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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第三章 竜國炎上 ーParis brûle-t-il?、ー
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竜國炎上12

 時は少し戻って日の出前にオルレアン全域に警報が鳴らされた。


『緊急警報!緊急警報!北部エリアに敵反応あり!総員直ちに第一戦闘態勢に入れ!』


 けたたましいサイレンがオルレアン中に響き渡り、要塞内の全員が一斉に動き出した。


「急げ!5分以内に会敵するぞ!」


バタバタと様々な人々が廊下を行きかうのを寝起きのルシファは目を擦りながら見ていた。


「あっ!ルシファ起きたか!」


パバロが人ごみをかき分けてルシファの肩を掴んだ。


「急げ!服はそのままでいい!」


小柄なルシファをさらに小柄なパバロは無理矢理押して人ごみの列に流れていく。


「せんせい?何があったの?」


「敵が近くまで攻めてきたらしい。そこ右だ。ユフォたちはすでに配置についている。俺たちも急ぐぞ!」


二人は広場に着いた。


「わかった。じぶんで走る!」


やっと目が覚めたルシファは自分で走り出すと背中を押していたパバロをそのまま担いで走り出した。


「お、おい!?」


「ばしょはどこ?」


「東六番区の船着き場だ!手前の方の先にある!」


「あっちか…捕まってて!」


「お、おい止めろそれは!?」


ルシファはしっかりとパバロを背負うとしゃがんだ。細い太ももが異様に膨張し瞬間に小さな影は上空に上がった。

 ルシファはオルレアンの高い建物よりも遥かに跳躍した。朝の光が東の地平線から差し込みすこし目をそらした時にある影が見えた。"ジャンダルム"の屋根の一つに軽く足を付くとその勢いのままもう一度飛躍する。


「なんだあれ…」


跳躍した風に冷えたわけでも無いのにルシファは体が震えているのが分かった。


要塞の北壁に流れるロアール川に幾つもの軍船が並んでいた。それらに弾薬を送る船着き場にユフォとマサノリはいた。二人は基本的に早起き組であり、警報が鳴る前から行動していたためいち早く来ることが出来た。


「隊長!」


キリが次に来た時には二人はすでに戦闘用ベストを身に着けていた。


「おはようキリ。これ」


ユフォは防弾ベストを軽くキリに投げた。すぐさまキリは装着すると他の所から声がした。


「敵は?」


「わからない。警報1分前に支部から情報が発せられただけだ」


ユフォは少し伸ばした赤い髪をピンで止め、足元の黒く長いカバンから"倶利伽羅"を取り出した。


「マサノリ、君は"眼"を絶対に使わないでね」


「はい。さっき話した通り副隊長の後方支援に回ります」


「キリ、パバロは?」


「あれ?まだ来てないんですか?」


同時にユフォたちのいる広場の建物の屋根が崩れた。


「敵襲か!?」


緊張が走る全員が見つめる中、土煙の中から現れたのはルシファとパバロだった。


「ちょっとずれた?」


「ルシファ!」


マサノリの声に気づくとルシファは困惑する群衆を一飛びで越えてユフォたちの元へやって来た。


「ルシファ、せんせい、到着しました!」


せんせい?と全員がルシファの背中を見ると白目を向いたパバロがいた。はっとパバロが気が付くと周りを見渡す。


「こ、ここは!?一瞬川の向こうに花畑が見えた気がしたが」


「安心して、まだ天国じゃないよ。ルシファ、さっきのは二度とやらないで。禁止。向こうの人たちに謝って来て」


全員の気の抜けようにユフォは少し青筋を立てて笑っていた。


「やべぇ、珍しく素でキレてやがる」


 ユフォから発せられる得体のしれないオーラにパバロは震えあがった。コホンと軽く咳払いしたユフォはまだ日の届いていない暗闇の中で薄く朱色に輝く大刀を腰に差した。


「アリアは車の守護にいったし、あとはメリュか…」


当たりを見渡すがメリュはまだ来ない。急すぎたとはいえ情けなくてユフォは頭痛がした。


「ねぇたいちょう」


「なに?」


ルシファは騒ぎを謝った後、すぐにマサノリから渡されたベストを装着しながらユフォに声をかけた。


「わたし敵みたかも」


自分が飛んできた先、上に指を立てるルシファを見てユフォは空を見た。雲が早く流れていた。


「あれは、竜だ」


一方その頃、メリュは震えていた。理由は自分でもよくわかっていないが、何か強大な者の気配を感じ取っていた。


(この感じ、森の時よりもやばいかも…)


暗い宿舎の廊下は皆で払っていて静かだった。


(ここに居たらだめだ。立ち上がれ私…)


恐怖を何とか振り払ってメリュは立ち上がる。いつもは明るい彼女だが、それは血にまみれた権力闘争の中で生き抜く為の明るさであって、恐怖に震え怯えてしまう事も多々あった。


(ユフォは、どこ?)


