魔森巡礼42
それからマサノリは気を失ってしまったので覚えていないが、目が覚めるとフカフカのベットの上にいた。辺りを見ると、頭上の開いた窓から木漏れ日とそよ風が入って来ていた。すぅすぅと音がした方を見るとルシファとメリュが寄せ合うように座りながら眠っていた。
「ここは…医務室?」
「あぁ目覚めたようだね」
気がついたエルーが白衣を着てやって来た。
「エルー、さん?」
「やぁ。調子どう?」
マサノリは体を動かそうとしたが、とても重くて動けない。
「あぁ、無理はしなくていいよ」
マサノリは力を抜いた。
「俺は、どれくらい眠っていたんですか?」
「ざっと一週間くらいかな」
「そんなに」
「二人に後でお礼しなよ、ずっと君に付いていたんだ」
エルーは薄い毛布をルシファとメリュに優しく掛けた。
「そうします……あれから、どうなったんですか?」
「あぁ」っとエルーはコップを棚から二つ取り出し、そばの大きな瓶から水を注いだ。
「まず、ここは"フランス共和国"の首都ディジョンだ。基地の医務室の一つを宿舎として貸して貰っている」
水をマサノリの側に置くと、マサノリの上半身を起こして座らせた。
「一応、ビリガー君意外は無事だ。彼は残念だったが、あの混乱の中でよく皆生き残ったものだよ」
「……」
「そして、"森"だが完全にあの巨大な"木人"に取り込まれて無くなってしまったよ。なんでも剣聖様が倒してしまったらしい」
「"剣聖"…」
「アルプスの"西警隊"はそのまま剣聖様と一緒に本国へ戻って行ったらしい。僕たちはフランスの"魔法使い"に助けて貰ったんだ」
「"魔法使い"?」
「うん。"反逆の魔法使い"にね。あの時、君の眼の暴走もその人が止めてくれたんだ。流石だよ」
「暴走…?」
マサノリ自分の右眼をさすった。観えている筈だが、何か透明な紙の様なものが貼られているのが分かった。
「今は"呪符"で抑えているけどその右眼はまだ暴走状態にあってね…覚えているかい?あれは僕もびっくりしたよ」
そこでマサノリはようやく思い出した。
あの高揚とした全能感が未だ手に残っている。
「痛っ…」
急に両手に痛みが走った。反射的に手を出すと両手の甲の一部が黒く変色し鱗の様になっていた。
「痛むかい?待ってて今痛み止めを持って来るから」
「これは…?」
「"代償"だよ」
「えっ?」
傍をみるとメリュが起きていた。
「マサノリ、おはよう」
「おはよう…あの、"代償"って?」
メリュは少し眠たそうにしながらルシファを壁にそっと寄せてからマサノリの方に来た。
その顔は至って真剣だった。
「これは竜ならざる者が竜の財宝に手をかけた事によって起こる"罰"…」
「罰…?」
「そう。その右眼は竜の一番の財宝に手をかけたんだ。竜は財宝を取られるのが一番嫌だから。だから罰が降りた」
「どんな?」
「わからない。でも、その黒い痣と鱗は体を確実に蝕んでる。竜の眼はまだマサノリを主とは認めてないのは確かだよ」
「なんで君にはわかるの?」
「それは彼女が"竜族"だからさ」
エルーが薬を持って戻って来た。マサノリに飲ませると手を診る。
「一応動いても問題は無さそうだけど、もうしばらくは安静が必要だね。」
「あの、彼女が"竜族"というのは?」
「そのままの意味だよ。彼女はアルプス国唯一の"竜族"にして"七名家"の一つ"槍家"の出身なんだ。君も見ただろう?桜色の飛竜を」
「あれは彼女だったんですか…」
「と言ってもクォーターだけどね」
「私、槍=メリュジーナ!メリュって呼んで。改めてよろしく!」
メリュは少し引き気味のマサノリの手を強引に握手させた。
「よ、よろしくメリュ…」
「うん。目覚めたんだねマサノリ君」
メリュの後ろからユフォがパンなどが入った紙袋を持ってやって来た。
「先程目覚めました。今経緯を説明している所です」
「ありがとうございます。私はそういうのが苦手なので助かります」
「副隊長たちと一緒では?」
「パバロとキリとで車の部品を取りに行ってます。そのまま修理場に行くそうなので今日は戻らないかも」
「意外と早かったですね。部品出来るの」
「腕のいい"錬金術師"と職人がここにはたくさんいますから。でも、まだまだ掛かるかな」
ユフォはとてもカジュアルな服装であったが腰にはやはり"倶利伽羅"を帯刀していた。
「さてと、マサノリ君。いいかな?」
「はい」
「君の処遇について話たいんだけど、メリュ、ルシファちゃんを連れてって」
「オーキドーキ!」
メリュはルシファを軽々と担ぐと違う部屋へ連れて行った。
「それでね、私たち"スワロウテイル隊"はまだ"任務継続中"なんだ。もちろん君も隊の一人だ。つまりは君も"軍人''で任務を遂行しなければならない。これはいい?」
「…はい。わかっています」
「次にフランス共和国政府はこの任務に原則加担しない立場になったんだけど、ある条件が着いたんだ」
「条件ですか?」
「今、この国は戦争状態にあるのだけど、これに協力する。つまりは参戦するという条件がね」
「戦争…」
「私としては向こうの敵側に私たちの目標を知る"重要参考人"がいるという情報が手に入って、参加したいのだけど、君の意思が聞きたくて」
「俺の、意思?」
「君には今、"魔術"の知識が必要だ。つまりその"右眼"を制御する為の知識が。それはつまり"魔術士"に君がなるという事でもあるんだ」
「"魔術士"…」
「君が"軍人で私の隊に参加すると言うのなら強制的でも力をつけて貰わらないといけない」
「断ると?」
「君は秘密保持の為、たぶん死ぬ事になる」
ハァとマサノリは深くため息をした。少し、考えた。
そして、まっすぐユフォを見た。
「やります。今、俺は、誰かを守る力が欲しい。やらせてください」
「ありがとう…よろしくね」
ユフォは少し笑い握手を求めた。
「よろしくお願いします、隊長」
マサノリは力を入れて、自力で身体を動かして握手に応じた。
外の風が強くなった。秋を迎えようとしていた。




