日常の1コマ *3
うーん。序章が思ったより長引いている気がする……。
「さあ戦争だ! 己のために戦え!」
――ギルドフラッグ解放【戦争を開始します】――
ギルドフラッグ。ギルドマスターにしか権限のないシステムの一つだ。ギルド印によって解放されるギルドの旗で、ギルド戦争というイベントを発生させることができる。
勝利条件はギルドマスターのキル。もしくはフラッグの破壊。ギルドマスターの降伏によって行われる。戦争が開始されるとギルドメンバーは旗のもとにテレポートできる仕様もあるんだけど……。
「ファータが戦争しかけるんなんて珍しいじゃねぇか! ほぉ? これはまた華やかな出迎えだなぁ」
旗にヴァロンさんが降り立ち、下を見て呟く。この人なんでログインしてんだ。まだ夕方だぞ……。あぁ。最悪……。戦闘狂がきてしまった。
デスサイズと呼ばれる死神のような大鎌を肩に担ぎながら舌なめずりをする。すでに白いティシャツが赤のまだら模様になっているところを見ると何人か狩っていた途中だったのかもしれない。
「ひゃっほう」といいながら飛び降り、鎌を振り回す。ヴァロンさんに僕は目を閉じた。
「ご愁傷様」
一瞬だけ黙祷をささげ、室内へと戻る。あの惨劇を眺める趣味はない。
ギルドのエントラスは騒然としていた。砂糖くんはヴァロンさんを手助けに行ったらしく、いないがチャージくんだけでここを制圧しきっていたようだ。
僕らを馬鹿にしたように笑っていたきらびやかな美少女たちがチャージくんに群がっている。
脅されていただの、誤解していただの。女って怖えなって思う。チャージくんの謎の魅力にも。
「なーつさん。なんで言ってくれなかったんですか」
「言ったら絶対ファータ君は来ちゃうでしょ。ギルドマスターがひょいひょい表に出てきちゃだめだよ。特にうちのギルドは他からの怨嗟ひどいんだから」
「だからってこの支部つぶされたら怒りますよ。ここは大切な場所なんです」
ナツさんやチャージくんが懐かし気な顔をする。もうあれから2年も経ってるんだなぁ。
「なに勝ち誇ったようにぼーっとしてんだ偽物がぁ!!」
1人のおっさんがチャージくんの拘束を抜け出したらしく、剣を抜いてこちらへ向かってくる。
「ナツさん支援お願いします」
太ももに忍ばせておいたナイフを抜き取ると足に力をいれ思い切りジャンプする。相手に失速と防御低下のデバフ、自分に攻撃力増加のバフがかかったのを確認して、おっさんの首にナイフを突き立て介錯のごとく切り落とす。
室内がどよめくなか、そのままの勢いでチャージくんにまとわりついていた女の1人に持っていたナイフを投げた。
女の心臓付近に刺さったナイフに女は叫び声をあげながら崩れ落ちる。白と赤のパーティクルを放ちながらおっさんと女は粒子となって消えた。
――『グリフォン』のギルドマスターがキルされました――
女がいた場所に文字が浮かび上がる。
ふむ。やっぱりマスターは女のほうだったか。
「女のほうだったのかよ。どうやって気づいたの? ファータ」
チャージくんが少し驚いたように聞いてくる。
「え? チャージくんまともな女の子にもてないじゃん。彼女は他のやつらみたく着飾ってなかったし、武装だってしてたから」
チャージくんにまとわりつく女たちは全員非武装で自分をよく見せるためだけの服を着ている。だが、先ほどの女性だけ、ちゃんとバフのついた装備を身に着けていたんだよね。
不服そうなチャージくんが腕にしがみついていた女を振り払おうとしながら口を開く。
「ファータ、俺への認識どうなってるわけ」
「メンヘラホイホイ」
「ブフォッ」
間髪入れずに答えると、ナツさんが噴出した。きたないなぁ。
チャージくんは否定せず、こちらを睨む。動きが止まったためか、先ほどとは違う女がチャージくんの腕にしがみついた。
無言は肯定と同義だよ。
――とそんなことを話している間にいつのまにかギルドの前が静かになっている。
キィという音を立て数人が入ってくる。見なくてもわかるが、そこに立っていたのは『明けの明星』の面々だった。
「あれー? 1人やっちゃってるじゃんー」
息をのむ拘束されたギルドの上層部。支部内は殺気とパーティクル、緊張に包まれ静かだった。
そんな緊張が支配した空間を壊したのは、今どきの女の子というような恰好をした女の子だ。階段からひょっこり顔を出して僕の手元のナイフを見やる。
彼女はうちのスナイパーで、アーチェリー使いの桜ラッテ。彼女も幹部で創立メンバーだったりする。
「ちょっとちょっと! 女の子まで殺しちゃったの!? プークスクスッ。ファータちゃん怒らせるとかどんなことしちゃったわけ!?」
爆笑しながら地面に刺さったナイフを手に取ったのは☆あるてぃめっと☆さんといい、テイマーをしている。
女の子好きを自称しているが、性格ブスには容赦ない。こんなんでもうちのギルドだといじられキャラだ。
「シャワー浴びてぇ。さすがにべとべとする……」
赤のペンキを頭からかぶったんじゃないかというほどにスプラッタになったヴァロンさんが入ってくる。なんでパーティクルしかないはずの返り血でそこまで真っ赤になれるのか不思議だ。
ほんと恐ろしいんだよな……。先に戻ってきた砂糖くんドン引きじゃないか。
「まぁた派手にやりましたね戦闘狂」
チャージがヴァロンさんを煽る。
「あぁ? てめぇに言われたくねえよ。随分とより取り見取りな女そろえてんじゃねえか色ボケ小僧」
ヴァロンさんがチャージくんの周囲の女の子たちを見て鼻で笑う。こんなところで喧嘩しないでほしい。いまからこいつら降伏させて掃除しなくちゃいけないんだから。
にしても今日集まったの六人か。結構集まったな。今日平日だしまだ夕方なんですがねぇ。社会人の方々?
半分呆れつつも僕は拘束されたギルド上層部のオジサンたちを見た。
こんばんは。M@iです。
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