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竜の眼の魔術士  作者: 花嵐 龍子
第三章 竜國炎上 ーParis brûle-t-il?、ー
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竜國炎上10

 パリより南、ロワール川の要としていつの時代も戦略的重要地として"オルレアン"はあった。

特に川の南岸側は何度も要塞が築かれており、現在も堅牢な要塞が川沿いに長く横たわっていた。

北側に広がる森を抜ければもうそこは"最強の竜"が占領する"パリ"であり、要塞はかつてないほどの堅牢さを誇っていた。


「ようこそ我がオルレアンへ」


 無事ピンツガウアーで街にたどり着いたユフォの一行は魔除けの呪符や対竜の結界が何重にも付与された青色の石が積まれた城砦の入り口で出迎えを受けた。


「我々の編成を許可して頂き感謝します。ジャック中将」


 出迎えたのはこの"オルレアン要塞"に駐在する外人部隊を率いる不精髭の似合うヒューマンの男性、ジャック・ド=ラヴァル中将であった。


「丁度、三部隊ほど不足しててな。キミたちは何人だ?」


「編成するのは私を含めて八人です」


「他は?」


「残り三名は支援担当です。一人は昏睡状態ですが…」


「なんだ、首都に置いてこなかったのか?」


「ある事件の重要参考人でして、他の二人は監視ですね」


「なるほどな…まぁ、入りたまえ」


 ジャックの合図と共に巨大な門が開かれ二台のピンツガウアーは要塞に侵入した。

 要塞内は街になっており、中央通り沿いに多くの商店が並び、子供達が駆けていた。無機質なトゥーレを通って来たマサノリ達は余計に生活感を覚えた。

 通りの駐車場に車を停めるとエルーとサトウから離反した者の一人であるヒューマンのアイガーと猿の獣人シュタイヤがタカの監視の為に残った。

 隊長ユフォ、副隊長、パバロッティ、キリ、メリュジーナ、アリア、ルシファ、マサノリの八人はぞろぞろとジャックの後をついて行った。


「お姉ちゃん、どこからきたの?」


 突然の声にキリが振り向くと小さな女の子がいた。


「それは…」


キリはジャックを見た。


「問題ない。答えてくれ」


「私たちはアルプスからきたのよ」


「アルプス?森の向こうの?」


「そう」


 少女が次に何か言う前に母親が強引に抱きあげて行ってしまった。


「随分と子供や非戦闘員が多いんですね」


「まぁな、防衛力で言えばこのオルレアンが一番だ。皆、最強の盾が目の前にある方が安心するのさ。特に非力な奴らほどな。あそこの塔が見えるか?」


ジャックは街の西側を指差した。青いレンガで積まれた塔が聳えていた。


「あれは"ジャンダルム"と言って対魔族用高火力の砲台が二十器配備してある。あれが完成してから子供連れの移住者があとをたたない」


ジャックは少しため息をした。


「とはいえ、人が増えるばかりで戦闘員は全く増えない。トゥールからの物資が無ければあっという間にここは終わってしまう状況にある」


「最重要拠点に弱点があるのはまずいですね」


「しかも日に日に大きくなっているのはな大問題だ。だが、それももうすぐ終わる」


ジャックはひとつの扉を開けた。


「改めてようこそ。我が第七外人部隊へ」

扉の前には"七つの炎の手榴弾"の旗が掲げられていた。


"第七外人部隊"は七つの中隊で構成された大隊規模の部隊である。別名を"七つの罪"といい、それぞれ人の罪を冠した隊名を持つ。


「一月前のオルレアンの森での戦闘でグラトニー隊とラスト隊が壊滅してな。生き残りをスロウ隊と再編成している途中だったのだ。君達にもここに加ってもらう」


ユフォ隊はスロウ隊を二つに分けたヴァニティ隊とメランコリア隊の内、ヴァニティ隊に編成された。


「"虚飾"ね…」


「今回の作戦はヴァニティ、メランコリア、プライド、ウェンディの四部隊に参加してもらう。各々に区別はなく、モンブラン大将の第3軍の指揮下に入る事になる。いいか?」


ジャックの問いにその場にいた各小隊長は沈黙した。この総員でのミーティングでは外人部隊としてか様々な種族が入り乱れていたが、ユフォ隊は特に異彩を放っていた。


「見ろよ"赤い髪"だぜ」


「女子供もいるじゃねえか」


「角生えてる奴もいるぞ。"穢血"じゃないのか?」


「あんなのに背中を預けるのか?」


「おい!うるさいぞ!」


ジャックの一括に小声は失せた。


「彼らはアルプスの猛者たちだ。個々の戦闘能力なら他の部隊よりも期待を寄せている。他の者たちも暇を持て余さず活躍する様に」


ミーティングは進んで行った。


「大丈夫か?」


 窮屈なミーティングを終え、オルレアンの城壁の屋上でユフォは一人夜風に当たっていた。

 声の方を見ると、金髪を月明かりに輝かせたヒューマンの青年がいた。


「同じ部隊の…失礼名前を存じない」


「アーサーだ。アーサー・グラント大佐」


 アーサーの指し出した手をユフォは握り返した。


「よろしくお願いしますアーサー。貴方は英国の出で?」


「両親と揉めてね。知り合いの隊なんだ…それはタバコかい?」


ユフォは黒いタバコの様な物に火をつけていた。


「リトルシガーです。実家が煙草農家を営んでいるのでこれで望郷に浸ってます」


 ユフォは箱から一本取り出してアーサーに促したが首を振られた。


「紙巻きはしないのかい?」


「アルプスで紙は貴重でして、気が引けます」


「なるほどな…ここは良い風が吹くだろう」


「少し肌寒いですけどね」


 ユフォは吸殻を携帯灰皿に捨てるともう一本に火を付けた。


「あの程度の扱いはまだ優しいものです」


「そうなのか?」


「えぇ、真面目に取り合ったら負けです」


 ユフォは煙を舌の上で転がした後ゆっくり吹いた。

副流煙にアーサーは目を痛め咳混んだ。


「わ、私は君達を対等に思っているよ」


 アーサーの言葉にユフォは特に答えず、まだ途中のものを川に捨てた。


「では、私はこれで」


 風に雲が流れて月明かりがさした。ユフォの真紅の髪が粒子を靡かせていた。

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