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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第三章 竜國炎上 ーParis brûle-t-il?、ー
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竜國炎上22

 メリュは非常に困惑していた。


「うん、似合うんじゃないかな」


同じ格好をしたマネがうんうんと頷きながら感心していた。


「いや、似合ってるじゃなくて!」


メリュは、黒の生地が多めのメイド服を着せられていた。


「どうして私が宮使いになるのか説明してよ!」


「んー?そうだなぁ、強いて言うなら働かざるもの食うべからずだからかな」


「説明になってないよ!」


「じゃあ、私が復職するにあたって王宮っていうストレスの魔窟に一人で向かうのは嫌だから道連れっていうのは?」


「最悪だよ!」


 ほんの数日前までメリュは戦場にいたはずだが、マネとまるで姉妹のように軽口を言い合えるまでになっていた。

 コンコンと二人のいる部屋の外からノックが鳴り、マネの実姉モネがスーツ姿で入って来た。


「そろそろいいかな、二人共」


「大丈夫よ、それよりどう?メリュ似合ってるでしょ」


「そうだね。確かに似合ってる、記憶がないそうだけど、きっといいご家庭で育ったんだろうね。品がある」


いいご家庭。の言葉に少し心が騒ついたメリュだったが、次を考える前にマネが化粧支度を終わらせようとしたので手伝った。メリュは確かにお嬢様だが、同時に根っからの軍人なのだ。故に心の切り替えは早かった。

 早々に支度を終えて二人はモネと共に部屋を出た。

三人がいるこの場所は"ルーブル"と呼ばれる。半世紀前まで美術館であった。いまは朝廷が置かれ外朝が行われている政権の中枢である。


「モネ、これ。復職祝いよ」


マネはモネから大きめの眼鏡を貰った。赤いフレームが目立ったが、マネの長い銀色の髪に合った。


「ありがとう、大事に使うわ」


うん。と短くモネはいうとそれきり黙って長い長い絵画の並んだ廊下を歩き続けた。

ある部屋の前に着くとノックをした。


「国母様、参りました」


入りなさい。の声に扉が開かれた。

部屋は"ナポレオンの部屋"と呼ばれていて古く宮殿として使われていた頃は国務大臣に与えられていた豪勢な内装の部屋だった。

中央のソファーに一人腰掛けた貴婦人がいた。貴婦人と言っても豪華なドレスを着ているわけでもなく安物ではないが、スカートの長いベージュのスーツを着て首元には青のスカーフを巻いていた。


「お久しぶりね、メイド長」


「こちらこそ、長らくお暇を頂いておりました国母様」


国母様。と呼ばれた貴婦人はマネの後ろを見た。


「国母様、これは私の姪であります。メリュと言います。メリュ、こちらは王陛下の母君ヴァラットン・ドートリッシュ様だよ」


「お初に御目にかかります、メリュと申します」


メリュは丁寧に頭を下げ、スカートを軽く上げた。その振る舞いにマネは感心していたがメリュ自身は姪の一言に動揺していた。それでもその動揺も緊張も見せない胆力は彼女が如何にアルプスの上流階級を渡ってきたかを物語っている。


「お顔を見せて」


メリュが顔を上げるとヴァラットンは優しい笑顔で見つめてきた。整った顔立ちに赤い瞳この人物もやはり"竜族"なのだとメリュは理解した。それ以上に、メリュはヴァラットンの髪が気になった。長く黒茶色の髪を纏めてはいるが所々枝毛が目立つ。痛々しいくらいに。


「かわいい娘ね、昔のあの子みたいだわ」


「有難き御言葉にございます」


「早速だけれど、共に"リュクサンブル"に来て頂けるかしら?あの子が待っているの」


ヴァラットンはマネの手を握った。


「もちろんでございます国母様。その為に私共は参ったのですから」


「では、後の事は私が。不遜な客が、参っております」


「任せましたよ"宰相モネ"。この国の命運は貴方の手際にかかっているのですから」


ヴァラットンの厳しくも期待を持った激励にマネは重々に頭を下げた。


「御意に」


 ヴァラットンが、マネたちを連れて行った後の部屋をモネが出ようとした時だった。


「妹君はお変わりありませんでしたな」


「バシール将軍…」


「ただ今、帰参致しました」


 常人よりも二回りも大きく、緑色の肌に筋骨を携えた老獪の"田舎小鬼ホブゴブリン "は深々と宰相に敬服した。


「ブリュターニュはどうでしたか?」


「五つの県の内、四つの知事を掌握致しました。残りの一つ、フィニステール県だけは先んじた"覇海竜"の一派に取られてしまいましたが。今は県境に我が"スルー団"の麾下三軍を配備し均衡を保っております。ひとまずは落ち着いた。といった所でしょうかな」


