竜國炎上9
ディジョンの西四百二十キロメートル、パリの南西二百四十キロメートルの所に巨大な黒い四角形の群体が連なっていた。
ここはトゥール。かつて皇帝ルイ十一世の時代にフランスの首都としてあった歴史的な街である。
大混乱以前はディジョンと同じく歴史的建造物がロワール川沿いに並ぶ美しい観光地であったが、今はその全てが壊され一つの巨大な倉庫として機能していた。
「ここらかオルレアンまでどれくらいなのですか?」
ユフォ率いるスワロウテイル隊は列車に乗り無事にトゥールに入った。無機質な四角形の中にはパン屋などが並び意外と生活味があった。
キリは案内人のエルフの男性アンドレに尋ねた。
「ここからオルレアンまでは約百二十キロメートルある。行くには軍用車でしか行けないがまぁ一時間くらいだろう。君たちはその車で行くのか?我々の車の方が高性能だぞ?」
アンドレはユフォ達の後ろの二台のピンツガウアーを見た。
「色々思い入れがありましてね。それに《電気》は外では使えないでしょう」
「ハハハ、それはそうだ。いや、失礼した。何、君たちを疑っている訳じゃない。君たちの調査は首都で充分にしたしな。錬金工房にも助力してくれたし、信頼は得ていると思ってくれ」
「それはありがたいです」
荷物と車を下ろし、手続きにユフォと副隊長が向かう間、マサノリ達はトゥーレの大広間で待機していた。
「なんか、シャンベリーみたいだね」
「ひろいけど、くらい。森ににてる」
大きめのバゲットに噛みつきながらメリュとルシファは吹き抜けの天上を見上げていた。暗い天上は所々自然光が入る様になっており、微かな光が漏れていた。
「エルーさん、アリアと…父は車ですか?」
「うん、側に居たいって。僕も今から行くよ。何か?」
「いや、特には無いですけど…父は、何故眠ったままなんですか?」
「うーん僕もあくまで看護士だから詳しくはわからないんだけど、副隊長曰く自分に"呪詛"を掛けて意識を封印したらしいね」
「封印?」
「そう、封印。だから彼の身体は今時空が停止しているんだよ。仮死状態ってかんじかな。基本的に"呪詛"の解除は掛けた本人にしか出来ないから手の付けようがないんだ」
「そう、なんですか…」
それ以上言葉が出ないマサノリにエルーもなんと言葉をかけたらいいのか分からず肩を手で叩いた。
「みんな、手続き終わったわよ!」
副隊長の声に皆振り向いた。全員私服姿ではあるが、その動きは確かに軍人であった。
ユフォはいくつかの書類を手にしていた。
「歩きながら話すけど、これから私達はオルレアン要塞駐在の外人歩兵部隊と合流する。この大統領令によると、そのまま三日後に行われる大規模な作戦に参加してパリに入る」
「大規模な作戦?ずいぶん急ですね」
「この一週間で状況が結構動いているらしい。六時間前にも敵の竜族と交戦になったそうだよ。ともかく、作戦内容についてはオルレアンに付いてからかな」
通路を抜けるとピンツガウアーが並びアリアがエンジンを付けていた。
「新兵三人にはもう少し時間が欲しかったけど、仕方ない。全員、ここからは気を引き締めるように」
こうして、ユフォ達スワロウテイルはオルレアンへと向かった。
トゥーレから去っていく車列を一人、四角形の上からギターを弾きながら眺めている人物が居た。
「さてと、私もライブの準備しなくちゃね!」




