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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第三章 竜國炎上 ーParis brûle-t-il?、ー
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竜國炎上24

 パリの中心部、王国側の拠点"ルーブル"周辺では多くの"騎士"達が前線に赴く準備を行なっていた。同時に南の前線から逃げて来た市民達を北側へ向かわせる為の対応を役人達が総出で行い現場は混雑を極めていた。このようになってしまうのはこの国が人口に対して狭すぎるという点に他ならないが、それでも大した混乱が起きないのは"宰相"と役人達の優秀さと日頃からの努力の賜物と言える。

とはいえ限界はあり、怒号や絶叫があちこちから聞こえてくる様になったのは侵攻が始まってから三時間ほど、雨が降り出した頃だった。


「本降りになりそうですな」


「陛下がお眠りになったのでしょう。"皇域"もかなり出力を抑えていらっしゃる」


"ルーブル"内の階段側のイスでモネとバジールは少しだけ休憩していた。


「戦況は…正直宜しくありませぬな。敵は"マリアンヌ"のメンバーも投入しているようで、ドラクロワが一人と戦闘中だそうな」


「他のメンバー…特にリーダーのジャンヌはまだ現れていないようですが、彼女でなくとも脅威です。先程、ロシュフォール卿を呼び戻しました」


「お二人方」


「おぉロシュフォール卿。丁度お主の話をしておったところだ」


黒い甲冑に黒いマントを靡かせた将軍は雨に濡れた髪をタオルで拭きながら颯爽と現れた。モネは座って窓の外を無表情で見つめながら手元の紅茶を啜った。


「よく来てくれました。今、団と捜索隊の状況は?」


「はっ、団の指揮は副将に任せ4区の旧サン=ポール駅の地下鉄ホームに拠点を置いております。そこから選抜した捜索隊を"地下迷宮カタコンベ"に侵入させております」


「目星は付いているのですか?」


「迷宮の奥内に強大な魔力反応を二つ確認しました。どちらか一つは目標かと思っております」


「もう一つは?」


「わかりませぬ。が、"魔法使い"の可能性は大いにあると考え、向かわせた者達は手練れにしました。会敵してもすぐに退却する様にと伝えてあります」


「懸命です。流石ですね」


「いえ、それで私を呼び出した理由をお聞かせ願いたい」


「そろそろ状況を変えたいなと」


モネは腰を上げた。外では多くの人々がざわついている。


「攻勢を仕掛けます。お二人共、力添えを」


 同じ頃、共和国軍第二陣営拠点"エタンプ"郊外からユフォ隊を含む部隊が前線に進発した。

マサノリやアリア、ルシファも小銃等の共和国軍使用の灰色の装備に身を包み編成隊の輸送車の後ろに乗り込む。


「雨が、降って来たな」


ユフォの言葉にマサノリは外を見た。度重なる作戦準備の重労働に憔悴していたので外の状況に気が付かなかった。


「ここはまだ"反逆の壁"の中か?」


「いや、どちらかといえば、"太陽竜"の"皇域"内だ…雨という事は王様はお眠りに付いたんだろう」


「いやいや、こんな時だぞ?"皇域"を弱めていると我々の勘違いを誘う為にわざと出力を下げているのではないか?」


同じ輸送車に乗る部隊の会話が聞こえてきた。


「あの、キリさん。"反逆の壁"とか、"皇域"ってなんですか?」


「なんだ知らないのか。そういえば、当たり前すぎて誰も説明してなかったな」


マサノリの隣に座っていたキリは荷物を確認しながら説明を向かいのパバロに求めた。


「やれやれ仕方ねぇな。そうさな、皆が言っているのは"太陽竜"の"皇域"と"反逆の魔法使い"の"壁"の事だ。この二つは強大な存在が、そのデカすぎて発散しやすい魔力を、ある範囲にわざと限定して充満させる事で力を制御する精度を向上させる為に使っている技の事だ。二つとも形こそ違えど基本は同じだ」


パバロは自分の懐から本を取り出した。


「俺の使う"呪本"や魔術士の"杖"なんかも同じ理屈で使う物だ。道具に限定させて魔力を使う事で術の精度を上げる事ができる」


「ユフォ隊長の刀とかもそういうものなんですか?」


「いや、"契約兵装"は全く違う代物だな…まぁそれは今はいい。とにかく、そんな感じだ」


パバロは他の部隊の兵士の顔を見て、"契約兵装"の事をうっかり口走るのを止めた。それからは無言が続き、マサノリは外に目をやった。


(なら、この右眼は何になるんだろう…)


