山の下の街8
少女は未だ目が覚めていなかった。
(寒い…)
暗い部屋の様な空間。そこにただ蹲っていただけの少女。誰かが彼女をそこから引き摺り出してくれた。
彼女にはそれが昔の自分の姿だと分かった。かつて、自分を救って育ててくれた男、背の高い丸眼鏡を光らせた男、タカの姿があった。
(何か、話している…聞こえない…)
優しく自分の頭を撫でてくれるタカが何かを囁いている。しかし声が聞こえない。
(何を、何をおっしゃっているのですか?)
『…あ……てん…君……名……そ………アリア…』
返事をしようとした時、少女は目が覚めた。
「この先に抜け道があるはずだ。昔の連絡用通路らしい」
「その道から合流地点まで直接行けますか?」
「いや、抜けたら一度開けた場所に出る。約百メートルくらいだろうが、合流地点までにはそこを通らなきゃならない。向こうさんの配置から見るに確実に見つかる」
「メリュたちは?」
「もう戦闘形態に入っているはずだ。そろそろ向こうに索敵される頃だしな」
話し声が聞こえた。そして、人の温もりを感じた。
目を開けると自分が人に背負られていた。顔を上げると隣にいたピンク色の髪の女性が気が付いた。
「隊長、彼女目覚めたわ」
呼ばれた隊長は真紅の髪の女性で仲間との議論を中断してすぐにこちらに向かってきた。
「初めまして。アリア」
少女、アリアは隊長から握手を求められるが初めて会った人物にいきなり名前を呼ばれて警戒し仕返さなかった。
「タカ殿から話は伺っているはず。我々と今日合流するはずだと」
「貴方達は何者ですか?」
「我々はタカ殿と同じ志をもつ者。アルプス水機団第三十六特殊分隊。通称"スワロウテイル"の隊長、ユフォ=ソフィア大佐だ。よろしく」
「ソフィア…」
「ああ、私の実家はスイス本国でね。それより本当に話を聞いていないのかな?」
アリアは首を縦に振った。
ユフォは少し困った様子でアリアと、アリアを背負う青年マサノリを見た。
「多分、訓練も受けていないはず…うーん」
「話の途中で申し訳ないです」
横から男性が割って入ってきた。四十代くらいの大柄な銀髪のドワーフの男だった。
「隊長、さっきの話、急いだほうがいい。メリュもそうだが、我々がここに留まって見つかるまでに時間がない。今はとにかく動くべきです」
「そうだね、急ごう。全員にポイントBルートで行く様に伝えて。即時戦闘態勢の状態で進みます。合流まで三十分のリミットで行くよ」
「了解。先頭は?」
「キリに」
男は頷くと周りにいた仲間に指示を出していく。次々と数人の影が動きだす。
「君も戦闘になるかもしれないから覚悟して」
「…わかった」
ユフォの言葉にマサノリはアリアを背負う手元に力が入った。
「アリアも、少しの時間でいい。私たちを信頼してこの人に背負われていて。今は問答をしている暇は無いから」
アリアは黙って目を閉じた。
「ありがとう。副隊長、あとはよろしく」
「了解」
そうして隊は少し急いで夜陰を駆けて行った。




