表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第三章 竜國炎上 ーParis brûle-t-il?、ー
76/88

竜國炎上18

今から四十年前、"大混乱"から十年が経ってもパリは難民で溢れかえっていた。


「がんばれ!あともう少しだ!」


古民家を改装した簡素な病院で出産があった。


「よし、顔が出てきたぞ」


医師のドワーフが額に汗をびっしりかきながらやっと笑った。もう半日ほど経つほどの難産だった。

だが、やっとの思いで取り上げた赤ん坊から声はしなかった。


「ねぇ、貴方。産まれたの?顔を見せて?」


憔悴しきった妻に男はただ固まるしかなかった。


「ねぇ、貴方…」


「お、おい!?」


「こりゃぁ大変だ!」


妻の股から大量の血が出て毛布を染めていた。医師や看護士たちが懸命に治療にあたったが、あとに部屋に残されたのは男だけだった。

妻と娘の骸に男はただ崩れ去り泣くしかなかった。


こんな運命はずじゃなかった。


あの"大混乱"を二人で生き抜いて、これから三人で家に帰るはずだった。


「こんな、こんな…ありえない」


 お願いです、こんな理不尽に歯向かう力を誰か与えてください。

 そうすれば、この二人を蘇らせて連れて帰れるから。

男は必死に祈った。外で大きな爆発音がした時、男の前で赤ん坊の泣く声がした。


これが、この国の始まりだった。



 その日、共和国全域にラジオ放送が発信された。

"反逆の壁"の外の人々も新聞伝いにそのメッセージを受け取った。


『皆さま、私はフランス共和国第二代大統領、マドレーヌ=マリー・ユーゴーです。

今日は皆様に大切な事を伝えるべくラジオ、新聞を通して発信します。

今朝、我らの最重要防衛地であるオルレアンの街が襲撃されました。

敵は複数…いえ、正直に言えば"大竜"の群れを率いる首領、我らの魔法使いジャンヌが三年前封じたはずのあの"竜王"が目を覚まし襲ったのです。

被害は甚大!防衛機能は辛うじて保っていますが、多くの同志達が犠牲となりました。

大統領府はこれを受け、"ロワール戦線境"を越え、全軍をもっつ我らが故郷"パリ"を奪還する大規模決戦作戦、"マリアンヌ"の発動を予定より前倒し、本日発動しました。

すでに全方面軍司令に大統領令が伝わり皆各々の役目を果たしていると思います。

我々があの日あの炎あの竜に故郷を奪われ、家族親友の亡骸を弔う事すらできず四十年が経ちました。


今も彼らはあの場所にいます。


私の妻もまだあそこにいるのです。

今、この国にいる殆どの人も同様でしょう。

私たちはただ、帰りたい家族に会いたいだけのために長い時間をかけてここまで来ました。

全てはこの日のためにあったのです。

奪われたものを取り戻し、自らの基盤たる故郷をこの手に…』


 放送を聴いていた誰もが喝采した。

ディジョン、カリエール・カバン錬金工房も人々の賑わいで盛り上がっていた。


「俺は直接戦地に向かうぞ!」


「俺もだ!」


「私も!」


「みんな銃を取れ!この日が来たんだ!」


「ちょっと待ちな、アンタ達!」


騒ぐ若者をアンナが止めた。


「アンタらが居なくなったら誰がここの作業をするんだい!銃を取っている暇があるなら鉄を錬成しな!」


「はい!すみません、つい。いよいよ本番ですね!」


「フン…」


そのままアンナは一人工房の奥の部屋に居なくなった。作業机に腰を掛けたアンナは胸元の作業服の中から一つのロケットを取り出した。中には旦那の髪の毛が入っていた。


「何がこの日の為だ。奴らを追い払った所で誰も帰ってきやしない!!」


アンナは机に拳を叩きつけた。


「今の大人アタシは四十年前の心残りを子供たちに押し付けているだけの亡霊じゃないか!!」


アンナは一人、悔しくて泣いた。


その日、フランス共和国内に駐留する軍が各支部より一斉にパリへ向けて出動した。

これを受けて隣接するオーストリア、アルプス、モナコは国境に軍を出動したがルクセンブルクの介入により動向を注視するまでに留まった。



 数日後、"フランス王国"…"パリ"でメリュは目を覚ました。


「ハッ…!」


起きると自分が大きな純白の部屋に寝かされていた事に気づいた。服も白いワンピースだった。


「目覚めたかな?」


「貴方は!?」


 部屋には一人の綺麗な女性がいた。銀の流れるような髪を床まで伸ばした鼻の高い美女…


(この人、竜族だ)


メリュには直感的に分かった。美女は優しく微笑んだ。


「私はマネ。オルレアンで君を保護した姉の代わりに君を看ていた。君は?」


「メリュ…」


メリュはフルネームを言いかけたが止まった。


「メリュか。変わった名前だね」


マネは窓を開けて風を入れた。


「君はなぜあんな所に?」


「話したくない」


「ふふ、警戒心丸出しだね」


外からは心地よい布団を干した匂いがした。


「まあ、ここには少しずつ慣れるといい。話したくなったら私に話してくれてかまわない。パリへようこそメリュ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