 景色は灰の平野から抜け、崩れた建物がちらほらと見えて来た。同時にけたたましい轟音が聞こえ始めていた。

 共和政府軍第二陣が標的としたのはかつてパリの南の玄関口とされたオルリー空港の跡地であった。今は王国軍の最前線基地として多くの騎士を常駐させる要塞となっている。

第一陣を二手に分け、空港の東西を迂回するようにヴェルサイユとクレテイユから攻撃を仕掛けたのは南側の指揮を取るドラクロワの意識と人員をそちらに向け空港内の戦力を孤立させる事にあった。


「空港周辺の市街地の制圧は外人部隊の内、ヴァニティ隊を主に中隊規模の地上部隊を送る。主要幹線道路が合流する地点にあるヴィスーの市街地の制圧まで攻撃を行い、後続する第二陣本大隊と合流する。いいな?」


第二陣を指揮するデュマ元帥は作戦本部内の各指揮官に次々と指示を出していく。

ヴァニティ隊の女性指揮官であるドワーフのシビー・ノックは少し怪訝な顔を隠さずデュマに質問した。


「その後は?空港を制圧した所で第一陣が押し返されるのは時間の問題です。"マリアンヌ"が出ていたとしても"氷麗竜"とその部下の実力は圧倒的にこちらより上です。空港を制圧する事は私には戦略的意味がないように思えるのですが」


「そうだな、君には話しておこう。確かにあの空港を制圧する事は普通に考えれば意味がない。制空権は竜の方に軍配が上がるものだしな…一日もすれば敵はヴェルサイユとクレテイユの前線を押し戻して我々は東西から挟み撃ちにされて全滅するだろう」


デュマは一つ地図を持ち出した。


「これは空港の地下鉄の詳細を表したものだ。四十年も前のものだが正確なものだよ」


(地下?)


「空港にはかつて地下鉄が何本か通っていて、それらは全てパリの中心部と繋がっていたのは覚えているね?」


シビーは今年で64歳になる。"大混乱"から生き残って来た猛者であった。頷くシビーにデュマは淡々と説明していく。


「主要なメトロの内、4号線と6号線の坑道の間の下に秘密の路線がある。"大混乱"より遥か前に作られた政府専用のものだ。空港とルーブルまでを繋いでいる」


「そんなものが、本当に…」


「確かにある。証人は私だ。以前はエリゼ宮の警護職についていたからな」


「それについては存知ております」


「空港制圧後、我々はこの路線を使って敵の本陣ルーブルへの強襲をかける。故に君たちにこの作戦を指示した」


「なるほど、理解はしました。すぐに準備に入ります」


「よろしく頼むよ。これは"聖戦"の要なんだ」


シビーは一礼した後、すぐに現場に向かう為に装甲車に乗り込んだ。部下が車を出すとシビーは窓ガラスを叩いた。


「くそ!何が"聖戦"だ!市街地の制圧などと、敵側の民間人の殺害は我々みたいな移民に押し付けやがって!」


「シビー中佐、敵に民間人はいません。全て"怪物"です。殺しても罪なんてありませんよ」


運転手の部下の男は割り切った様に喋った。


「そんな事はわかっているさ若造」


部下の一言にシビーはため息を吐き、手元の装備をチェックしていく。

シビーは"大混乱"当時は14歳の少女だった。つい数秒前まで話していた友人達が"怪物"になり、必死で逃げて、逃げて、逃げて、気がつけば住んでいた街からも遠く離れていて家族も何もかも失った。そこから10年ほど地獄を生き抜いて共和国が樹立して2年目あたりに共和国籍を得た。そのまま家庭を持って平穏に暮らす選択肢もあったが、それまでに身体は血に汚れすぎていたと感じて軍隊に入った。そこからも手は赤くなるばかりだった。


(私にとっては魔族を殺す事も敵を殺す事も"人殺し"なんだ。随分と慣れ親しんだものだな…)


報いはいつか受けるだろう。その時、これから殺す人々の分の罪も入っているのだろうかとシビーは思いながら外の車窓を見る。見渡す限りの灰の平原と秋の青空が不気味に続いていた。

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