落ち着いた。の言葉に宰相は深く息を吐いた。


「良かった」


「それよりも、陛下がお目覚めになられたのは本当なのですか?」


「本当です。ただし、"肉体"だけですが」


「なんと、それは極めて危険ではありませんか」


「今、全力をもってルノワール将軍に"魂"を捜索して貰っています」


「確かにそれはこの緊急事態でも"三騎士団"の一角を割く事ではありますな…」


現在、"フランス王国"は危機を迎えていた。

王の覚醒とほぼ同時に南のフランス共和国の大規模侵攻、北の"竜王種"の縄張り争いによる領土侵犯が起こったのだ。

内、北はこのバシール将軍麾下である"スルー団"が何とか引き止めた。


(これで、"共和国"に集中できる…)


とも言い切れなかった。最大の問題は他ならぬこの国の王なのだから。


「マネ殿もその為に引き戻したのですな」


「そう、です」


「陛下は側付きであらせられた彼女を最も信頼なさっておりましたからな…」


彼女が拒否できない事は実姉である自分が一番分かっていた。封印される少し前、近づき過ぎて朝廷内で噂が立った時、陛下と姉を思って彼女は王の側から離れた。他ならぬ誰よりも王を心配しているはずなのに。


「封印された時も沈黙を守ってくれていたんです。下手に戻って私の権限に影響を与えて事態の混乱を招きかねないと…本当は傷ついた陛下を見たくなかったのでしょうけど」


「宰相殿、貴方が妹君の思いを無視してまでと思っているならそれは彼女への侮辱となりますぞ」


バシールの言葉にモネはハッとした。


「彼女もまたこの三年で色々とあったのでしょう。何があったかは知りませんですが今、この国難に共に立ち向かおうとしてくれている。それは彼女が覚悟を決めたという事なのですよ。それを無碍にしてはなりませんよ」


「そう…ですね」


「忘れてはなりません。我々はまだ人間なのです。貴方のその御心も妹君はちゃんと分かっていますよ。しかし…」


「何です?」


「いや、マネ殿の側にいたあのメリュとかいう娘は大丈夫なのですか?」


バシールの問いについ感傷的になっていたモネは自分を正した。


「問題ないです。素性はすでに把握しています」


「なんと、流石ですな!もう調べていたとは」


「いや、別に調べてはいないのです。向こう…アルプスから実は連絡があったのですよ」


「アルプスですと?」


「あれの正体はアルプス共和国の"七名家"が一角、"槍家"の御息女。本当の名を槍=メリュジーナと言うらしいです」


「これは驚いた。しかし何故その様な要人がオルレアンなんぞにいたのですか?」


「向こうも色々あったようです。兎にも角にも彼女はフランス共和国軍外人部隊所属…その前もアルプス水機団に居たと。お嬢様なんてとんでもない、れっきとした我らが敵軍ですよ」


「ならば尚更その様な者を陛下に近づかせる訳には…」


バシールの言葉を宰相は手で遮った。


「同時に我々にとって重要なカードにもなります。彼女の目的はこの国ではない」


「ほう」


「ウィンター大使ですよ。あの"死の都"からの特使です。彼女が持っている"情報"…それが彼女の、アルプス共和国の目標だ」


「その情報とは?」


「それは分かりませんし知らない方が我々の為でしょう。ともあれ我々は彼女と言うカードを手にしました。上手く行けばこれを使いアルプスと協議しフランス共和国を挟み撃ちに出来るかもしれない」


「確かに…ですが他の者からすればそれは少し弱腰にも見えますな」


「戦争は強さで決まる訳ではないでしょう。ですが、これはあくまで奥の手です。どちらにせよ陛下の"魂"を見つけ出さねば何も始まらない。その間にも敵はやって来る。あの娘が陛下に手を出さないと分かっている以上、我々は彼女に集中している余裕はないのですよ」


そう言ってモネはバシールを連れて歩き出した。廊下を抜け一つ一つ部屋を横切る度に後ろを歩く人々が増える。

そしてある広間、一つ女性の描かれた絵画が一際目を引く広間。そこでモネは止まった。

中では彼女をまつ数多くの魔族、人間が共に待っていた。


「では、諸君。客人の相手をしようか。くれぐれも粗相のないように」

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