャージくんにまとわりついていた女たちごと。
「もー!! 僕があんたらに命令するの嫌なの知ってるでしょう!?」
「仕方ねぇだろ。あぁでもしねぇと信じねぇんだよ」
「アッハッハ。年々貫禄出てきたんじゃない? ファータ君」
この場にいるのが信用できるギルドメンバーだけになったことを確認してナツさんに抱き着いた。ポフンという効果音が鳴る。
ナツさんは僕の頭をなでながらヴァロンさんに勝ち誇った顔をした。
いやだって血まみれた人に抱き着きたくない。パーティクルだけど。
「これ、いつからやるようになったんだっけ?」
砂糖くんが尋ねるとチャージくんが呆れながら答える。
「『幹部引き抜き事件』だよ」
懐かしいなぁ。なんだっけ。「お前みたいな小僧に扱えるんだったら俺だってあいつらを扱える。宝の持ち腐れだからよこせ」だったかな。
「あー。ナツさんとヴァロンさんが勧誘してきたやつらの目の前で『俺たちが絶対的な忠誠を誓うのはファータだけだ! それ以外の言うことなんて誰が聞くか!』ってやったやつかー」
「あのあとみんなで報復しに行ったよねー。ファータちゃん怖がらせるやつなんて消えればいい! って」
砂糖くんが思い出して苦笑いするとあるさん(☆あるてぃめっと☆の愛称)がニヤニヤしながら言う。
その話あとで聞いたときはびっくりしたよなぁ。MMOニュースにもすっぱ抜かれたし。そのせいで今の『明けの明星』のイメージが定着したといっても過言ではないはず。
「あの報復事件のことはちょこちゃんとスフィちゃんが詳しいと思うよー各所回って仲裁してたから」
ちなみに今出てきたちょこさんとスフィさん、スフィーリアさんが残りの幹部だったりする。
あとは僕の右腕的な存在がいるけど今頃はまだ学校かな。
こんな話をしてる間に戦利品の山分けが終わったらしく、ギルメンが片付けを始めていた。
僕はまだナツさんの腕の中なんだけど。
「ナツさんもう大丈夫ですよ……?」
「そう? じゃあはい」
あっさり解放してくれた。
これがあるさんだったら絶対放してくれなかったよ。よし。これからもナツさんにしよう。
報復事件含めて昔からみんなには助けられてるよなぁ。なんて思い返してみたりしながら僕たちはギルドの大掃除を始めた。
これは、こんな僕たちがなぜ極悪ギルドと呼ばれるに至ったのか、そんなくだらなくも大切な思い出の話――
こんばんは。M@iです。
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