力で言えば竜族という他の誰よりも強いはずの少女は自分が強いなどと思った事は一度も無かった。他の兄たちは自分よりも遥かに強く大きく、そして狡猾だった。幼い時から何度も何度もいじめられていたが母親は一度も手を差し伸べなかった。唯一、兄のユリアンが遠征をして居なかった父の代わりの守ってくれた。それでも兄の手の届かない所で他の名家などの魔手が伸びる事もあったし、本当に毎日震えていた。

そんな彼女の前にまさに強さの象徴として現れたのがユフォだった。彼女は槍家が離宮を提供している"剣聖"の護衛兼使いとして槍の畑を訪れた時に出会った。その時メリュは別の兄にいじめられもっと言えば殺されかけていた。それをユフォは躊躇なく助けた。それ以来、メリュはユフォに自ら会いに行くようになった。他ならぬ自分には無い、強さの象徴として。


「何をしている?」


やっと宿舎を出たメリュを一人のドワーフの兵士が止めた。


「お前、外人部隊のガキだな。まあいい。ちょっと手貸せ」


戸惑うメリュの手を強引に男は手を引いて連れて行く。


「ここだ。人手が足りなくてな。頼む」


連れてこられたのはユフォたちとは離れた南三区の補給倉庫だった。


「ん?ああ!ジュルベさん」


倉庫には数人のメリュより年下であろう少年少女が作業をしていた。その内の一人の黒髪のエルフの少女がやって来た。


「ああ、手が足りない様だったからな。連れてきたぞ」


「ありがとう!もう泣きそうだったよ」


「では後を頼む」


そういうとジュルベは敬礼をしてすぐに行ってしまった。


「さて、キミ名前は?」


「メリュジーナ…外人部隊所属の」


「まぁ!軍人さんなの、すごい!」


「いや、そんなに凄くは…」


「軍人さんなら百人力だね!アタシはシュリー、ここを仕切っているの。歓迎するわ!」


 シュリーはメリュの手を強く握りしめると中へと連れていった。

 倉庫内は山のように箱が積まれていた。


「ここは衛生兵用の物資を管理する場所なの。弾薬とか危ない物は大人たちが管理しているけど、こういう包帯とかは私たち子供が管理する事になっているわ」


「避難しないの?」


「まさか、赤ん坊と病人以外は全員戦うのがここで暮らす条件ですもの」


そう話す内に大きな荷物を手分けして運ぶ少年たちの所に来た。


「シュリーさん、そいつは?」


「喜べ、若い軍人さんが手伝いに来てくれたわよ!」


やったー!と少年たちは汗だくなのを気にせず大いに喜んだ。


「彼らの運ぶ物資がちょっと重くてね。悪いんだけど急いでトラックまで運んでくれる?」


メリュは一瞬断ろうかと思ったがシュリーの顔を見て少しユフォに似ていると思い作業を手伝う事にした。それで恐怖を拭いされるかもしれないと心の何処かに言い聞かせながら。

 そして時は戻りオルレアンの城壁の上から誰もが北の厚い雲の中に黒い巨大な翼を見た。


「見ろ!"大竜"だ!」


「デカい…しかも"翼持ち"かよ!"ルノワール"か?"ブーダン"か?"カサット"か?」


「どいつにしろ強敵だ!"ジャンダルム"、一斉照射!」


 指揮官の合図と共に要塞各所に取り付けられた塔からレーザー砲が放たれる。

その砲門の先、雲の中にいた影の主であり巨大な竜、カサットの頭の上にその者は居た。


「ドウ致シマスカ陛下?」


「そのままでよい」


放たれたレーザーは彼らに届く前にカサットが生み出した厚い雲に打ち消されていた。


「コノ"石竜"ノ息二敵ウモノは無イ」


「では始めるか」


その者は人の姿をしていたが明らかに人では無かった。右手を要塞にかざすと指の先から炎が溢れ出す。


「王の威厳を知れ、虫ども」


炎は一ヶ所に集中する鏃の様に放たれ、凄まじい勢いで要塞に放たれ、オルレアン要塞は中の街ごと半分が文字通り音も無く消え去った。

 炎あるいは光の球に吹き消されたのは要塞の西側だった。音も無く人も石壁も家々も塵も残さず消し去った事を誰も気づく事は出来なかったが、その後に続いた灼熱と衝撃波によって発生した轟音に要塞中の者たちが戦慄した。


(なんだ、今のは…この要塞の城壁は対火属性の術式と鉄骨を幾重にも組んでいるんだぞ。大竜の火ですらも相手にしない筈なのに…!)


