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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第三章 竜國炎上 ーParis brûle-t-il?、ー
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竜國炎上15

 ロワール川を挟んだオルレアンの北側には廃棄された美しい建築群がある。

 ザザザ…!と黒く巨大な影が上を通り過ぎた。瞬間に暴風が建物の隙間から吹き荒れ悲鳴が起こった。


(人の声?何処だ?)


カサットはその声を聞き逃さず、大きく旋回した。


「まずい!野郎、ここに気づきやがった!おいアーサー、"サントクロワ大聖堂"の上に乗るぞ!"選択の加護"をしっかり貼っておけ!」


ジャックとアーサーは息を合わせて高く飛び上がった。

 廃墟群の中心に聳え立つゴシック様式の二つの塔からなる大聖堂の上に降りたつとカサットは眼から紅い閃光が放った。


「そうはさせねぇよ」


閃光に石になるものは誰もいなかった。


「あれは、イタリアの"呪本使い"!」


アーサーたちのいる建物の近くの屋根の上にパバロッティがいた。


「今日はちょっとしくじったからな。挽回させてもらうぜ」


パバロは腰のポーチから数枚の札を出し周りに撒く。札は自ら真っ直ぐ街のあちこちに張り巡らされた。


『水天宮呪詛 返上』


パバロの唱えと共に各地に散らばった札が起点となって鏡のようにカサットと空を映した。


「ロワール川の水域を利用した俺独自の"陰陽道"と"風水"の大技だ。そう簡単には破れねぇぜ!」


「す、すごい…"魔法"の加護も無しに。これがあの英雄の実力!」


 三十年前、アルプス共和国建国以前。まだ日本の"大船団"が到達する前のイタリア半島は正真正銘の魔界であった。

 当時の全人口の八割が魔族化するという事態に政府機能は勿論、残された二割の人々のほとんどが生き残る為のサバイバルを強いられそして死んでいった。

 イタリアという国は太古より北側に人口が密集する傾向にあり、現在アルプス共和国が存在する北側は文字通り焦土と化した。

 一方で南部はナポリを除き比較的人口が密集していない地域が殆どであり、生き残った人々は南部を拠点に少しづつコミュニティを形成していた。その中で"イタリア救済連合"が誕生した。彼らは元々現地に住む魔術師やバチカンの異端審問官たち、神秘を知る者たちの流れを汲む集団であり、その力は絶大だった。

 パバロッティはそのリーダーの息子として生まれた。両親は"魔術師"であり、幼い頃から天才的な才能があった。特に寛容さを求めない"魔術師"たちの中でパバロは古今東西あらゆる"神秘"を集め吸収し、何よりもその"融合"を得意とした。


「足止めはしたぜ、副隊長!!」


パバロは叫んだ。その声を聞いた者は街の中に居た。


『イルモよ、草木を連なれ』


副隊長が唱えた瞬間、街中から異様な樹木が無数の腕の様にカサットを掴んだ。


(お、のれ!!)


カサットは巨大を捩る様に振り回してそれを振りほどいた。


「くそ!また逃したか!ずっとこの調子だ、決め手に欠ける!」


パバロは屋根を飛んだ。ジャックとアーサーは静観してそれを見ていた。


「何とかそれましたね」


「あぁ…」


ほっとするアーサーを横にジャックは少し怪訝な顔をした。


(決め手に欠ける?アイツらあの竜の巨体が落ちた時の被害を心配してんのか?なめすぎじゃないか?)


「中将?」


「ん?いや。俺たちは下に降りるぞ」


二人が倉庫に戻った頃には"反逆体"は全て運び出されていた。


「もう終わったのか!?」


驚くジャックにシェリーが応えた。


「軍人さんの二人が殆どやってしまったわ。女の子だけど凄い怪力なんだもの。アレひとつ八十リーブルはあるのに」


アリアとメリュは涼しそうな顔で荷車に箱を置いていった。因みに二リーブルは一キログラムである。


「どうして若い少女がいるのかと思っていたが、成る程な」


「感心していないで早く運びましょう」


「そうだな。荷車は線路に乗せる様に。そこまでは力を合わせて押し出すぞ!!」


こうして図上で攻防戦が繰り広げられる中、十数台の荷車が線路に向かって進み出した。


 屋根の上からユフォはカサットを双眼鏡を使って注視していた。


「そろそろかな」







 竜と人々が争う早朝のオルレアンの遥か上空の雲の中に人影があった。


「どうにか間に合ったみたい」


金色の髪を朝日に焼かせた少女は街を見下ろしていた。肩から一本のエレキギターをアンプも無しにかけ、チューニングを済ませる。


「あぁ、やっぱり空は音が聞こえ辛いかな。でも、この風の音は好き♪」


適当に独り言を呟きながら朝の風に吹かれながら少しばかりの焦げ臭さを感じる。小さく尖った鼻をスンと鳴らして少女は街の中から光が三回出たのを見逃さなかった。


「連絡通り。開演!」

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