 外人部隊として消え去った西側の近くにいたアーサーは爆風に吹き飛ばされて来た家財を避けつつその光景に衝撃を受けていた。

 消え去った街の跡には余波の熱で融解した人や石が混ぜ合わさった溶岩の様な物が爆心地に向かって流れ込んでいた。人の死に慣れている筈のアーサーでさえ見た事のない光景であった。


(城壁は摂氏三千五百度まで耐える性能を持つ。やるとしたら、"反逆の壁"の内で旧世界の核兵器を持って来るしか無いが、その厚さ故に此処まで簡単には破られる事は無い。あるとしたら文字通り、恒星クラスの火力を持って来るしか…)


 風通しの良くなった先を見つめながらアーサーはハッとした。


「"恒星"…太陽!!まさか、奴が起きたのか!?」


風が強く北から来ていた。


「ボサっとするなぁ!第六と七の塔はやられたが、まだこの要塞は落ちていないぞ!!」


呆然とする皆を鼓舞する声が何処からか聞こえた。


「そ、そうだ!俺たちはまだ生きている!」


「そうね!"反逆の旗"はまだ消えていない!」


途端に一人一人が自分に言い聞かせるように叫び再び動き出す。


「おい、アーサー!」


ふいにかけられた声に振り向くとジャックが頭から血を垂らしならいた。


「中将!無事で!」


「まーな。我がプライド隊は数人を残して全滅だが…アレがもう一度来る前に"反逆因子"を集積して置かなければならない」


「手伝います。恐らく我がメランコリア隊も同じ様に動くでしょう」


「助かる。パズ部隊長には私から後で話しておこう」


「貯蓄している"反逆体"がある一番近い倉庫はわかりますか?」


「恐らく南の倉庫だろう。シュリーという少女が仕切ってた筈だ。知っているか?」


「えぇ、私の部下が補填を担当していました。私も面識があります。ここの五番通りを行けば近道出来ます」


「よし!ならば直ぐに向かうぞ。そこの三人も付いて来てくれ!」


ジャックとアーサー他部下の三人は急いだ。


「見ろ!霧が晴れるぞ!」


後ろで声がしたがアーサーは振り向かず、前に進んだ。今出来る最善を尽くすために。


ところ変わってオルレアンの北で霧が晴れ巨大な影が姿を表した。


「どうやらただの虫では無かった様だな」


先程、城塞に穴を開けた張本人は影、巨竜の頭の上に腰を下ろした。


「お前が言っていた様な寝起きの運動というには少し面倒だ」


「申シ訳アリマセン」


「罰としてお前が相手をしろカサット。余は帰る」


「エッ…」


「嫌なのか?」


「イ、イエ!御意ニ…陛下、オ任セ下サイ」


カサットに陛下は応える事は無く、頭から宙に浮いた。


「ではな」


「ハッ」


 その小さな人の形は一瞬で光となってカサットの前から消え去っていった。


(まずい、まずいぞぉぉ!)


カサットには明確な焦りが出ていた。


(陛下はどれだけ身近な存在であろうとも気に障れば一瞬で切り捨てるお方。我ながら護衛に付けられていた事に浮かれていた!)


日が昇り、向こうの城から上がる煙の中から光が視えた。


(奴らもう立て直したのか?選ぶ街を完全に間違えたな)


カサットは空を見上げた。朝日に照らされた雲が南に早く流れていた。


(我が、"巻雲"は日の下では使えない。使えるのはこの"魔眼"と爪だけか、あの堅牢な城ならば、正面から乗り込むしかあるまい…!)


カサットは大きく息を吸った。


「ウォオオオオオオオーーー!!!」


巨竜の叫びに周りの空気が弾き出され周囲全体を揺らした。


(我は実行するのみだ!!)


カサットは揺れが収まる前にその巨体でもって突撃を開始した。

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